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Episode 18:前編

Episode 18:前編


冷たいインクの輝き(M-I-L-L)

――偽りの紙幣と、金属の咆哮」

偽札の山と、異様なインクの匂い

オペラ座の事件が解決したのも束の間、ロンドンの金融街はかつてない恐怖に包まれていた。


スコットランドヤードの広報室には、

精巧極まる「偽五ポンド札」が山積みにされ、

ハート刑事もその対応に追われていた。

「手触りも、透かしも本物と全く同じ。ただ、裏面のインクの色だけが、ほんの少し、本当にミリ単位でくすんでいるのよね……」


ハート刑事が押収された紙幣を虫眼鏡で覗き込む。

その横で、ポケット・ビーグルのホームズは押収品の中にあった「インク瓶」

のキャップに鼻を近づけ、

独自の鋭い嗅覚を働かせていた。

(……いや、ハート君。これは単なる偽札事件ではない。このインクの匂い……高純度のコバルト、そして微かに混ざるこの特有の臭気は、金属を高速で削り取った時に発生する『極微細な鉄粉と超音波オイル』の匂いだ。


間違いない、これはゴールドを分子レベルで粉砕して流体化するための特殊な潤滑溶剤だ!)

犯人の真の狙いは、紙切れの偽造などではない。

ホームズは即座に絨毯の上へ駆け寄ると、散らばるアルファベットブロックの中から4つのピースを厳かに、

列を整えて並べ替えた。

[ M - I - L - L ](ミル / 粉砕機)

(偽札は警察の目を引きつけるための派手なデコイに過ぎん。

奴らの本命は、イングランド銀行の最深部に眠る大英帝国の国家財産――『純金』を、超音波ミルでガリガリに砕いて強奪する冷徹なハッキング計画だ!)

「ワンッ! ワンワンッ!」


ホームズは『M-I-L-L』の文字列を前足で激しく叩き、ソファーの上のハート刑事を鋭く振り返った。

バディのきらめくウルトラ超翻訳

「ん? なにホームズ、朝からそんなに大きな声出して……。あ、またブロックのメッセージね!」

ハート刑事は虫眼鏡を置き、絨毯の上にしゃがみ込んで「M-I-L-L」の4文字を対面(逆さま)から脳内の写真記憶にロックオンした。


彼女のポニーテールがピンと跳ねる。

「『M』『I』『N』……じゃなくて『L』『L』……ミル。ミル、ミル……。……あーーーーっ!」

ハート刑事はガタッと立ち上がり、自分のウェーブのかかった美しい黒髪を両手でバサバサと弄りながら、目をキラキラと輝かせた。

「分かったわ! あなた、私の髪型を大人っぽいミルキー・ゴールドの『ゴールデン・ウェーブ(GOLD)』にイメチェンしろって言ってるのね!?」


(……は? 髪型!? なぜ金属粉砕の『ミル』の文字を見て、主人のヘアスタイルのプロデュース(しかもミルク系カラー)という発想になるんだ!)


「確かに最近、ロンドンのトレンド雑誌の表紙(写真記憶)で『今年の夏は、髪をガリガリに傷めないミルキー・ベージュがナンバーワン!』って見たばかりだわ! 名探偵のあなたから見ても、

今の私はちょっと華やかさが足りないってことね? よし、今日の臨検(サロン予約)は、そのトレンドを発信している高級美容院『サロン・ド・ゴールド』に決まりね!」


ハート刑事は嬉々としてトレンチコートを羽織り、ハサミのポーズをしながらホームズを小脇に抱え上げた。


(違う! ファッションチェックではない! 貴金属を削り取る『ミル(粉砕機)』だ! なぜ君の脳内フィルターは、国家を揺るがすハイテク強奪テロの予兆を、

すべて『主人のイメチェン計画』に変えてしまうんだ!)


高級美容院の「真下」にあるもの

しかし、ホームズはハート刑事の腕の中で、すぐさま脳内のロンドン詳細地図を展開した。


彼女が向かおうとしている高級美容院『サロン・ド・ゴールド』。その住所は、ロンドン中心街、まさにイングランド銀行の巨大な裏壁に面した細い路地に位置していた。


(……ふむ、プロセスの妄想力は相変わらず天を衝くほど狂っているが、彼女が引き寄せられる『目的地』の座標だけは、またしても寸分違わず一致している!)


「待っててねホームズ、今すぐ世界一格好いい刑事に生まれ変わってみせるから!」


(髪を染めている暇はないぞ、ハート君! 銀行の地下で、すでに大英帝国の黄金がガリガリに砕かれ始めているんだ!)


名探偵(犬)の焦りを乗せて、熱血刑事は雨上がりのロンドン金融街へと颯爽と走り出すのだった。

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