Episode 17:前編
Episode 17:前編
暗闇の五線譜(L-O-N-D-O-N)
無言の泥棒と、5つの文字
ベーカー街の旧救貧院での激闘から数日。
ロンドンの街は一見、平穏を取り戻したかのように見えた。
しかし、ロンドン西区の高級住宅街では、
奇妙な「無言の空き巣事件」が多発し、
スコットランドヤードを困惑させていた。
鍵は壊されていない。
高級な絵画や宝石が盗まれているにもかかわらず、
現場には荒らされた形跡が一切ないのだ。
(……いや、共通点はある。被害に遭った邸宅の『名前』だ)
リビングの絨毯の上で、
ホームズは集めた捜査資料を睨みつけながら、
前足で5つのアルファベットブロックを厳かに引き寄せ、
一列に並べ替えた。
[ L - O - N - D - O - N ]
(リリィ邸、オックスフォード邸、ネルソン邸、
ドナルド邸、オリバー邸、そして……。
ハート君、
被害に遭った邸宅の頭文字を発生順に並べ替えると『ロンドン』になる。
これは単なる物取りではない。
奴らは街の歴史的価値、
あるいは地理的なラインを狙った
巨大な犯罪プロットを描いているんだ!)
「ワンッ! ワンワンッ!」
ホームズは完成したブロックを前足で激しく叩き、
ソファーで捜査令状をチェックしていたハート刑事を呼び寄せた。
バディの滋養強壮な超翻訳
「んも〜、ホームズ。せっかく集中して書類を読んでたのに。
あ、またブロックね?」
ハート刑事は書類を置いて絨毯の上にしゃがみ込み、
ホームズが並べた「L-O-N-D-O-N」の文字列をじっと見つめた。
彼女の「写真記憶」のレーダーが、並んだ文字を脳内にスキャンする。
「『L』『O』『N』『D』『O』『N』……ロンドン。ロンドン……。……あーーーっ!」
ハートはポンと手を叩き、お腹をさすりながら目をキラキラと輝かせた。
「分かったわ! あなた、ロンドン名物の『濃厚ロンドン・ポタージュ(LONDON)』が飲みたいのね!?」
(……は? スープ? なぜこの緊迫した連続暗号から、
突如として私の胃袋を満たすメニューの話になるんだ!)
「確かに最近、夜を徹した捜査続きで二人とも栄養不足だもんね。
高級住宅街の近くにある、
あの老舗のスープ専門店『ロンドン・ハウス』!
あそこの特製ポタージュは絶品だって、
さっきグルメ雑誌のページ(写真記憶)で見たわ!
よし、今日の臨検はそこに決まりね!」
ハートは嬉々としてトレンチコートを羽織り、
ホームズを小脇に抱え上げた。
(違う! グルメツアーではない!
街の危機だ! なぜ君の脳内フィルターは、
凶悪な連続犯罪のメッセージをすべて
『ほのぼのランチリポート』に変換してしまうんだ!)
オペラ座の地下へ続くスープ
しかし、ホームズはハートに抱えられながら、
脳内のロンドン地図を高速で展開していた。
彼女が言っているスープ専門店『ロンドン・ハウス』。
それは、高級住宅街の喧騒を抜けた先にある、
高名な『ロイヤル・オペラハウス』のすぐ裏路地に位置していた。
(……待てよ。『ロンドン』の文字列の最後、
6番目の標的が『ネイサン邸』だとすれば、その座標はまさに──)
「さあ、出発よ、ホームズ!」
ハートは完全に美味しいスープを飲む気満々で、
元気よくテラスハウスを飛び出した。
到着したロイヤル・オペラハウス周辺は、
夜の公演を控えて独特の静けさに包まれていた。
ハートが目的のスープ店へ向かおうとしたその時、
ホームズの鋭い耳が、
オペラ座の地下換気口から響いてくる
「変調された高周波の電子ノイズ」をハッキリとキャッチした。
(……やはりだ! スープ屋ではない、本命はこのオペラ座の地下だ!)
ホームズはハートの腕から身をよじって飛び降りると、
オペラ座の暗い地下勝手口へと弾丸のように駆け出した。
(モリアーティめ、今度はこの芸術の殿堂で何を企んでいる!?)




