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Episode 14:前編

Episode 14:前編


敷き詰められたグリッドと、無邪気なモザイク

絨毯の上の大公国、その日のホームズは、

これまでにない集中力でリビングの絨毯に向き合っていた。

ロンドン中央銀行、大英博物館、

そしてテムズ川の埠頭──。

これまでに白猫モリアーティが仕掛けてきた事件の現場、

そして奴の残党たちの潜伏ルートを脳内で重ね合わせたとき、

名探偵の頭脳はある「巨大な幾何学」を導き出していた。


(奴の真の狙いは点ではない。線、いや、この『面』だ!)


ホームズは散らばるアルファベットブロックを掻き集めると、

文字を読ませるためではなく、

ブロックそのものの「形」と「色」を使い、

絨毯の上に精密な立体模型を組み上げ始めた。


赤と青のブロックで主要な街道を示し、

長方形の積木でテムズ川に架かる橋を再現する。

そして、中央にそびえ立つ四角いブロックの塔

──それこそが、

近々ロンドン全域の電力を管理する新システムが導入される

『テート・コントロールセンター』の座標だった。


(これでどうだ、ハート君。文字を介さずとも、

この完璧な投影図を見れば、

奴らが次にどこを狙うか一目瞭然だろう!)


完成したのは、1/5000のスケールで描かれた、

精緻極まる「ロンドン中心街の立体作戦地図」。


「ワンッ! ワンワンッ!」

ホームズは誇らしげに胸を張り、

事件の報告書をめくっていたハート刑事を呼び寄せた。


芸術の秋と、幼児退行の大誤解

「ん? なーにホームズ、静かだと思ったら……。わあ、すごい!」


ハート刑事は書類を置いて絨毯の上にしゃがみ込み、

ホームズが並べたブロックの巨大な幾何学模様をじっと見つめた。

彼女の驚異的な「写真記憶」のレーダーが、

ブロックの配置と高低差を瞬時に脳内へとスキャンする。


「赤、青、黄色……。この不規則でありながら、

どこか調和の取れたブロックの並び……。……あーーーーっ!」


ハートはポンと手を叩き、目をキラキラと輝かせた。


「分かったわ! あなた、

幼児期の感情を取り戻す『セラピー用の積み木遊び(アート)』

に熱中してるのね!?」


(……は? セラピー? 私は至って正気だ。

大英帝国の命運を握る地図を描いているんだぞ!)


「確かに最近、

モリアーティとの知恵比べであなたの小さな脳細胞は、

フル回転だったもんね。心が疲れちゃって、

無邪気な子供の頃に戻ってブロックをお城のモザイク

に積み上げたくなったんだわ!

なんて愛おしいメンタルケアなの……。

よし、今日の臨検(お散歩)は、

このブロックの形にそっくりな、

近代アートが展示されてる『テート・モダン美術館』に決まりね!」


ハートは優しくホームズを抱き上げると、

「よしよし、感性を爆発させましょ!」と微笑んだ。


(違う! 芸術の爆発ではない! 防衛地図だ!

なぜ君の脳内フィルターは、

緻密な戦略プロットをすべて

『お疲れインテリ犬のヒーリング・アート』に変えてしまうんだ!)


アートの死角に潜む、本物の標的

しかし、ホームズはハートの腕の中でハッとして目を見開いた。

彼女が連れて行こうとしている『テート・モダン美術館』。

それは、ホームズがブロックの塔で示した、

まさにあの『テート・コントロールセンター』

の真真向かいに位置する建物だった。


(プロセスの曲解ぶりは相変わらず天を衝くほどだが……辿り着く

『グリッドの終着点』だけは、またしても完璧に一致している!)


「さあホームズ、お出かけよ!」


ネオンピンクのジャージに身を包んだ熱血刑事は、

小脇に名探偵を抱え、

夏の陽光が照りつけるロンドンの街へと元気よく飛び出した。

ブロックで描かれた地図の通りに、

宿敵が仕掛けた「チェス盤」の幕が上がろうとしていた。

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