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Episode 8:前編

Episode 8:前編


R-U-Nのランナウェイ、宿敵の接近と、3文字の警告

デパートでの毒物混入未遂事件から数日。

ハート刑事のテラスハウス周辺には、

いつもと違う「重い空気」が漂っていた。


朝、いつものようにリビングで毛づくろいをしていたホームズは、

窓の外の景色を一瞥した瞬間に動きを止めた。

通りの向かい、街灯の陰に佇む、

長身で黒いトレンチコートを着た男。

その男の足元には、あの忌まわしいオッドアイの白猫が、

じっとこちらの窓を見上げて座っていた。


(……モリアーティ。ついに手駒だけでなく、

奴自身の影がここまで迫ってきたか。あの男は、

奴が新たに雇った一流の暗殺者に違いない)


ただならぬ危機を察したホームズは、

すぐさま絨毯の上のアルファベットブロックへと駆け寄った。

短い前足を高速で動かし、並べ替えたのは、

極めてシンプルかつ切実な3文字。


[ R - U - N ](ラン / 逃げろ)


「ワンッ! ワンワンッ!」

ホームズはブロックを激しく叩き、

出勤準備をしていたハートを呼び寄せた。


(ハート君、一刻を争う! 奴らが外で見張っている。

今すぐここを離れるんだ!)


2. ポジティブバディ、覚醒す

「ん? どうしたのホームズ、朝からそんなに吠えて……。

あ、またブロックね!」


ハート刑事はしゃがみ込み、

ホームズが必死に指し示す3文字をじっと見つめた。

彼女の写真記憶が「R-U-N」の文字列を脳内にスキャンする。


「『R』……『U』……『N』……。ラン……。あっ!」


ハートはパッと顔を輝かせ、自分の両頬を両手で包み込んだ。


「分かったわ! あなた、

私の最近の『お腹まわり』を気にしてくれてるのね!

RUNランニングしろ』ってことね!?」


(……は? いや、確かに君は最近ドーナツの食べ過ぎだが、

そういう話では──)


「確かに最近、刑事としてのキレが鈍ってたかもしれないわ……。

よし、決めた! 今日は警察署まで、

あなたと一緒に走って通勤するわよ、

ホームズ! ちょうど一昨日に、

最新のハイテクランニングシューズを買ったばかりだし!」


ハートはクローゼットからネオンピンクの派手なジャージを取り出し、

凄まじい素早さで着替え始めた。


(違う! 運動のすすめではない!

『避難しろ』と言っているんだ! なぜ君の解釈はそう、

常に前向きな肉体派になってしまうんだ!)


ホームズが頭を抱えている間に、

ハートは彼にしっかりとしたハーネスを装着し

、玄関の扉を勢いよく開け放った。


「よし、目標は5キロ先の警察署よ! スタート!」


(待て! 外には暗殺者が──!)


3. 爆走! ロンドンの朝霧を抜けて

「ハッハッハッ、ほらホームズ、遅れてるわよー!」

ハート刑事は朝の爽やかな空気の中、

ものすごいスピードで石畳を蹴り出した。


(くそっ、こうなったら付き合うしかない!

だが、後ろから……!)

ホームズは四肢をフル回転させて彼女に並走しながら、

バックミラー代わりにショーウィンドウのガラスを見た。


案の定、先ほどの黒マントの男が、

驚いた表情でこちらを追いかけてきている。

その動きは俊敏で、やはりタダ者ではない。

完全に「尾行」から「追跡」へとシフトしていた。


「ワンッ! ワンッ!」

(ハート君、後ろだ! 追っ手が来ている!)


「え? 『もっとスピードを上げろ(RUN)』って? よーし、

乗ってきたわよー! インターバルトレーニング開始!」


ハートはさらにギアを上げ、アスリート顔負けの爆走を始めた。


「な、何なんだあの女刑事のスピードは……!?」

後ろを走る暗殺者の息が、

みるみるうちに上がっていくのが遠目にも分かった。

彼は完全に、ハートの常軌を逸した

「朝のランニングの熱量」に巻き込まれていた。


迷路のような下町の路地を、

ネオンピンクの残像が右へ左へと駆け抜けていく。

ホームズは走りながら、心の中で確信していた。


(解釈は完全に狂っている……だが、このままいけば、

結果的に奴を完全に振り切れるぞ……!)


名探偵の意図せぬ「強行突破」のランニングは、

ロンドンの朝の霧を切り裂き、

宿敵の網を鮮やかにすり抜けていくのだった。

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