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Episode 27:前編

Episode 27:前編


「吠える名探偵と、誤変換が導く霧の追跡(D-O-G-S)」


音声入力の悲劇

ヤードの広報課オフィス。事件の報告書をまとめようと、ハート刑事は最新の「AI音声入力ソフト」を起動させていた。


「えーっと、報告書。……事件現場の裏路地にて、犯人が残した暗号めいたメモを発見。その内容は……」


そばでコーヒーを飲んでいたホームズが、ふと気配を感じて床を覗き込んだ。そこには一匹のネズミの影が。

ホームズは本能的に、鋭く吠えた。


「ワン!!」


その鋭い咆哮は、ハート刑事のマイクにダイレクトに拾われてしまった。AIソフトはホームズの吠え声を言葉だと誤認し、画面上の報告書に奇妙な文字列を次々と打ち込んでいく。


【 誤変換リスト:】


「裏路地にて」→「ウラ・ロッジにて」


「犯人が残した」→「ハン・ガ・ニ・コ・シタ」


「暗号めいたメモを発見」→「アンゴウ・メグ・リタ・メモノ・ハッケン」


「ちょっとホームズ! 何吠えてるのよ! 報告書がめちゃくちゃじゃない……あ、待って」


ハートは画面をスクロールして固まった。


「……あれ? これ、バラバラにすると……『ウラロッジ』『ハンガニコシタ』『アンゴウ……』。……まさか!」


(……しまった。私の咆哮が、AIのバグと合わさって、犯人が隠している『隠れ家』と『実行予定時刻』の暗号を偶然にも生成してしまったのか!?)


「ゲームか?」と疑うバディ

「ホームズ! 今すぐ追跡よ! この座標……『ウラ・ロッジ』って、テムズ川沿いの古いボートハウスのことね!」


ハート刑事は、ホームズが首輪に内蔵された高性能GPSをスマホと同期させるのを見ると、地図アプリを操作し始めた。ホームズが前足で器用にタップして、犯人の逃走経路をリアルタイムで算出していく。


しかし、ハートはそれを見て、首を傾げた。


「……えーっと、ホームズ。あなたがやってるそれ、もしかして**『最新のロンドン・ミステリー脱出ゲームアプリ』**? すごいリアルね。犯人の位置までプロットされてるなんて!」


(……違う! これは現実の追跡データだ! 画面上の赤い点が、犯人の動いている位置を示しているんだ!)


「あはは、ごめんごめん! 私としたことが、あまりにリアルなGPS追跡画面に見とれちゃって、現実とゲームの区別がつかなくなっちゃったわ。でも、犯人役(AI)の動きもなかなか知能的ね! 左に曲がったわよ!」


(……知能的ではない。本当に犯人が左に曲がっているんだ! ハート君、頼むから現実の警察官として危機感を持ってくれ! このままでは犯人が『ゲームオーバー』ではなく『逃亡成功』してしまうぞ!)


雨のテムズ川、誤変換が告げる真実

地図アプリ上の赤い点は、テムズ川沿いの古い「裏ロッジ(ボートハウス)」で完全に停止した。


「よし、ゴールね! ……って、あれ? 本当に犯人の車が停まってるわ。ゲームにしては過剰な演出ね」


ハート刑事は、相変わらず「これは最新のARG(代替現実ゲーム)である」という認識のまま、パトカーでボートハウスに突入した。


しかし、現場にいた犯人グループは、自分たちの隠れ家が完全に割れていることに仰天した。


「なぜだ!? 警察はまだ『北区』の空き家を調べているはずだぞ! なぜここがバレた!?」


(……ふむ、犯人たちは『ウラ・ロッジ』という言葉を、別の暗号として使っていたらしい。私の咆哮による誤変換が、奇跡的に犯人の『隠れ家名』と一致したということか)


「さあ、動かないで! ゲームは終わりよ、悪党さんたち!」


ハート刑事は、スマホの地図アプリを構えながら(ゲームの武器だと思い込んでいる)、容赦のない超高速キックを放つ準備を整える。


(……この勘違い刑事は、本当に救いようがないが……今の彼女なら、敵がどれだけ銃を持っていようとも『ゲームのNPCノンプレイヤーキャラクター』だと思い込んで、恐れることなく突っ込んでいくはずだ!)


ホームズが吠えるたびに、AIソフトが勝手に変換し、その誤変換が事件の核心を突いていく。

霧のロンドンで、誤変換と誤解が織りなす「奇跡の追跡劇」が、今、幕を開けた。

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