Episode 49:後編
Episode 49:後編
「終着駅の光と、探偵のビーフジャーキー」
暴走する鉄の塊
「全車両の緊急停止ボタンはすべて無効化されている! このままじゃ、ターミナル駅で大惨事だ!」
ケント刑事が制御室で叫ぶ。
ホームズは落ち着き払った様子で、手元のビーフジャーキーを爪で弄んだ。
「落ち着け、ケント。彼らは『焼き印』という過去の傷を消すために、未来へ突っ込もうとしている。だが、彼らが忘れていることが一つある。……地下鉄の電流は、個別の車両ではなく、路線全体で管理されているということだ。」
ホームズは、さっきまでハート刑事が持っていた古い配線図を奪い取ると、ホームの壁の裏側に隠された「緊急遮断スイッチ」へ目出し帽を被った男たちを誘導するように、わざと大声で吠えた。
「ワンワン、ワンワン」
「そうか! 『NIK-S』のコードは、電圧管理室のパスワードと連動しているのか!」
ハート刑事の「緊急突撃」
犯人たちは、「秘密を知られた」と勘違いし、慌てて電圧管理室へとなだれ込んだ。
「そこだ! 捕まえろ!」
ホームズの罠にはまり、電圧管理室の扉を蹴破った犯人グループの前に、待ち構えていたのはハート刑事だった。
「広報担当だと思ってナメないで! あなたたちの無念は分かるけど、市民を巻き込むのは別問題よ!」
ハート刑事は、手に持っていた**「高級ビーフジャーキー」の袋**を、電圧を調整する巨大なレバーの隙間に勢いよく詰め込んだ。
「これが私の『ブレーキ』よ!!」
――ボッ! という音と共に、火花が散る。
ジャーキーに含まれる塩分と脂が、古い配線の中でショートを誘発。地下鉄全体の回路が悲鳴を上げ、暴走していた全ての車両が、電磁ブレーキを一斉に作動させた。
ロンドンの朝は、ジャーキーの味
ロンドンの地下を揺るがした巨大な暴走事件は、間一髪で回避された。
スキンヘッドの男たちは、地下鉄の不当な労働環境を告発するための「最後の抗議」としてこの事件を起こしたことが判明。
彼らのリーダーは、ハート刑事の鋭い尋問の前に膝をつき、全てを自供した。
ケント刑事は、証拠物件として回収された「油まみれのビーフジャーキーの残骸」を見て、少しだけ寂しそうな顔をした。
「……ホームズ、君の探偵料、こんな形で消費されるとはな」
ホームズは、何事もなかったかのように紅茶をすすり、窓の外を見つめた。
「報酬なんてものは、事件が解決した後の静寂だけで十分だ。……それに、あれはビーフジャーキーとしては少し硬すぎた。配線には丁度よかったがね」
ハート刑事は、広報室で山積みの書類を前に、小さくため息をついた。
「明日の朝刊の見出しは、『スキンヘッドの反乱、広報室のジャーキーで鎮圧』……か。上司に怒られるわね」
ロンドンの街に、また一つ、語り継がれる奇妙な事件が幕を閉じた。
地下鉄の深部には、今日もひっそりと、かつて労働者たちが刻んだ「焼き印」の秘密が眠っている。




