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Episode 34:前編

Episode 34:前編


「テムズの波頭と、ドーナツの甘い罠(C-R-U-I)」

テムズ川の優雅な(?)洋上ミーティング


「わあぁぁ……! 大きな川だべ! ビッグ・ベンが水の上に浮いてるみたいに見えるべ!」


ロンドンの中心を堂々と横断するテムズ川。その水上を滑るように進む「テムズ川クルーズ」のデッキに、賑やかな一行の姿があった。


ホネホネビルの新管理人となった超・田舎娘のバーバラと、その経営指南役であるポケット・ビーグルのホームズ。

そして今回は特別に、ホネホネビルの1階に新規出店が決まった、ロンドンで大人気のポップ・ドーナツ店『ゴールデン・リング』の店員、トビーも一緒だった。


「いやあ、バーバラさん。まさか新作ドーナツのテナント打ち合わせを、こんな素敵な観光船の上でやるなんて、都会のビジネスは粋ですね!」


トビーはカラフルなドーナツが詰まった試作箱を抱え、感激している。


「ハナコ姉様から『水揚げを増やすなら、景色のいいところで脳をノーリミッツに刺激しなさい』って、乗船券を貰ったんだべ!」


(……やれやれ。ハート君らしい大雑把な計らいだな。まあ、ロンドン・アイやロンドン塔を水上から眺めながらのミーティングというのも、脳細胞の活性化には悪くない)


ホームズは船のキャビンシートの上で優雅に毛並みを整え、首輪の通信インカムのボリュームを調整した。


試作ドーナツと、洋上の違和感

「さあ、犬の神様、トビーさんの『ハニー・ナッツ・ドーナツ』の図面(事業計画書)だべ! 都会の若者にウケるか、見てほしいべ!」


バーバラがタブレットをホームズの前に広げる。

トビーが差し出した試作品のドーナツは、甘く香ばしい香りを漂わせていた。

ホームズはインカムを通じて、バーバラに的確なアドバイスを飛ばす。


『ふむ、トビー君。このドーナツの円の比率は美しいが、テムズ川の観光客をターゲットにするなら、歩きながら食べられるように中央の穴をもう少し大きくし、紙包みの形状を工夫すべきだね。バーバラ、彼にその「比率」を教えてあげなさい』


「分かったべ! 牛の鼻輪と同じサイズにするべ!」


「なるほど! 鼻輪サイズですか! 持ちやすくて最高ですね!」


トビーとバーバラの「パーフェクト・リンク」な会話により、ホネホネビルの新メニュー開発は信じられないスピードで進んでいく。


しかし、名探偵の鋭い嗅覚は、ドーナツの甘い香りの裏に、もうひとつ、奇妙な**「ケミカルな臭い」**を察知していた。


船がタワー・ブリッジの近くに差し掛かったその時、隣を並走していた別の水上バスのデッキから、黒いスーツを着た数人の男たちが、こちらの観光船の「燃料給油口」をじっと凝視しているのが見えたのだ。


(……待て。あの男たちの手にあるのは、遠隔式の液体混入デバイスか? 観光船の燃料に特殊な凝固剤を混ぜ、エンジンを洋上で非常停止させる気だな。奴らの狙いは……この船の乗客か、あるいは……)


バディの「クルーズ(CRUI)超翻訳」

ホームズは、すぐさま事態の急をハート刑事に伝えるため、タブレットの端に前足で素早く4つのアルファベットを打ち込み、ヤードの通信網へ送信した。


[ C - R - U - I ](クルーズの頭文字)


その頃、ヤードのオフィスで「水揚げチェック」を終えたばかりのハート刑事は、手元の端末に届いたホームズからの緊急コードをスキャンした。もちろん、画面は対面からの「逆さま(上下反転)」状態である。


「『I』『U』『R』『C』……イウルク。イウルク……。……あーーーーっ!」


ハート刑事のポニーテールが、テムズ川の川風を感知したかのように激しく揺れる。


「分かったわ、ホームズ! あなた、テムズ川の底から、古代ロンドンの**『居直り巨大イラクサ(IURC:イウルク)』**が異常繁殖して、観光船を丸ごと飲み込もうとしてるって言いたいのね!?」


(なぜだぁぁぁーーー!! 洋上の危機を知らせたのに、なぜ川底からプレシオサウルスばりの凶悪植物が襲いかかってくる設定になるんだ!! 普通に『CRUISEクルーズ』の略と読みたまえ!!)


「確かにさっき、ヤードの河川環境レポート(写真記憶)で『テムズ川の藻の繁殖クルーズに注意』って書いてあったわ! よし、バーバラとドーナツ店員を巨大イラクサの触手から救い出すために、今すぐパトカーで川のど真ん中へ突撃よ!」


(違う! 植物ではない! ……いや、待て。ハート君の言っている『河川環境レポートの座標』……それは、密輸組織がヤードの監視の目を盗んで、川底の廃パイプラインを中継拠点にしているエリアだ。奴らはこの観光船を洋上でパニックに陥れ、その騒ぎに紛れて地下パイプから大量の密輸品を引き上げる算段か……! ハート君、君のイラクサ妄想は環境保護団体の悲鳴が聞こえるレベルだが、敵の『犯行現場の座標』の特定だけは、やはりロンドン中のどのレーダーよりも正確だ!)


迫り来る洋上の包囲網

「おい、仕込みは完了した。あと3分でこの船のエンジンは止まる。騒ぎを起こして、ヤードの警備艇を引き付けろ」


並走する不審船の男たちが、冷酷に笑いながら無線で指示を出した。

テムズ川の穏やかな波間の上で、バーバラたちの乗った観光船のエンジンが、不穏な不整脈を打つように「ガタガタ……」と震え始める。


(フッ。大英帝国の母なる川を、貴様らの汚れた密輸の舞台にさせるか。洋上のチェスボードでも、チェックメイトを決めるのはこの名探偵だ)


「ワン!」と、カモメの鳴き声をもかき消す、凛々しい生の声が一鳴き。

ドーナツの甘い香りと、迫り来る洋上の大危機へ向けて、凸凹バディの新たなる戦いのホイッスルが鳴り響く!

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