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Episode 38:前編

Episode 38:前編


「ロンドン・チェックメイト(C-H-E-S-S)――白猫の王立庭園パズル」


ヤードの広域地図に刻まれた十字

「ホームズ、バーバラ、ちょっとこれを見て。今朝、ヤードの通信室に届いたモリアーティからの挑戦状よ。


今回はいつもの電脳ウイルスじゃない。ロンドンの広域地図に、赤いマーカーで5つの巨大な『王立公園ロイヤル・パークス』がマークされているの」


ハナコ・ハート刑事がヤードの作戦室のデスクに広げたのは、ロンドン中心部の精巧な航空地図だった。

そこには、ヘンリー8世の時代から続く5つの歴史ある公園が、不気味な黒い線で結ばれている。


セント・ジェームズ・パーク1532年ロンドン最古の王立公園。ヘンリー8世がハンセン病病院跡地を買収し、狩猟園とした。


ハイド・パーク1536年ヘンリー8世がウェストミンスター寺院から没収し、王室の狩猟場とした起源を持つ。


グリーン・パーク1668年頃もとはハイド・パークの一部。チャールズ2世が整備・囲い込みを行った。


ケンジントン・ガーデンズ1728年キャロリン王妃がハイド・パークの西端を分離させ、宮殿の庭園として造営。


リージェンツ・パーク1811年建築家ジョン・ナッシュが都市計画として近代設計し、1845年に一般公開。


(ふむ……。ロンドンそのものを巨大な『チェスボード』に見立てたな、白猫め。これら5つの公園の配置、そしてそれぞれの『設立年』と『土地の起源』には、歴史の連続性を利用した精緻な幾何学パズルが隠されている)


ポケット・ビーグルのホームズは、椅子の背もたれからデスクへ飛び乗ると、鋭い知性を宿した瞳で地図を凝視した。


「ホームズ様、私、この5つの公園の歴史を調べてみて気づいたべ」


ヤードのフロントからお茶を運んできたバーバラが、素直な視線で地図のデータを指差した。


「どれも昔は王室の『狩猟場ハンティング・グラウンド』だったり、他から『没収・分離』された土地だべ。つまり、誰かのテリトリーを力で囲い込んだ歴史を持っているべ……これ、チェスの『駒を奪い合うルール』そのものじゃないべか?」


(素晴らしいぞ、バーバラ君! 君の素直な歴史解釈は、私のロジックの1手目を完璧に捉えている!)


「ワン!」


ホームズのブロック配列と、バーバラの直感解読

ホームズはデスクの脇にあったアルファベットブロックを5つ、前足で完璧な直線状に並べ替えた。


[ C - H - E - S - S ]チェス

(ハート君、バーバラ君。白猫の罠は、これら5つの公園の『設立年の古い順』、つまり歴史のタイムラインに沿って連動する、低周波の電磁指向性トラップ(ナイト・フォーク)だ。

ロンドン最古のセント・ジェームズ・パーク(1532年)の地下に仕掛けられた基点から、ハイド・パーク(1536年)、グリーン・パーク(1668年)へと、歴史の古い順に電磁パルスがチェスの駒の動き(L字型)で街の地下回線を伝っていき、最後のリージェンツ・パーク(1811年)に到達した瞬間、ロンドンの全金融オンラインシステムが強制チェックメイト(完全フリーズ)される!)


ハート刑事は黒髪のウェーブを揺らし、ホームズが並べた「C-H-E-S-S」の文字を静かに見つめた。大ボケをかます余裕などない、ロンドンの電脳経済を人質に取られた極限のパズル。


「……なるほど。チェス(CHESS)。

今回は私たちが『キング』を守る側で、白猫が『クイーン』を使ってロンドンの歴史の隙間を攻め立ててきているのね。

各公園の設立年の差、そして位置関係が、そのままパルスの移動速度テンポを決定しているんだわ」


「そういうことだべ、ハナコ姉様!」


バーバラが地図のデータをノートに書き写しながら、素直にホームズのパズルを読み解いていく。


「最古の1532年から、一番新しい1811年まで、時計の針が進むみたいに電磁波が街を囲い込んでいくべ。

今、最初のセント・ジェームズ・パークの地下センサーが不穏な数値を出し始めてるべ! これを止めるには、歴史の順番通りに公園の『起点』を物理的にシャットダウンしていくしかないべ!」


(その通りだ。バーバラ君、君の素直なタイムライン解釈のおかげで、パルスの到達予想時刻がミリ秒単位で完全に逆算できた。ハート君、ヤードの特別特殊車両を出すぞ。タイムリミットは、チェスの1手と同じ――あと15分だ!)


ロンドン盤上のテイクオフ

「行くわよ、ホームズ、バーバラ! ロンドンの歴史を、白猫の好きにはさせない!」


ハート刑事はトレンチコートを翻すと、ホームズを助手席へ、バーバラを後部座席に乗せ、ヤードの最新鋭パトカーのアクセルをノーリミッツに踏み込んだ。


サイレンを鳴らし、深い霧の向こう、1532年の歴史が眠る最古の王立公園「セント・ジェームズ・パーク」へと滑り出すパトカー。


ロンドンの広大な敷地をチェス盤に変えた白猫モリアーティの冷徹な仕掛けに対し、名探偵の完璧なロジックと、それを素直に受け止めてサポートするバーバラ、そして最前線でハンドルを握るハート刑事のチームワークが、今、盤上の戦いへと飛び出していく。


(モリアーティ……。ヘンリー8世の時代から続くロンドンの歴史を、貴様のチェス盤にはさせん。すべての駒の動きを読み切り、貴様の白きクイーンの喉元に、我がロジックの牙を突き立ててやろう)


「ワン!」と、街中に響くサイレンの音とハモるように、助手席のポケット・ビーグルが鋭く吼えた。


凸凹バディと頼れる助手バーバラの3人は、白猫の仕掛けた歴史の罠を解き明かすため、最初のチェックポイントへと猛スピードで突入するのだった。

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