Episode 37 後編
Episode 37 後編
「遥かなる未来への誓いと、時空不変のチェックメイト(L-E-A-P)」
裂け目の残響と、最後の審判
ベーカー街221Bの地下で未来のサーバーを粉砕し、19世紀の歴史を守り抜いた凸凹バディ。
しかし、ヤードのオフィスへと戻った彼らを待っていたのは、解決の安堵ではなく、部屋の中央にぽっかりと浮かび上がる**「時空の歪みの最終形態」**だった。
アメジスト色に怪しく明滅する光の裂け目。その向こう側には、第一作で見た
「21世紀のロンドン」
の景色――光り輝くロンドン・アイと、天を突くザ・シャードのシルエットが、まるで蜃気楼のように激しく揺らめいている。
(……やはりな。未来のテクノロジーを無理やり過去へ逆輸入した反動で、二つの時代の境界線が完全に崩壊しかけている。このままでは、19世紀と21世紀のロンドンが互いに引き合い、両方とも次元の藻屑と化すぞ!)
ホームズの電脳(脳細胞)が弾き出した破滅へのタイムリミットは、わずか180秒。
そしてゲートの傍らには、まるでこの世界の終わりを見届けるかのように、一匹の白猫モリアーティが静かに佇んでいた。奴のオッドアイは、まるで
「さあ、名探偵。君はこの次元のチェス盤で、どんな最後の一手を指すのかね?」
と問いかけているようだった。
ガジェットの覚醒と、永遠の四文字
「ホームズ! 私のスマホが、未来の5Gどころか、なんか宇宙のエネルギー(?)を吸い上げて、画面がノーリミッツに火花を散らしているわ!」
ハート刑事の持つ端末が、時空の裂け目から漏れ出る純粋な時間エネルギーと共鳴し、超高熱を放ち始める。このエネルギーを暴走させずにゲートへぶつけ、次元の歪みを「溶接」しなければ未来も過去も救えない。
ホームズは、これがガジェットを使用できる本当に最後のチャンスだと確信した。
よだれを滴らせる暇もない。彼はキーボードの上に飛び乗ると、これまでの旅、21世紀の驚異、そして19世紀の誇りのすべてを込め、次元を固定するための「絶対不変の数式コード」を4つのアルファベットに凝縮して打ち込んだ!
[ L - E - A - P ](リープ / 時代を超える絆)
画面から放たれた虹色の光のコード。
それを対面からスキャンしたハート刑事の網膜(写真記憶)が、時空の因果律を置き去りにして最後の逆転翻訳を弾き出す!
「『P』『A』『E』『L』……パエル! 永遠の平穏!! ……あーーーーっ!」
(……! パエルをそこまで壮大な平和の概念(Peace All)に昇華させたか!! 素晴らしい、それでいい、ハート君! 普通に『LEAP(跳躍)』の逆立ち読みだが、今の君の言葉には神が宿っている!)
「分かったわ、ホームズ! これは、私たちが150年の時空を超えて紡いだ『L(論理)』『E(進化)』『A(愛)』『P(情熱)』……そのすべてを私のルブタンのヒールに一本化して、この次元の裂け目ごと、美しい未来の彼方へ蹴り閉じろ(PEACE-ALL)っていう、世紀のグランド・フィナーレ命令ね!?」
(その通りだ、ハート君! 君の翻訳はいつも私の論理の遥か斜め上を爆走していたが、その根底にある『純粋な正義』だけは、150年の時間を超えようとも、決して変わることのない絶対の真理だ。さあ、ロンドンの未来を、君のその足に託すぞ!)
時空不変のグランド・フィナーレ
「過去も未来も、ヤードの正義がある限りノーリミッツよ! 私たちの生きた証を、150年後のロンドンへ届けなさい!!」
ハート刑事はホームズをしっかりと左腕に抱きかかえ、ヤードのオフィスを激しく蹴り上げて宙へと舞い上がった。
彼女のポニーテールが、過去の霧と未来の光を同時に巻き込んで、美しく壮大な螺旋を描く。
タイマーが「00:00」を告げる瞬間、ホームズが端末の全エネルギーをゲートの臨界点へと一斉放射!
ドゴォォォォン!!!
その光の奔流の真ん中へ、ハート刑事の容赦のない、次元の壁すら美しくひれ伏させるほどの強烈な空中三連後ろ回し蹴りが炸裂した!
「てりゃぁぁぁーーーーっ!!!」
ルブタンのヒールが次元の裂け目を直撃した瞬間、空間がガラスのようにパリンと音を立てて割れ、次の瞬間、凄まじい光の帯となって収縮していった。
19世紀のベーカー街の霧、21世紀のシャードの輝き、スピーディーズ・カフェの喧騒……すべてが元の正しい時間軸へと収まり、ゲートは完全に「蹴り閉じられた」のだ。
白い宿敵は、ゲートが閉じる最後のコンマ一秒、満足そうに喉を鳴らすと、本来の闇の眷属へと戻るように、霧の彼方へと姿を消した。
霧の都の朝焼け
「……ハァ、ハァ……。やったわね、ホームズ。なんだか、ものすごく遠い夢を見ていたような気分だわ……」
ヤードのオフィス。窓の外からは、いつもの19世紀のロンドンの、煤けた、しかし愛おしい朝の喧騒が聞こえていた。
ハート刑事のスマートフォンは、未来の5G電波を完全に失ってただの黒い鉄の塊(文鎮)に戻り、ホームズのタブレットも完全にブラックアウトして、二人は再び「文字ブロックと新聞紙」のアナログバディへと戻った。
しかし、二人の心には、あのザ・シャードから見下ろした美しい未来のロンドンの光景が、確かに刻まれていた。
ホームズは、ハート刑事の足元にトコトコと歩み寄ると、そのルブタンのつま先を、お疲れ様と言うようにコツンと突いた。
(フッ……。未来のロンドンに、私のスタイリッシュなドラマが飾られていようとも、私は今のこの姿が気に入っているよ。言葉は通じず、ガジェットはなくとも、君のキックさえあれば、大英帝国の平和は150年先まで安泰だからね)
「ふふ、そうねホームズ。ガジェットがなくても、私たちは目と目で通じ合うパーフェクトなバディだものね!」
ハート刑事がホームズを優しく抱き上げ、朝日に輝くロンドンの街並みを窓から見下ろす。
150年の時空を駆け抜けた大冒険は終わり、凸凹バディは再び日常の事件簿へと戻っていく。
大英帝国の母なる川テムズの流れのように、時代は変われど、二人の正義と強い絆は、永遠に変わることはないのだ。
「ワン!」と、霧の都の朝焼けに、世界一知的な生の声が美しく響き渡るのだった。




