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Episode 12:前編

Episode 12:前編


焦げついた文字ブロックと、闇のチェスボード、

絨毯の上の異変

ある夜、ロンドンを激しい雷雨が襲っていた。

窓ガラスを叩く雨音を聴きながら、

ホームズはリビングの絨毯の上で、

妙な違和感に身を硬くしていた。


(……おかしい。部屋の空気が微かに変わっている)


ハート刑事は事件の書類を抱えたまま、

ソファで健やかな寝息を立てている。

部屋には誰も入ってこられないはずだった。

しかし、ホームズの鋭い嗅覚が、部屋の中心から漂う

「ツンとした焦げ跡の匂い」を捉えたのだ。


ホームズがブロックの山の前へ歩み寄ると、

驚くべき光景が広がっていた。

いつもならバラバラに散らばっているはずの

アルファベットブロックが、誰の手によってか、

綺麗に一列に並べられていたのだ。


F - I - R - E (ファイア / 火・発砲)


(私が並べたのではない。ハート君でもない。

ならば、誰が──)


ホームズは警戒しながら、

その4つのブロックを鼻先でそっとひっくり返した。

その瞬間、名探偵の目に冷たい戦慄が走る。


木製のブロックの裏側には、

鋭いレーザーか何かで焼き付けられたような、

真っ黒な「焦げ跡」の模様が刻まれていたのだ。


裏面に隠された「チェス盤の幾何学」

『F』の裏には、縦に3本の焦げ線。

『I』の裏には、横に5本の焦げ線。

『R』の裏には、十字の交差点。

『E』の裏には、不気味な『M』の文字の焦げ跡。


ホームズはそれらの焦げ跡を凝視し、

即座にその「真意」を読み解いた。


(これは文字通りの『FIRE』という意味ではない!

ブロックの裏の焦げ線は、ロンドン市街の

『格子状の路地ストリート』を示している。

縦の3番街と、横の5番街が交差する場所……。

つまり、ロンドン中央銀行の裏手にある

『古い時計貴金属店』の座標だ!)


そして『E』の裏の『M』の焦げ跡。それは、

そこが宿敵モリアーティによって指定された、

新たなる犯罪の実行現場であることを示していた。


(奴はわざわざ我が家に忍び込み、

このブロックを使って挑戦状を残していったのだ。

時計店に仕掛けられた『火(FIRE)』……。

大型の金庫を焼き切るためのテルミット溶融装置か!?)


一刻を争う事態だった。

ホームズはひっくり返したブロックを前足で激しく叩き、

ソファの上のハート刑事を叩き起こした。


「ワンッ! ワンワンッ!」

(ハート君、起きろ! 敵の座標が示されたぞ!)


バディの灼熱のウルトラ翻訳

「う、うーん……ふにゃ? あ、ホームズ……もう朝?」


ハート刑事は目をこすりながらソファから起き上がり、

ホームズが指し示しているブロックの焦げ跡を覗き込んだ。

彼女の「写真記憶」の回路が、

その焦げた模様の配置を脳内に焼き付ける。


「あれ? ブロックの裏が焦げてる……。えーっと、

『F・I・R・E』の裏のこの焦げ方……。……あーーーっ!」


ハートはガタッと立ち上がり、自分の顔を真っ赤に紅潮させた。


「分かったわ! ホームズ、

あなた『大人の恋(FIRE)』に目覚めたのね!?」


(……は? 何を言っているんだ君は。私は犬、いや、中身は老紳士だぞ)


「この焦げた十字のマーク……これって、

昨日テレビの占いでやってた

『今週のハッピー・ラッキー・デートスポット』の、

星の交差点の形とミリ単位で完全一致よ!

つまり、この近くにあるロマンチックな『高級ジュエリーショップ』で、

私に素敵な出会いがあるって予言してくれてるんだわ!」


(なぜだ!! なぜ『M』の悪意の座標が、

君の脳内を通ると『ハッピーなデートスポット』に変換されるんだ!

だが……待てよ。ジュエリーショップだと?)


ホームズはハッとした。彼女の言うジュエリーショップは、

まさに自分が導き出した『時計貴金属店』のすぐ隣、同じ区画にある。


(プロセスの妄想力は相変わらず天を衝くほど狂っているが……

目的地だけは、またしても寸分違わず一致している!)


「よし、素敵な出会い(臨検)を求めて、今すぐ出発よ、ホームズ!」


ハートは探偵用のジャケットをバサッと羽織り、

ホームズを抱き上げて雨の街へと飛び出した。

深夜の時計貴金属店で待つ、宿敵の罠。名探偵と迷刑事の、

13回目の狂想曲が幕を開ける。

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