表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/160

Episode 12:後編

Episode 12:後編


真夜中のダイヤモンド・ダストと、

完璧な論理の着地、静寂の宝飾店

激しい雷雨がロンドンの街を白く煙らせる中、

ハート刑事とホームズは、

夜の帳が下りた時計貴金属店ジュエリーショップ

の裏口に滑り込んだ。


「うーん、ロマンチックな出会いの気配はゼロね……。

でも、おかしいわ」

ハートがスマホのライトで周囲を照らす。


ホームズは床に鼻を近づけ、雨の匂いに混じる

「決定的な悪臭」を嗅ぎ分けていた。


(……やはりだ。このツンと鼻を突く匂いは……

アセチレンガス、そして高熱で融解した鉄の臭いだ!

奴らはすでに、この奥の地下金庫室に侵入している!)


「ワンッ!」

ホームズが低く吠え、金庫室へと続く重い鉄扉の隙間へと滑り込む。


「あっ、ホームズ! 待って、私のハッピー・デートが!」

ハートも銃を構え、警戒しながらその後に続いた。


地下へ下りると、そこには目を覆うような光景が広がっていた。

巨大な防盗金庫の扉が、

超高温のテルミット溶融装置によって真っ赤に焼き切られ、

ドロドロと溶け落ちていたのだ。

床に敷かれたペルシャ絨毯からは、黒い煙(FIRE)が上がっている。


そして、

金庫の中から最高級のダイヤモンド原石を

アタッシュケースに詰め込んでいる、

黒マントの男たちの姿があった。


写真記憶の「星占い(幾何学)超解釈」

「そこまでよ! ロンドン市警です、

大人しく手を上げなさい!」

ハートが鋭く叫ぶ。


「チッ、なぜここがバレた……! だが、遅かったな!」

主犯の男が、懐から遠隔起爆用のスイッチを取り出した。

金庫の周囲には、溶融装置の熱を利用して連動する、

ガス爆発トラップが仕掛けられていたのだ。


「お前らもろとも、この店を消し炭にしてやる!」


(残り時間はあと30秒もない……!

溶融装置のエネルギーをどこかで逃がさなければ、部屋ごと吹き飛ぶぞ!)


ホームズが焦りを見せたその瞬間、ハートの瞳が、

天井に張り巡らされた「古いスプリンクラーの配管」を捉えた。

彼女の脳内で、今朝見たブロックの裏の

『焦げ跡』の幾何学模様が、一瞬でフラッシュバックする。


「……あ! 分かったわ!」

ハートがジャキッと銃を構え直した。


「あのブロックの裏の『十字のマーク』

……あれは星占いじゃなくて、

この部屋の『天井の配管のハブ(交差点)』の形よ!」


(……ようやく気付いたか、ハート君!)


「そして、『F・I・R・E』の焦げ線の数は、

縦の3本目と横の5本目のバルブを同時に壊せば、

『この部屋だけに10倍の圧力で消火ガスが噴き出す』

っていう、この建物の特殊な構造を示してたんだわ!」


(完璧だ! 彼女の超解釈が、

ついに占いを突き抜けて純然たる構造力学へと着地した!)


「ホームズ、あの交差点のバルブよ! 狙い撃ちなさい!」


3. 名探偵の精密射出

(よし、ハート君! 私が合図を出す、そこを撃て!)


「ワンッ!!!」


ホームズは床を激しく蹴り、

溶け落ちた金庫の破片──熱でカチカチに固まった

「真鍮の歯車の塊」へと飛びついた。

ホームズは短い前足でその金属塊を思い切り蹴り飛ばし、

ジャックが持っていた起爆リモコンの手元へと正確に弾き飛ばした!


「ぶふっ!?」

金属塊が手を直撃し、ジャックはリモコンを床に落としてしまう。


同時に、ホームズは天井の配管の

「十字のハブ」の真下へと着地し、

特定のバルブを鼻先で指し示しながら、鋭く吠えた。


「ワン・ワンッ!!」(ここだ! 3番と5番の交差点だ!)


「てりゃぁぁぁーーーっ!!」


ハート刑事の放った2発の銃弾が、

暗闇を裂いて天井の配管を正確に撃ち抜いた。

バギィィィン!!


次の瞬間、配管のハブが激しく破裂し、

猛烈な勢いで「二酸化炭素の冷却ガス」が金庫室全体に吹き荒れた。

ダイヤモンド・ダストのような白い煙が部屋を満たし、

真っ赤に燃え上がっていたテルミット装置の熱源を

一瞬にして凍りつかせ、無力化した。


ガス爆発のタイマーは、作動温度に達することなく静かに沈黙した。


漆黒のチェックメイト

「う、うそだろ……俺たちの完璧な計画が……」

寒さでガタガタと震え、床にへたり込む泥棒たちに、

ハートが手際よく手錠をかけていく。


「はい、お縄よ。ロマンチックなデートじゃなかったけど、

大物の現行犯逮捕だから、今月のボーナスはハッピー確定ね!」


ハートが満足そうに微笑む。

ホームズは白い煙が引いていく金庫室の窓枠を見上げた。

激しい雨が降る窓の向こう、隣のビルの屋根の上に、

あの白猫モリアーティが佇んでいた。


奴は、自分がブロックに刻んだ「焦げ跡の暗号」を、

ハートとホームズが完璧に解き明かしたことに、

満足そうな、しかしどこか悔しそうな視線を送ってきた。

そして、雷光がロンドンの空を裂いた一瞬の隙に、

闇へと消え去った。


(モリアーティ……。

ブロックの裏にまで悪意を仕込むとはな。

だが、お前がどんなに複雑な幾何学を組み立てようとも、

私とハート君の『超論理』の前には、

すべてがただの遊び道具に過ぎん)


ホームズは誇らしげに胸を張り、

床に転がっていた『E』のブロック

(もう焦げた匂いはしない)を、前足でチョンと触った。


「ほらホームズ、がんばったご褒美に、

帰ったらとびきり美味しい高級缶詰を開けてあげるわね!」

ハートがホームズを抱き上げ、優しく頭を撫でる。


(ふむ、缶詰か。悪くない。

だがハート君、次は最初から私の『FIRE』の文字を見て、

火災を疑うようにしたまえよ?)


「ワン」と力強く鳴いてみせる名探偵を乗せて、

激しい雨のロンドンに、勝利のサイレンが静かに響き渡るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ