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Episode 28:前編

Episode 28:前編


「二重の咆哮エコーと、逆さまの文字盤(T-I-M-E)」


宿敵のいない、純粋な謎

大英帝国の首都ロンドン。今日の霧はいつになく薄く、街は穏やかな陽気に包まれていた。


いつもなら事件の影にちらつくはずの「あの白い宿敵の気配は、今日に限っては微塵もない。完全なる、人間のエゴと嘘が織りなす「純粋な現実の事件」だった。


「ホームズ、これを見てちょうだい!」


ヤードの広報課オフィスに、高価な懐中時計を手にしたハート刑事が飛び込んできた。


持ち主は、ロンドン東部の大富豪。昨夜、彼の書斎から数百万ポンド相当の美術品が盗まれたのだが、奇妙なことに、現場に残されたこの懐中時計の針は「深夜2時45分」で完全に止まっていた。


「被害者の執事も、警備員も、全員が『その時間は全員で宿直室でお茶を飲んでいた、アリバイは完璧だ』って証言してるの。でも……」


(ふむ……。モリアーティが絡んでいないとなると、人間の犯行などおのずと単純な足跡ノイズを残すものだ。だが、この時計……)


ホームズは事務机の上に飛び乗り、ハナコが持ってきた事件現場の資料を鋭く睨みつけた。


前足のペンシルと、逆さまの「超翻訳」

ホームズは自らの短い前足に、輪ゴムで特製の「タブレット用タッチペンシル」を器用に固定した。ポケット・ビーグルの肉体で、複雑な人間の文字を滑らかに書くための名探偵の秘密兵器だ。


トントン、ツーツー。


ホームズはタブレットの画面に、流れるような筆跡で4つのアルファベットを書き記した。


執事たちの証言の矛盾点、そして時計の機械的なトリックを暴くための論理の回答アンサーだ。


[ T - I - M - E ](タイム / 時間)


ホームズはタブレットをハナコのほうへ差し出した。しかし、対面に座っていたハート刑事は、画面を覗き込むと、首を思い切り左に90度傾け、次に右に90度傾けた。


「『E』……『M』……『I』……『T』。……え、えみっと? 『放射する(EMIT)』……!? あーーーーっ!」


ハート刑事は自らのポニーテールを激しく揺らし、机を叩いた。


「分かったわ、ホームズ! あなた、犯人がこの時計から**『謎の殺人電磁波(EMIT)』**を放射して、屋敷中の人間の記憶を消去したって言いたいのね!?」


(なぜだぁぁぁーーー!! なぜわざわざ対面から逆向きに読んで、しかも難解な単語に超翻訳してしまうんだ!! 普通に『TIME(時間)』と読みたまえ!!)


「確かにさっき、ヤードの科学捜査レポート(写真記憶)で『最近のハイテク犯罪には電磁波が使われることが多い』って書いてあったわ! よし、その電磁波の発生源を突き止めるために、今すぐ執事たちの『脳波』を調べに屋敷へ突入よ!」


(違う! 電磁波ではない! 執事たちの『時間(TIME)の嘘』を暴くと言っているんだ! ……だが待て、脳波の検査と称して執事たちを呼び出せば、奴らの嘘のタイムラインが完全に崩壊する。ハート君、君の逆立ち超翻訳は恐怖すら覚えるが、結果的に容疑者を追い詰める盤面としては最高だ!)


ガジェットのバグと、二重の咆哮

ハート刑事とホームズは、再び容疑者である執事たちが待つ大富豪の屋敷へと向かった。

車内、ホームズは自らの首輪に内蔵された「犬語翻訳・音声出力スピーカー」を起動し、ハート刑事に容疑者への尋問手順を指示しようとした。


「ワン! (まず時計のネジの巻き具合を調べろ)」


しかし、数日前のデジタル炎上事件(Episode 24)やAIバグ(Episode 27)の負荷が残っていたのか、スピーカーの音声基盤が突然、おかしなエラーを起こした。


『ワン!……ワン!(まず時計の……時計の……)』


ホームズの生の声(咆哮)のすぐ後ろから、コンマ5秒遅れて、スピーカーの電子合成音声が完全に重なって響く。強烈な**「二重音声ダブル・エコー」**のバグだ。


(む、ガジェットの調子が悪いな。声が二重にズレて聞こえる……ウプッ、三半規管に響くぞ)


「あら、ホームズの機械、壊れちゃったみたいね。声がズレて聞こえて……」


ハート刑事がスピーカーを叩こうとした、その瞬間。

屋敷の応接室で、ホームズの「二重にズレた咆哮」を耳にした執事の顔が、みるみるうちに真っ青になり、ガタガタと震え出したのだ。


「ひぃっ!? な、なぜそれを……! なぜ『あの夜、時計の針を30分巻き戻した』という僕たちの**【時間のズレ】**がバレているんだ!?」


(……何だと!?)


ホームズは鋭く目を光らせた。

名探偵の声の「物理的な二重のズレ」が、奇跡的に犯人たちの心に潜む

「アリバイ工作の時間差ズレ

という最大の嘘を暴く、決定的な心理的引きトリガーとなったのだ!


嘘が暴かれた密室の屋敷で、宿敵モリアーティのいない、純粋な論理とバグの「後編」へと事件は一気に加速する。


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