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Episode 33:後編

Episode 33:後編


「水飛沫のグランド・クロスと、名画を救うチェックメイト(F-O-U-N)」

噴水の逆流、そして開戦

「カウントダウン……3、2、1、起動アクティベート!」


トラファルガー広場の片隅で、観光客に扮した美術品窃盗団のリーダーが不敵な笑みを浮かべ、リモコンのスイッチを押した。


その瞬間、ナショナル・ギャラリー正面の巨大な噴水が、まるで激怒した龍のように轟音を立てて逆流を始めた。水圧が一気に跳ね上がり、四方に激しい水飛沫が飛び散る。


「ひゃあ! 噴水が暴走したべ! お水が降ってきたべ!」


バーバラがお下げ髪を濡らしながら叫ぶ。

広場が混乱に包まれる中、美術館の自動防犯シャッターが作動エラーを起こし、ガガガと中途半端な位置で停止した。噴水の底に沈められた電磁パルス装置が、セキュリティの電気系統を完全にショートさせたのだ。


「そこね! 名画を狙うヌード・アジトの入り口は!」


ハート刑事は、ずぶ濡れになりながらも、鋭い眼光(写真記憶)でシャッターの隙間へ滑り込もうとする黒服の男たちを捉えた。


(ハート君、奴らの狙いは中央ホールの至宝だ! 噴水の水圧を利用して、奴らの足元をすくい上げるんだ!)


「ワン! ワンワンッ!」


前足のバルブ操作ハッキング

(……くそ、このままでは美術館に侵入される。私が直接、地下の送水システムを書き換える!)


ホームズは激しい水飛沫をくぐり抜け、噴水の裏側に隠された「手動式緊急排水バルブ」へと飛び込んだ。


文明のデジタルガジェットがなくても、名探偵の肉体と知識があれば十分だ。

ホームズは短い前足に全体重をかけ、錆びついた真鍮のレバーを器用にホールドし、文字盤を刻むように 4つのリズムでレバーを叩いた。


[ F - O - U - N ](ファウン / 噴水)


(これで、噴水の全水圧を『正面の侵入口』へと一点集中フォーカスさせる!)


しかし、ホームズがレバーを操作した衝撃で、噴水の配管から古い銘板がガラガラと崩れ落ち、ハート刑事の目の前に転がった。そこには逆さまになった古い製造刻印が。


「『N』『U』『O』『F』……ヌオフ! 貫通スルー! ……あーーーーっ!」


ハート刑事のポニーテールが、ロンドンの水飛沫を弾いて美しく跳ねる。


「分かったわ、ホームズ! これは、噴水の水圧の『N(波)』『うねり』『O(大波)』『フィナーレ』……つまり、**『水流のエネルギーを私の脚力に上乗せして、敵の戦列を貫通スルーしろ』**っていう、アクア・格闘コマンドね!?」


(違う! 逆から読むな! 『FOUN(噴水)』だと言っている! ……いや、待て。あの男たちがいる位置は、ちょうど噴水の主ノズルが向いている直線上だ。ここでバルブを全開にすれば、彼女のキックの風圧と水流が完全に同調し、人間一人を数十メートル吹き飛ばす『ハイドロ・カノン』が完成する……! ハート君、君のヌード貫通妄想はどこまでも破天荒だが、物理的な破壊効率の計算だけは、やはり世界一の名探偵(私)と完全に一致している!)


トラファルガー・ハイドロ・フィナーレ

「これでおしまいよ! ナショナル・ギャラリーの美を汚す悪党ども、ロンドンの冷たいお水で頭を冷やしなさい!!」


ハート刑事は、噴水から激しく噴き出す濁流のド真ん中へと、迷うことなく突撃した。

彼女の驚異的な体幹は、荒れ狂う水流すらも「美しきランウェイの演出」に変えてみせる。水飛沫を全身に纏いながら、空中で華麗に3回転ひねりを加えた。


「な、なんだあの女は!? 水の中から降ってきたぞ!?」


驚愕する窃盗団のリーダー。

そのコンマ数秒の瞬間、ホームズが地下のバルブを最大解放!

ドゴォォォォン!!!

噴水から放たれた超高圧の水流が、ハート刑事の右足の軌道と完全にシンクロした。


「てりゃぁぁぁーーーーっ!!!」

ハート刑事の容赦のない、水圧100倍の上段後ろ回し蹴りが、リーダーの胸元にクリーンヒット!

ボカッ、バキッ、ドパシャーーーン!!!


凄まじい風圧と水流の塊に直撃された窃盗団の面々は、ナショナル・ギャラリーの階段を転げ落ち、トラファルガー広場のライオンの彫刻の足元へと真っ逆さまに吹き飛ばされた。全員が文字通り「水も滴るいい悪党(戦闘不能)」となり、その場に伸びて御用となった。


虹のかかる広場で

すぐにヤードのヤング刑事たちが駆けつけ、泥だらけの窃盗団を次々と連行していった。

美術館のセキュリティも正常に復旧し、ロンドンの至宝である名画たちは、傷一つなく守り抜かれた。

事件解決後、すっかり水圧の落ち着いたトラファルガーの噴水。

飛び散った水飛沫が朝日に照らされ、広場には美しい大きな虹がかかっていた。


「あぁ、すっごく綺麗だべ……。ロンドンの噴水は、悪者を退治する神様の泉だったんだべね」


バーバラがハンカチでホームズの濡れた毛並みを優しく拭きながら、うっとりと虹を見上げる。


(フッ。神様の泉ではない。ハナコの規格外の脚力と、私の緻密な流体力学(FOUN)が合わさった、科学と正義の勝利だ。……まぁ、この虹の美しさに免じて、今回はそういうことにしておいてやろうかね)


「それにしてもホームズ、今回の『地下水路移動用ヌード(NOUF)』の作戦、大成功だったわね! 次はヤードの消防隊とコラボして、水流キックのポスターを作りましょ!」


ハート刑事がずぶ濡れの服のまま、満面の笑みで親指を立てる。


(……だからヌードではないし、普通に『FOUNTAIN』と読みたまえ、ハート君。だが……その濡れたトレンチコートも、今の君にはどんな名画より凛々しく似合っているよ)


「ワン!」と、虹の架かるロンドンの中心で、世界一知的な生の声で一鳴きする名探偵。

凸凹バディと素朴な令嬢の足音は、きらめく水飛沫を跳ね上げながら、今日もまた新たな平和の1ページへと進んでいくのだった。

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