Episode 3-前編
Episode 3-前編
ハート刑事のアパートに新聞が届いた。
ホームズは新聞の匂いを嗅ぎながら、
いつものように“情報の層”を読み解いていた。
(今日の新聞……インクの乾き具合が違う。
配達時間が少し遅れたか……いや、それより──)
ホームズの鼻が、天気欄の一部に反応した。
そこだけ、
“芝生の匂い”がする。
(……なぜ天気欄に芝生の匂いが?
これは……公園の芝生の匂いだ)
ホームズは新聞の天気欄を前足でトントンと叩いた。
「ワンッ!」
ハートはコーヒーを飲みながら新聞を覗き込む。
「え?今日の天気が気になるの?
……あ、分かった!
ホームズ、今日は散歩日和って言いたいのね!」
(違う……違うのだハート君……!)
ホームズはさらに天気欄を押し、鼻でぐいっと押し出した。
「ワンッ!ワンッ!」
ハートは新聞を見て、
なぜか真剣な顔になった。
「……もしかして……
“雨が降る前に洗濯しろ”って言ってるの?」
(なぜそうなる!?)
ホームズは頭を抱えたくなった。
天気欄の“芝生の匂い”の謎ホームズは新聞をくわえ、
玄関へ走った。
「ちょ、ちょっとホームズ!?
新聞持ってどこ行くの!?」
ホームズは玄関の前で新聞を落とし、
天気欄を鼻で押しながら吠えた。
「ワンッ!」
ハートは新聞を拾い、
天気欄をじっと見つめた。
「……天気欄……
晴れ、曇り、雨……
あれ?なんかここだけ紙が湿ってる?」
ホームズ
(心の声)
(そうだ。湿っているのは“芝生の朝露”だ。
つまり──この新聞は“公園の芝生の上”に一度落ちている)
ハートは新聞を嗅いだ。
「……あれ?これ……
なんか草の匂いしない?」
ホームズ
(ようやく気づいたか……!)
ハートは立ち上がった。
「ホームズ、公園に行くのね!
よし、行こう!」
ホームズ
(最初からそう言っているのだが……まあいい)
公園に到着すると、
朝の光が芝生を照らし、
子どもたちが遊び、
犬たちが走り回っていた。
しかし──
ホームズの鼻はすぐに“異常”を嗅ぎ取った。
(……この匂い……金属……汗……そして涙……?
これは……“指輪を失くした人間の匂い”だ)
ホームズは芝生の上を走り回り、
一点を見つけて吠えた。
「ワンッ!」
ハートが駆け寄る。
「どうしたの?ここに何か──」
そのとき、
近くのベンチで女性が泣いていた。
「指輪が……結婚指輪が……
落としちゃって……!」
ハートは女性に駆け寄った。
「大丈夫ですか!?いつ頃落としたんです?」
女性は涙を拭きながら言った。
「さっき……芝生の上で……子どもと遊んでたら……」
ホームズは芝生に鼻を近づけ、匂いを追った。
(……金属の匂い……汗……
そして……“焦り”の匂い……指輪は近い)
ホームズは芝生を掘り始めた。
「ワンッ!ワンッ!」ハートは慌てて止めようとした。
「ちょ、ちょっとホームズ!?芝生掘っちゃダメ──」
その瞬間、
芝生の中から“キラリ”と光るものが見えた。
ハート
「……指輪!」
女性
「えっ……!?あった……!本当にあった……!」
ホームズは誇らしげに胸を張った。
(当然だ。私は名探偵だ)
女性は涙を流しながら指輪を握りしめた。
「ありがとう……ありがとう……!」
ハートはホームズを抱き上げた。
「ホームズ……すごいよ……!」
ホームズ
(ふむ……もっと褒めてもいいのだぞ)
しかし──
この時、ホームズは気づいていた。
芝生の匂いの中に、
“別の匂い”が混じっていたことに。
甘く、冷たく、
そして……
知性を感じさせる匂い。
(……また奴か……)
白猫の影が、
公園の木の上からこちらを見ていた。




