Episode 53:前編
Episode 53:前編
「パブの妖精と、ステップを踏まない名探偵(T-A-P-S)」
ホネホネビルの「アイリッシュ・パブ」開店!
「さあさあ、ロンドンの都会人ども! 今日からここホネホネビルの地下フロアは、アイルランドの風が吹き荒れる最高のリトリート空間だべ!」
バーバラの威勢のいい掛け声と共に、ホネホネビルの地下大空間に、新たな「新名物」が産声を上げた。
それは、アイルランドの濃厚な音楽とダンス、そしてパブ文化を100%完全再現した本場さながらのタップ・パブ。
レンガ調のクラシックな店内には、ギネスビールの芳醇な香りが漂い、ステージではフィドル(バイオリン)、ティンホイッスル(縦笛)、バウロン(太鼓)、そしてイリャンパイプス(バグパイプの一種)を持った楽師たちが、軽快で躍動感あふれるトラッド・セッションをかき鳴らしている。
「すごいべホームズ様! 個人向けオフィス(前回の改装)で頭を使い果たしたクリエイターたちが、夜にはここでビールを飲んで踊って、脳みそを大洗濯していくべ!」
フロントで満面の笑みを浮かべるバーバラ。実は彼女、緑豊かな故郷の牧場で、羊の群れをステップだけで統率していたという、知る人ぞ知る**「アイリッシュダンスの超達人」**だったのだ。
バーバラの超絶ステップと、ハート刑事の参戦
「タタタン! タタタタン! ズバババババン!!」
ステージの上で、バーバラの超絶ステップが炸裂する。
上半身を微動だにせず真っ直ぐに固定したまま、足先だけでマッハ並みの高速タップ音を刻むその姿は、まるでアイルランドの妖精そのものだ。
「あら、楽しそうねバーバラ! 私のルブタンのヒールも、この伝統のリズム(写真記憶)を刻みたくてウズウズしているわ!」
ヤードの事務仕事をテキパキと片付けたハート刑事も、トレンチコートを脱ぎ捨ててステージへ乱入!
「いきますよ、ノーリミッツにアイリッシュ・ステップ!!」
ハート刑事は、驚異の身体能力でバーバラの高速タップを完コピ。上半身は気高く美しい直立不動のまま、ルブタンのピンヒールが床板を「ドガガガガガッ!」と凄まじい音(半分床が割れそうな破壊力)で打ち鳴らす。二人の美女による圧巻のダンスセッションに、パブを埋め尽くした客たちからは割れんばかりの大歓声が巻き起こった。
名探偵、宙を舞う(皆に抱きかかえられて)
一方、カウンターの特等席で黒ビール(の泡だけ)を嗜んでいたポケット・ビーグルのホームズは、完全に巻き込まれていた。
「おい見ろよ、あの可愛いビーグル犬! ホネホネビルのCEOだろ? 一緒に踊ろうぜ!」
「ホームズ様もノーリミッツにダンスだべ!」
お酒の入った陽気なフリーランスの起業家たちや、興奮したバーバラ、ハート刑事の手によって、ホームズの小さな肉体は「わっしょい!」とばかりに頭上へと抱き上げられた。
(ま、待ちたまえ! 私は踊らん! 私はシャーロック・ホームズ……うわっ、トトト、空中を歩かせるな!!)
上半身を固定されたハート刑事たちの腕の中で、ホームズは空中をジタバタと犬かきのように動かされ、まるで自分がステップを踏んでいるかのように四方八方へとラグビーボールのごとくパスされながら踊らされる羽目になった。
その混沌とした熱気の中、ホームズは、カウンターの端に並べられたビールのコースター(アルファベットのロゴ入り)が、ダンスの振動でカチャカチャと並び替わっていくのを見逃さなかった。
[ T - A - P - S ](タップス / 刻まれるリズム)
ハート刑事の「タップ(TAPS)超翻訳・パブ編」
「ちょっとホームズ、宙に浮きながらコースターを並び替えるなんて、器用な空中ステップね……って、あら!?」
ホームズを抱きかかえたまま、ハート刑事の網膜(写真記憶)が床……ではなくカウンターの4文字にロックオン! 激しいダンスのリズムに合わせて、彼女のポニーテールがメトロノームのように激しく左右にスイングする!
「『S』『P』『A』『T』……スパット! 超時空・空間変位!! ……あーーーーっ!」
(またしても壮大なSF単語が爆誕したぞ!! 普通に『TAPS』と読みたまえ、ハート君!)
「分かったわ、ホームズ! これは、バーバラの足音と私のルブタンの振動が、パブの床下を流れる**『超時空の空間変位プレート(SPAT)』**の周波数と完全に合致しちゃったから、このまま地球の裏側までステップでブチ抜いて進めっていう、大地のドリル・コマンドね!?」
(違う! 地球はブチ抜かない! ……いや、待て。
ハート君の言っている『床下の振動の合致』……。
このホネホネビルの地下フロアの真下には、19世紀にモリアーティの祖先が残した『不発の旧式ガス貯蔵庫』のハッチが眠っている。
二人の正確無比な高速タップの振動(周波数)は、そのハッチの錆びついたロックを、物理的な音響共鳴で『解除』しようとしているんだ……! ハート君、君の地球空洞説みたいな暴走翻訳は相変わらず狂気だが、地下の秘密を暴く『共振のターゲット』の特定だけは、やはり世界一の名探偵(私)と1ミリの狂いもない!)
激震の地下室
「タタタタタン! ズガァァァン!!」
ハート刑事とバーバラの最後のシンクロ・タップが床に叩き込まれたその瞬間、パブの奥の壁板が「ガコン!」と大きな音を立ててスライドし、誰も知らない古い隠し地下室への階段が姿を現した。
(フッ……。アイリッシュのリズムに合わせて、モリアーティの過去の遺産(チェス盤)がまた一つ開きおったか。バーバラ君、ハート君。ダンスの時間はここまでだ。これより、名探偵の『地下捜査』を始めようじゃないか)
「ワン!」と、陽気なアイリッシュ・パブに響き渡る、世界一知的な生の声が一鳴き。
ビルの新名物から突如として繋がった、モリアーティの秘密の遺産を巡る、
「凸凹バディと野生のダンサー(バーバラ)のアンダーグラウンド・ステップが幕を開ける!




