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Episode 70:中編

Episode 70:中編


「見えざる歪曲(A-D-L-E-R)――空白と、暴かれた調律」


牙を剥くプロトコル

「バーバラ、その超高周波のノイズ……グリッドを拡大して! 単なる電波障害じゃないわ、これはロンドンの通信網そのものを『調律チューニング』し直している形跡だべ!」


ハナコ・ハート主任の鋭い指示に、特別捜査室の新米捜査員たちの間に緊張が走る。

バーバラの叩くキーボードの音に応じるように、モニターに表示されたロンドン中心部の地図が、真っ赤なエラーログで次々と侵食されていった。

「だめだべ、ハナコ姉様! このノイズ、ヤードの通信回線を内側からバイパス(迂回ルート)として利用して、ロンドン全域の防犯カメラのデータをどこか一箇所に吸い上げているべ!」


バーバラが顔を真っ青にして叫ぶ。

救出されたばかりの彼女が仕掛けた最新の防御壁ファイアウォールすらも、謎の空白時間に、いとも容易くすり抜けられていた。


(……やはりな。ハート主任、これは奴からの『就任祝い』というわけだ。アドラーモドキは、君が特別捜査室の主任になり、優秀な部下や機材を配置することを見越して、このヤードのシステムそのものに最初から『バックドア(裏口)』を仕込んでいたのだ)


デスクの上のホームズは、静かに立ち上がり、鋭いオードブル色の瞳でエラーの発生源を肉眼で精査した。奴の狙いは、ハート刑事個人のデータから、今や「スコットランドヤードが持つ国家級の捜査グリッド」そのものへとスケールアップしていたのだ。


操られた捜査員

「主任! 大変です! 配属されたばかりの解析班の端末が、外部から完全に遠隔操作リモートされています!」

新米捜査員の一人が悲鳴を上げた。

「なんですって!?」

ハート刑事がその端末へ駆け寄ろうとした瞬間、ホームズが「ワン!」と激しく吼えて彼女のルブタンの足元へ立ちはだかった。


(待て、ハート主任! 罠だ! 駆け寄る君の歩幅、初動のコンマ数秒のラグ、それらすべてが奴の『予測演算』に組み込まれている。君がその端末のキーボードに触れた瞬間、ヤードの最重要機密サーバーのロックが完全に解除されるよう、指紋認証システムがハッキングされているぞ!)


「えっ……!?」

ハート刑事の脳内測定器が、間一髪のところで破滅的な数値を弾き出した。

アドラーモドキは、ハート刑事の「部下を守るために即座に駆けつける」という正義の行動パターンすらも完璧に研究し、その肉体的な美徳を、セキュリティーを突破するための『鍵』として利用しようとしていたのだ。


深淵からの囁き

「くっ……! どこまで私を研究すれば気が済むのべ、アドラーモドキ……!」

ハート刑事は悔しさに唇を噛み、辛うじて踏みとどまった。

その時、遠隔操作されている捜査員の端末のスピーカーから、ジジ……とノイズが走り、あの忘れもしない、信じられないほど甘美で知的な女性の笑い声が響き渡った。

『フフ……素晴らしいわ、ハート主任。そして、さすがは名探偵のバディね。私の仕掛けた空白タイムラグに、これほど早く気づいて私の指先を止めるなんて』


「アイリーン……!」

ハート刑事がモニターを睨みつける。

『新設された特別捜査室の居心地はいかが? あなたがヤードの力を集めれば集めるほど、それは私にとって、ロンドンを丸ごと手に入れるための最高の『ゆりかご』になるのよ。さあ、次の脚本シナリオを始めましょうか』

画面のカウントダウンが、静かにゼロへと向かって動き出す。

ハート刑事を研究し尽くしたアドラーモドキの悪魔的なロジックは、今や特別捜査室の組織そのものを人質に取り、一人と一匹を底なしの深淵へと引きずり込もうとしていた――。

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