Episode 56:後編
Episode 56:後編
「真夏の熱中症対策と、王族のチェックメイト(S-H-E-I-K-H)」
ハリケーン・キックの残響と、第二の罠
「ドバババババババアン!!!」
夏仕様のタンクトップ姿となったハート刑事の、コートの呪縛から解き放たれた120%可動域の空中連続回し蹴りが、ハイドパークの草むらを猛烈に薙ぎ払った。
凄まじい風圧によって、起動したばかりのナノドローン毒針トラップは次々と飛行軌道を狂わされ、池の方向へと吹き飛ばされていく。
「オーウ! なんというダイナミックなロンドン警察の歓迎ポーズだ!」
離れた場所から見ていたドバイのモハメド首長をはじめとする王族一行は、その規格外の迎撃を「最先端のパフォーマンス」と勘違いしたのか、カジュアルに拍手を送っている。
だが、ホームズの鋭い鼻腔は、まだ真の危機が去っていないことを感じ取っていた。
(……チッ! 敵もさるもの。風圧で吹き飛ばされることを見越して、第二のバックアップシステムを起動させおったな。
池の対岸にある木陰……あそこに設置されている高出力の『電磁波増幅アンテナ』が、残ったドローンを再起動させ、今度は王族一行へ向けて音速で突撃させる構えだ!)
SPたちが気づいて盾になろうとするが、目に見えないナノサイズの毒針ドローンをすべて防ぎ切ることは不可能だ。
ハート刑事の極秘ガジェット:実費の「ノーリミッツ・ミスト」
(マズい、あと5秒でドローンが王族の防壁を突破するぞ! ハート君、何かあの目に見えない電磁波とドローンの視界を物理的に遮断するものは……)
ホームズが焦って周囲を見回したその瞬間、ハート刑事が、自分のストレッチパンツのベルトに装着されていた、見慣れない「大型の円筒形デバイス」をパッと引き抜いた。
「大丈夫よ、ホームズ! こんな真夏のハイドパークで一日中張り込み(警護)をさせられることを見越して、私、ヤードの予算が下りないから**『実費』で自腹を切って、最新型の『超微細・熱中症対策ポータブルミスト発生機』**を特注して買っておいたのよ!」
(……じ、実費だと!? ヤードの刑事でありながら、私費で防犯(暑さよけ)ガジェットを導入するとは相変わらずノーリミッツな行動力だ! だが、それだ!!)
ホームズは、石畳の上に転がっていた木製コースターの『S-H-E-I-K-H』の文字を、前足でカチャリと逆方向に弾いた。
[ S - H - E - I - K - H ]
(ハート君、そのミストの粒子サイズは!?)
「『H』『K』『I』『E』『H』『S』……フキエス! 吹き出せ、高密度・冷却シールド(ハイパー・ミスト)!! ……あーーーーっ!」
(やはり今日も『フキエス』か! だが意味が完全に繋がった!)
「分かったわ、ホームズ! この実費ミストの超微細な冷却粒子(水分)をハイドパークの熱気の中に一斉噴射して、ナノドローンの電磁レーダーを**『水分による乱反射』**で完全に目潰し(フキエス)しろっていう、科学的・冷却コマンドね!?」
(その通りだ! マイクロメートル単位の超微細ミストは、ナノドローンの光学センサーを遮断し、さらに電磁波を吸収して無効化する最強の『煙幕』になる! ハート君、君の自腹の暑さよけガジェットが、まさか大英帝国とドバイを救う防壁になるとはね。今すぐ全開でぶち撒けたまえ!)
ハイドパーク・ミスト・チェックメイト
「私の自腹パワー、舐めないでよね! ノーリミッツに冷え冷えになりなさーーーい!!」
ハート刑事はミスト発生機のバルブを最大に解放すると、ハイドパークの青空へ向かって、自慢のルブタン・サンダルで一気に跳躍した!
タンクトップ姿の彼女が宙で美しく身を翻すと同時に、発生機から「ブシューーーーッ!!!」という凄まじい音を立てて、氷点下寸前の冷たい超微細ミストが、辺り一面に白いドーム状に広がっていく。
「ワン!」
警察犬(兼・刑事補佐)のホームズも同時に地を蹴り、ミストの霧の中に突入! 持ち前の嗅覚で、視界を奪われて右往左往している対岸の暗殺犯(白猫の残党)の居場所を完璧に補足した。
「グルルゥ……ワンッ!!」
ホームズが霧の向こうの木陰を鋭く指し示す。
「見つけたわよ、国際指名手配犯!」
白いミストのカーテンを割って、夏の日差しを浴びたハート刑事が突撃する。電磁波を遮断され、ナノドローンがただの安全な「鉄の粉」となってパラパラと芝生に落ちる中、ハート刑事のルブタン・ヒールが、遠隔コントローラーを構えていた犯人の手元へと正確無比に炸裂した!
「てりゃぁぁぁーーーーっ!!!」
ドガシャァァァン!!!
コントローラーは粉々に砕け散り、犯人の男はハイドパークの池へと豪快に吹き飛んで「ドボォォォン!」と大きな水しぶきを上げた。
砂漠の鷹からの賞賛
「素晴らしい! まさかロンドン警察が、これほど涼しく、かつエキサイティングな熱中症対策の歓迎サプライズ(暗殺阻止)を用意してくれているとは!」
ミストが晴れ渡ったハイドパーク。
モハメド首長をはじめとするドバイの要人たちは、涼しい霧で暑さが吹き飛んだことに大喜びし、池で溺れかけている犯人をヤードの警官隊が捕縛する様子を見ながら、ハート刑事とホームズにこれ以上ない惜しみない拍手を送った。
「ハナコ・ハート刑事、そしてその賢い警察犬。あなたたちの素晴らしいホスピタリティに感謝して、我が国のニューマーケットにある最高級の競馬牧場へいつでも招待しよう!」
「まぁ! 高級牧場!? ありがとうございます、首長様!」
ハート刑事が満面のサマー笑顔で敬礼する。
(フッ……。夏の暑さを避けるための『実費ミスト』で、モリアーティのハイテク暗殺計画を物理的に『冷却・粉砕』するとはね。警察犬学校の卒業生としての初陣、要人警護としても……文句なしの、最高の『水揚げ(VIPサクセス)』かね)
ホームズは満足そうに首を振ると、涼しくなったハイドパークの芝生の上で、ハート刑事のルブタンの足元にそっと寄り添った。
「さあホームズ、最高の任務完了よ! 要人の皆さんにハロッズの最高級アイスクリームを奢ってもらいにいきましょ!」
「ワン!」と、夏の青空に響き渡る、世界一知的な生の声が一鳴き。
暑さを味方に変えて国際危機を救った凸凹バディの絆は、キラキラと輝くミストの光の中に、どこまでも爽やかに息づいているのだった。




