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Episode 66:前編

Episode 66:前編


「気流のパズル(W-I-N-D-Y)――風の塔の暗号と、引き裂かれたリンク


ロンドンの風が集まる場所

ロンドンの街は、朝の霧が薄く晴れ、冷ややかな風がビルディングの隙間を滑るように抜けていた。ハナコ・ハート刑事の足元を歩くポケット・ビーグルのホームズは、常に鼻先を上空の気流へと向け、風のベクトル(向きと強さ)を狂いもなく読み続けていた。


(白猫の尻尾の動き――左へ一度、右へ二度、最後に強風。ハイドパークの芝生が描いていたのは、ロンドンの環境グリッドを逆手に取った“風の地図”だ。そして、そのラインが1対1のシンメトリーで交差するポイントは、ただ一つしかない)


到着した場所は、『ロンドン・ウィンド・オブザベーション・タワー(通称:風の塔)』。

街中の風を効率的に集め、最先端の気象データを解析する巨大な近代建造物だ。


休日仕様の柔らかなサマーニットを着たハナコ刑事は、見上げるような塔のフレームを見つめて言った。「ホームズ……ここが、さっきの“風が集まる場所”ってこと?」


ホームズは静かに、冷徹かつ健全な名探偵の瞳で吼えた。「……ワン(ああ、ハート君。ここが奴の仕掛けた電脳気流パズルの舞台だ)」


塔の内部に残された“風の痕跡”

塔の内部は静まり返り、無機質な観測機器が並ぶ中、巨大な風向計のインジケーターがゆっくりと回っていた。ホームズは床に鋭く鼻を近づける。


(……ハイドパークの芝生の匂い、そして……あの忌まわしい白猫の電脳ノイズ。間違いない、奴は少し前までここにいたな)


ハナコ刑事はルブタンの真っ赤なソールをカチリと響かせ、周囲を見回した。

「ここって、風を集めてデータにする場所だよね? 猫が来るような場所じゃないのに……」


その時、ホームズの視線が観測機器の台座の下に落ちている“非対称な何か”を捉えた。それは先ほどと同じ、新聞の天気欄の切れ端。人工的な風圧によってインクが数ミリ単位で精密に滲まされ、奇妙なフォントを形作っていた。


ハナコ刑事はそれを素早く拾い上げた。

「……これ、インクの滲みが“塔”って文字に読める……?」


(そうだ。奴は風のブレードを使って物理的に文字を印刷デザインしたのだ。まるで私に、このプロットの先を読めと挑発しているようにな。だが、大英帝国最高の灰色の脳細胞が、その程度の挑戦バグを見落とすと思うなよ)


風の塔の最上階、気流閉鎖

「風の流れが……完全に上へ向かって収束している。奴は最上階だ!」


ホームズは小さな身体をスタイリッシュに躍動させ、らせん階段を矢のように駆け上がった。

ハート刑事が息を切らしながらトレンチコート……ではなく、今日の休日デニムのフットワークで必死に追いかける。

「ホームズ、待って……! あなた本当に足が速すぎるわ……!」


最上階の展望デッキに到着すると、そこでは巨大な外部風向計が激しく回転していた。

そして――そのブレードの先端に、あの真っ白な猫が優雅に、冷酷に座っていたのだ。

風向計の回転周期に合わせ、白猫の尻尾がゆっくりと揺れる。


「え!? あんな高いところに……!」

ハート刑事が息を呑む。

(ふむ。風向計の回転速度と、白猫の尻尾の角度の比率。これは……風を使った“暗号コード”だな)


白猫はホームズを見つめ、人間のような歪んだ知性の瞳を光らせながら、尻尾を三度揺らした。

左へ一度。右へ一度。最後に、真上へ向けてピンと立てる。


(左へ一度――気圧の低下。右へ一度――方向転換。真上――強力な垂直上昇気流。……来るぞ、ハート君! これは風を使った“密室のトラップ”だ!)


ビュオォッ!!!

その瞬間、塔の内部に強烈な竜巻状の渦が発生した! 展望デッキのガラスがビリビリと震え、完全な気流閉鎖フリーズまであとカウントダウンがホームズの脳内で鳴り響く。

「きゃっ!? 風が……塔の中で渦巻いてる……!」


風圧でバランスを崩しかけたハート刑事の足元へ、ホームズはノーリミッツなスピードで飛びつき、そのしなやかなフレームで彼女の体を安全なデトックス・ゾーンへと引き離した!


(奴はこの風の檻で、私たちをここにホールドする気だな……!)


白猫は風向計の上でゆっくりと立ち上がると、発生した上昇気流のクッションをパラシュート代わりに使い、塔の外へと華麗に跳躍した。まるで空中を滑空するように、ロンドンの曇り空の彼方へと消えていく。


「ホームズ! 追わないと――!」

ハナコ刑事が叫ぶが、ホームズは静かに首を振った。

(無駄だ、ハート君。奴は完全にロンドンの風のネットワーク(セーフティ・ネット)を味方にしている。今は追えない)


風の渦がゆっくりと収まった床の上。ホームズは、白猫が去り際に落としていった、冷たい光を放つ“本当の罠”を見落としてはなさなかった。それは――またしても、引き裂かれた金属の指輪の欠片だったのだ。


リンド姉妹の事件から続く、この指輪のパズル。白猫が残した新しい事件の匂いは、一体誰をチェックメイトしようとしているのか?

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