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Episode 67:中編

Episode 67:中編


「言語のミスマッチ(B-E-L-F-A-S-T)――解釈違い」

ハナコ・ハート刑事の動きには一分の隙もなかった。男の背後を完全に制し、ヤード仕込みの容赦ない関節技チキンウィング・アームロックでその身動きを完全に封じ込めている。


「痛い、痛い! 腕が抜けるべ! 何のことでっか、私はただ田舎の母ちゃんに電話してただけだべ!」


地面に顔を押し付けられた男が、涙を流しながら強烈な故郷の訛りで悲鳴を上げた。

そこへ、息を切らせたバーバラが、タブレットPCを抱えて路地裏へと飛び込んできた。


「ハナコ姉様、すぐに技を解くべ! その人はテロリストなんかじゃないべ。完全な『言葉の取り違い』が起きているべ!」


バーバラはハート刑事の顔を覗き込むように、早口で真実を告げる。

「私たちの実家やおじ様の故郷である北アイルランドでは、言葉の意味がこのロンドンとは全然違うんだべ。あの人が言った『Wee』は単に『小さい』という意味だし、『Deadly』は致命的どころか『最高だ、素晴らしい』という褒め言葉だべ。拠点を『Boggin』と言ったのは単に『ひどく散らかっている』とぼやいただけで、最後の『Bout ye?』は、あっちの地方の『元気にしてる?』っていうありふれた挨拶だべ!」


「えっ……?」

ハート刑事の動きが完全に凍りついた。あまりの解釈違いに、彼女の頭脳は一瞬にしてパニックに陥る。

「じゃあ……爆弾のテロ計画じゃなくて、ただの息子さんからお母さんへの電話だったの……!?」


ハート刑事は真っ青になって技を解こうとした。しかし、あまりの動揺に指先が完全にすくんでしまい、ガッチリと噛み合ってしまった柔術のロックがどうしても外れない。

「痛いべ! 早くしてけろ!」

「待って、焦れば焦るほど関節の噛み合わせが強固になって……抜けないのよ!」


(ハート君、落ち着くんだ。君の完璧すぎるホールドのせいで、哀れな同郷の男が完全に固定されたままだ……)


ホームズは深くため息をつき、その場に座り込んで状況を観察しようとした。

しかしその時、ポケット・ビーグルの鋭敏な嗅覚が、路地裏の湿った泥の匂いに混じる「ある香水の香り」を捉えた。


それは、記憶の奥深くに刻まれた、あの忘れもしない、薔薇のエッセンス。

(……待て。何かおかしい。この男の訛り、バーバラ君の完璧すぎるタイミングでの介入、そしてハート君のこの異常なまでのパニック……すべての要素が、まるであらかじめ美しく描かれた『脚本』の通りに動きすぎている……!)


「ワン!」とホームズが鋭く吼え、男が落としたスマートフォンの画面を指し示した。


ハート刑事を研究し尽くした「あの女」の欺瞞

スマートフォンの画面には、バーバラが指摘したような通信ログなど最初から存在していなかった。代わりに映し出されていたのは、一通の音声ファイルと、優雅な筆記体で書かれたメッセージだった。


『親愛なるハート刑事。言葉のパズルは楽しんでいただけたかしら?』


スピーカーから流れてきたのは、男の声ではなく、信じられないほど甘美で知的な「女性の笑い声」だった。

男が口にしていたスラングは、彼自身の言葉ではなく、小型イヤホンを通じてこの女性に「言わされていた」音声コードに過ぎなかったのだ。


「この声……まさか、自称『アイリーン・アドラーの生まれ変わり』……!」


バーバラがタブレットの画面を凝視したまま、顔を真っ青にさせた。

その女性は、ハナコ・ハート刑事のこれまでの捜査データや活躍を完璧に研究し尽くしていた。

ハート刑事の類まれな正義感、不正を許さない実直さ、そして「特定の不穏な単語を聴いたときに反射的に身体が動く」という行動パターンまでをも完全に掌握していたのだ。


彼女はハート刑事の卓越した柔術の技術であれば、一度極まれば動揺によって自らロックを解くまでに数十秒のタイムラグが生じることすら計算に入れていた。

わざと北アイルランドのスラングを男に喋らせてハート刑事を誤認逮捕へ誘導し、バーバラがそれを解説しに路地裏へ駆けつけるという「時間と配置」は、すべて彼女の掌の上だった。


(しまっていった……! ターゲットは最初からこの男でも、北アイルランドの回線でもない。ハート君の身体能力と正義感、そしてバーバラ君の明晰な頭脳。そのすべてを研究した上で、私たちをこの路地裏へ『釘付けにする』ことこそが彼女の真の狙いだ!)


本物のアイリーン・アドラーさながらに、ハート刑事の活躍を逆手にとって裏をかいた「生まれ変わり」の罠。

一人と一匹、そしてバーバラが完璧に騙されていたことを悟ったその瞬間、路地裏の壁の向こうから、彼女たちが引き離されていた「本当の標的」の悲鳴が響き始めた――。

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