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Episode 29:前編

Episode 29:前編


「電子の耳と、大混乱のテック・フェス(A-I-D-O-G)」


超試作プロトタイプの誘惑


「じゃーん! ホームズ、見てちょうだい! ヤードの科学捜査班が開発した、最新型の超試作ガジェットよ!」


ロンドンで開催されている世界最大のテクノロジー展示会「ロンドン・テック・フェス2026」。その特設ブースで、ハート刑事は興奮気味に小さな機械を掲げた。


それは、ポケット・ビーグルであるホームズの小さな耳にぴったりフィットする**「ホームズ専用ウェアラブル・イヤホンマイク」と、ハナコの耳に装着された高音質インカム。さらに、前回の音声バグを猛省して改良されたはずの「超高度犬用AI翻訳エンジン」**を搭載した、最先端の通信システムだった。


「これがあれば、私の声は瞬時に犬の可聴領域に変換されてあなたに届くし、あなたの鳴き声はAIがディープラーニングで完璧な『人間の言葉』に翻訳して、私のイヤホンに直接聞こえるのよ!」


(ふむ……。あの白猫モリアーティの影がない純粋なハイテク展示会か。科学の進歩をこの小さな肉体で体感するのも、名探偵としての嗜みだな。どれ、その性能を試してみようじゃないか)


ホームズが小さな電子の耳をパタパタと揺らし、システムが起動した。


暴走するAI翻訳と、展示会のパニック

カチッ。


『システム・オンライン。対象:ビーグル(オス)。言語解析を開始します』


耳の奥で冷徹な機械音声が響いた、その直後だった。

展示会のメインステージで、最新の「自律型お掃除ロボット」がデモンストレーションを開始した。その駆動音(高周波のモーター音)が、ホームズの敏感な聴覚を激しく刺激する。


(む、なんだこの不快な高周波は。耳の奥がキリキリするぞ。ハナコ、今すぐあのステージの電源を切るか、音量を下げさせてくれ!)


ホームズは不快感から、ステージに向けて鋭く吠えた。


「ワン! ワンワンッ!」


しかし、超試作AI翻訳エンジンは、その吠え声とロボットのモーター音を完全に**「誤学習バグ」**してしまった。ハナコのイヤホンマイクに届いたのは、流暢だが完全に狂った「AIの誤翻訳音声」だった。


『――翻訳:全システムを掌握した。我々はロボット軍団である。今すぐ会場のすべてのケータリング(犬用高級クッキー)を解放せよ。さもなくば、このラグジュアリーな展示会場をサイバー爆破する――』


「ええええーーーっ!? ホームズ、あなたいつの間にサイバーテロリストのボスになったの!?」


ハート刑事が耳を押さえて叫ぶ。

さらに最悪なことに、この試作機は会場のメインスピーカーともBluetoothで混線していた。ハナコのイヤホンだけでなく、会場全体の巨大スクリーンに、ホームズの凛々しい顔写真とともに、この「偽のテロ予告」が文字で大々的に表示されてしまったのだ!


『警告:犬型AIによる会場占拠。要求:高級クッキー』


「キャー! ロボットの反乱よ!」「犬が世界を滅ぼすわ!」


会場にいた何千人ものテック関係者や一般客が一斉にパニックを起こし、出口へと殺到。華やかな展示会は、一瞬にして大混乱の渦へと叩き落とされた。


バディの「ウルトラ・ドッグ・ネット」超翻訳


(違う! 誤翻訳だ! 私はテロなど計画していないし、クッキーなど要求していない! ハナコ、落ち着いて私の前足の動きを見るんだ!)


ホームズは混乱を収めるため、近くの展示用タブレットに飛び乗り、短い前足で素早く4つのアルファベットを画面に打ち込んだ。


[ A - I - D - O ]


(『AI』の『DO(実行)』ログがおかしい。このバグを修正するために、メインサーバーのシステムを再起動するんだ!)


画面に表示された文字を見つめていたハート刑事は、ハッと目を見開くと、会場を埋め尽くすお掃除ロボットたちの列に向かって、正義のポーズをビシッと決めた。


「『A』『I』『D』『O』……アイド。アイド……。……あーーーーっ!」


ハート刑事の驚異的な写真記憶と、斜め上の脳内回路が火花を散らす。


「分かったわ、ホームズ! これは、暴走したAIロボットたちを歌とダンスで正気に戻す**『犬型AIアイドル・オンステージ(AI-DOG)』**の開幕シグナルね!?」


(なぜだぁぁぁーーー!! 電子回路のバグから、なぜ唐突に『サイバーアイドル歌合戦』が始まってしまうんだ!! 普通に『AIの暴走(AI-DO)』と読みたまえ!!)


「確かにさっき、展示会のパンフレット(写真記憶)で『メインサーバーは中央のアイドル特設ステージの地下にある』って書いてあったわ! よし、私たちがセンター(サーバー室)を勝ち取るために、全力で突撃よ!」


ハートは感動のあまりホームズをウェアラブルイヤホンごと小脇に抱えると、暴走して火花を散らしながら突っ込んでくるお掃除ロボットの群れを「てりゃあ!」と踏み台にしながら、中央ステージへと猛然とダッシュした。


(違う! アイドルではない! ……しかし待て、サーバー室が中央ステージの地下だと!? 誤翻訳の元凶である大元の電波を遮断するには、確かにそこに行くのが最短ルート……! ハート君、君のアイドル妄想は狂気の沙汰だが、突撃する座標だけは、相変わらずロンドンのどのGPSよりも正確だ!)


もはやモリアーティの仕掛けすら必要としない、科学の暴走とバディの超翻訳が生んだ


「最大の自作自演(?)トラブル」。


凸凹バディは、電子の波を乗り越えて、大混乱のサーバー室へとチェックインできるのか!?

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