Episode 64:後編
Episode 64:後編
「倫敦のバランス(T-H-E_Y-E-L-L-O-W_F-A-C-E)――純粋論理と、ハッピーエンドのレシーブ
静まり返ったテラスハウス。
悪夢の残滓を完全にデトックスしたホームズが、冷徹かつ健全な名探偵の瞳を取り戻したその時、玄関のスマート・ロックが軽快な電子音を鳴らした。
カチリ……。
ハート刑事のスマートキーが反応し、ドアが解錠される。
(おっと、ハート君の帰宅タイムだな。休日モードの彼女を驚かせないよう、私のベッド周りのグリッドを元通りに整えておかねば。名探偵のプライドが、悪夢の汗で湿ったクッションを見せるわけにはいかないからな)
ホームズは小さな身体をスタイリッシュに躍動させ、前足で器用にクッションを叩いてふっくらと整形。
首元のバンダナをいつものロジカルな角度へ直した。
「ただいま、ポチ君! お留守番ありがとう!」
ドアが開き、両手にデパ地下の高級食材を抱えたハナコ刑事が天真爛漫な笑顔で飛び込んできた。
ハート刑事の「無意識のセーフティ・ネット」
「あのねポチ君、街を歩いていたら、ヤードの同僚から『怪しい東洋人の男が路地裏で不審な言葉を呟いている』って緊急連絡が入ったの。脳内測定器がノーリミッツに暴走しそうになったんだけど……」
ハート刑事は、買い物袋をキッチンカウンター綺麗に整頓しながら語り始めた。
「でも、ふと今日の自分のカジュアルな私服を見て、ポチ君のいつもの冷静な視線を思い出したの。外見だけで『悪党に違いない』って決めつけるのは、ヤードのエースとして危険なバグだって! だから、じっくり観察してみたのよ」
ホームズは静かに耳を傾け、ウォーターを一口舐めた。
「そしたらね、その男の人はただ、迷子になったスコティッシュ・フォールドの仔猫を、拙い英語で必死に探して呼びかけていただけだったの! 私、速攻で仔猫を見つけて、保護してあげちゃった!」
ハート刑事は誇らしげに話す。
(……ふむ。素晴らしいぞ、ハート君。君の純粋な正義のフレームは、私が夢の中で恐れていた先入観という名のバグを、自らの力で完璧にクリーンアップしてみせたわけだ)
ホームズの胸を締め付けていた過去の亡霊(黄色い顔)は、ハート刑事の天真爛漫で、かつ偏見のない優しいロジックによって、完全にロンドンの霧の彼方へと消し去られた。
もし当時の自分が今のハート刑事のような純粋な瞳を持っていれば、あの「人間の判断」という名の過ちは起きなかっただろう。
「ワン! ワンワンッ!」
ホームズは嬉しそうに尻尾を振り、ハート刑事の足元へトコトコと歩み寄って、その柔らかなサマーニットの裾に鼻先を寄せた。
「ふふ、ポチ君も褒めてくれるのね? 今日の事件迷子猫は、これにて一件落着、完璧なチェックメイトよ!」
一人と一匹の、愛おしき癒やしタイム
夕暮れ時、空は優しい茜色に染まり、テラスハウスの床に美しい対称性の影を落としていた。
キッチンからは、ハート刑事が買ってきた最高級の鴨肉とハーブのローストが、ノーリミッツに香ばしい匂いを漂わせている。ホームズのディナー皿には、美しくカットされた特製ホネホネミートが盛り付けられていた。
「さあポチ君、休日モードの締めくくりは、美味しいディナーと秘密の癒やしタイムよ」
ハート刑事はデニムの足を優しく崩し、ふかふかのソファに座ってホームズをそっと抱き上げた。
(母上の遺した『MOTHER』の暗号、世界がどれほど複雑なパズルになろうとも、外見に惑わされない純粋な愛と論理がある限り、私たちの絆が揺らぐことはない)
ホームズはハート刑事の温かい腕の中で、今度は悪夢ではなく、どこまでもクリアで幸せな未来のタイムラインを見つめながら、静かに目を閉じた。
「今日もお疲れ様、私の最高の名探偵(ポチ君)」
「ワン」
ハナコ・ハート刑事と、大英帝国最高の脳細胞を持つポケット・ビーグルのホームズ。
この一人と一匹の、最高にロジカルで温かい「秘密の癒やしタイム」は、偏見のない美しい夜の静寂と共に、どこまでも優しく続いていくのだった。




