表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
116/163

Episode 54:前編

Episode 54:前編


「幕が上がる前の挽歌、そしてシェイクスピアの遺言(P-L-A-Y)」

劇場の灯りと、偉大なる劇作家ストーリーテラーへの手向け

ロンドンの中心地、演劇の聖地と呼ばれるウェスト・エンド。

その一角にある伝統的な劇場の前に、ハナコ・ハート刑事とポケット・ビーグルのホームズは静かに佇んでいた。


劇場の入り口には、世界で最も偉大な劇作家、ウィリアム・シェイクスピアの肖像画と共に、黒いリボンで飾られた一枚の大きな案内板が掲げられていた。

そこには、言葉を愛し、舞台を愛したすべての人々の胸を打つ、追悼の辞が刻まれている。


「芝居よければすべてよし」


劇場の客席から舞台へ、そして言葉へ、生涯にわたって惜しみない愛を注いだ者へ。


言葉を扱う表現者、そして物語や舞台を愛する多くの人々にとって、「生きた言葉」はこれからも劇場の灯りとして残り続けることと思います。心よりご冥福をお祈りいたします。


「……芝居よければすべてよし(オールズ・ウェル・ザット・エンズ・ウェル)、ね。どんなに現実が厳しくても、最後の幕が美しく下りるなら、そこに紡がれた言葉は永遠に人々の心に残り続ける。本当に素敵な言葉だわ」


ハート刑事は、いつになく真剣な表情でその文字を読み上げ、胸元に手を当てて深く一礼した。

プロの創作者として言葉を扱い、物語を愛する彼女にとって、この劇場の灯りは自らの魂の拠り所でもあった。


だが、名探偵ホームズの鋭い鼻腔は、その厳かな追悼の空気の中に、決して混ざるはずのない「電脳的な悪意」の匂いを敏感に察知していた。


(……クンクン。この案内板に塗られた特殊なインク、微かに最新ナノドットが仕込まれているな。モリアーティ……奴は言葉を愛する表現者たちの祈りの場すら、自らの冷徹なチェス盤(犯罪の舞台)に変えるつもりか)


客席に隠された「踊るアルファベット」

劇場の中に入ると、夜の公演を控えた客席は薄暗く、独特の緊張感が漂っていた。

ホームズはトコトコと誰もいない最前列の特等席へ向かい、その赤いベルベットのシートの上にぽんと前足を乗せた。


(やはりな。ステージの上の台本スクリプトデータが、劇場のメインサーバーごとハッキングされている。奴らはシェイクスピアの戯曲の『生きた言葉』をすべて消去し、観客をマインドコントロールするための電脳コードへと書き換えようとしているんだ。もし幕が上がれば、客席の人々は言葉の美しさを奪われ、ただの操り人形と化してしまう)


言葉を扱う表現者の命である「生きた言葉」を守るため、そしてこの美しい物語の灯りを消さないため、名探偵の脳細胞が超高速で回転を始める。


ホームズは、客席の肘掛けに備え付けられていた劇場の記念チャーム(アルファベットの刻印が入ったミニプレート)を4つ、前足で素早く整列させた。

[ P - L - A - Y ](プレイ / 芝居、上演)


ハート刑事の「プレイ(PLAY)超翻訳」

「ちょっとホームズ、劇場の記念品で遊んじゃダメよ……って、あら!?」


ハート刑事は、肘掛けの上に並んだ4つの文字を対面(逆さま)から網膜(写真記憶)にロックオンした。劇場のスポットライトの残光の中で、彼女のポニーテールが静かに揺れる。


「『Y』『A』『L』『P』……ヤルプ! 夜間大連祷よる・あん・れん・とう!! ……あーーーーっ!」


(大連祷……!? 演劇(PLAY)の話をしているのに、なぜ突然真夜中の厳かな祈りの儀式が始まってしまうんだ!! 普通に『PLAY』と読みたまえ、ハート君!)


「分かったわ、ホームズ! これは、犯人がこの劇場の舞台裏を**『言葉の魂を閉じ込める夜間大連祷の祭壇(YALP)』**に見立てて、シェイクスピアの生きた言葉をデジタルに呪縛しようとしてるっていう、文芸・オカルトコマンドね!?」


(違う! 呪術ではない! ……いや、待て。

ハート君の言っている『夜間の言葉の呪縛(祭壇)』……。

あの『P-L-A-Y』の文字は、劇場の舞台照明のメインコントロール(Y軸・A軸・L軸・Pポイント)の隠しパスワードだ! 犯人は照明の光の波長を使って、舞台上の役者のセリフ(言葉)をデータごと焼き切ろうとしている……! ハート君、君の夜間祈祷妄想は相変わらず劇作家も驚くファンタジーだが、電脳トラップが仕掛けられた『物理的な制御システム』の特定だけは、やはり世界一の名探偵(私)と完全に一致している!)


幕が上がる前のカウントダウン

「舞台監督、今すぐ全ての照明ラインを緊急ホールドしなさい! 劇場の灯りを守る戦いの始まりよ!」


ハート刑事の凛とした声が、誰もいない劇場の空間に響き渡る。

(フッ……。『芝居よければすべてよし』。モリアーティ、君がどんなに冷徹な台本プログラムを用意しようとも、名探偵とこの最高の表現者(ハート君)が、貴様のシナリオを完璧な喜劇ハッピーエンドに書き換えてみせよう)


「ワン!」と、薄暗い劇場に響き渡る、世界一知的な生の声が一鳴き。

言葉を愛するすべての人のために、そして劇場の灯りを守るための凸凹バディの命がけの「千秋楽が幕を開ける!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ