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Episode 47:前編

Episode 47:前編


「白い影の罠と、電脳オフィスの夜明け(O-F-F-I)」


悲劇のハイウェイ、そして「白い影」

すべては、一本の激しいブレーキ音から始まった。

平日の夕暮れ、ヤードへの帰路。ハート刑事の運転するクラシックカーの前に、突如として**一匹の白猫**が飛び出したのだ。


「危ないっ!」

咄嗟にハンドルを切ったハート刑事は、白猫を無傷で避けたものの、車はそのまま路肩の電柱へと激しく激突。

現場から優雅に立ち去るオッドアイの影を見送る間もなく、彼女は意識を失ってしまった。


病院の緊急搬送口。頭に包帯を巻かれ、ICU(集中治療室)へと運ばれていくハート刑事。


救急車に同乗していた、ポケット・ビーグルのホームズは、必死に彼女のベッドを追おうとしたが、無情にも防犯ゲートの警備員にガシッと抱きとめられてしまった。


「ダメだよワンちゃん、ここは人間専用の病院だ。立ち入り禁止!」


(くそっ! 放せ! ハート君の容態はどうなんだ!? 頭を強く打っていたぞ……!)


言葉を失ったホームズが受付のロビーで途方に暮れていると、ヤードからの緊急連絡を受けたバーバラが、息を切らせて駆けつけてくれた。


「ホームズ様! 大変だべ、ハナコ姉様が……! とりあえず、ここは私がホームズ様をお預かりするべ。一緒にホネホネビルへ行くべ!」


バーバラとの「ブロック対話」と、ビル大改革

ハート刑事が不在のまま、ホームズはホネホネビルの管理人室でバーバラと過ごす日々が始まった。

ガジェットのない今、ホームズの唯一の通信手段は知育アルファベットブロック。


しかし、普段から牧場の動物たちと心を通わせるバーバラは、驚くほど素直にホームズの「文字」を受け入れた。


カチャカチャ、カチャカチャ……。

ホームズは短い前足で、ホネホネビルの空きフロア(事務所部分)を有効活用するための、緻密な「経営改革プラン」の頭文字を床に並べた。

[ O - F - F - I ](オフィス / 事務所改革)


「おぉ……ホームズ様、これは『オッ・フィ(押し入れ・フィット)』だべな!?」


バーバラが目を丸くする。

(……いや、オフィス(OFFICE)だ。押し入れではない)


「都会の狭い部屋(押し入れ)に閉じこもって仕事をしてる個人フリーランスの人たちに、このビルの広いスペースを『レンタルデスク』として開放するべ! ってことだべな!?」


(……! 素晴らしい! 『押し入れ・フィット』という謎の単語から、完璧に『個人向けコワーキングスペース』の需要を導き出したか! バーバラ君、君の野生の勘は、ハート君の暴走翻訳とは違って極めて実用的だ!)


ホームズの狙いは完璧だった。

さらにバーバラは、ホームズが並べた「CAFE」や「BUFFET」のブロックを見て、さらに閃きを加速させる。


「そうと決まれば、ビルの自慢の吹き抜け階に、仕事しながら食べられる『オープンビュッフェ併設のホームズCAFE』を大展開するべ! 題して、**【ホームズ・オフィス】**の開業だべ!」


商談は一瞬で成立した。

ハート刑事を心配するプロフェッショナルな名探偵の脳細胞は、彼女の留守中にビルの資産価値を爆発的に高めることで、その不安を紛らわせようとしていたのだ。


ホームズ・オフィススペースの華々しいオープン

数日後、ホネホネビルの事務所フロアは、ロンドン屈指の最新電脳空間へと生まれ変わった。

開放的な吹き抜け階には、バーバラ特製のミルクドーナツや新鮮なサラダが並ぶ「オープンビュッフェ」が併設され、個人向けのスタイリッシュなレンタルデスクには、ロンドン中のクリエイターや起業家たちが殺到した。


「すごいべホームズ様! ビルの『水揚げ』が、3倍になってるべ!」


フロントのデスク(通称:ホームズデスク)の上に凛々しく座るポケット・ビーグル。

その姿は、今やホネホネビルの天才最高経営責任者(CEO)そのものだった。


しかし、ホームズの心は晴れなかった。

(ハート君……。ビルの経営は軌道に乗った。だが、君のいない日々は、どうにも締まらん。君のあの、時空を歪めるようなめちゃくちゃな超翻訳が、妙に恋しいのだ……)


退院の日、そして「異変」

そして、事故から1週間後。

ついにハート刑事が退院し、ホネホネビルの『ホームズ・オフィス』へやってきた。


「ただいま、バーバラ、ホームズ! 心配をかけて悪かったわね」


ドアを開けて入ってきたハート刑事は、頭の包帯は、あるが、相変わらず美しいポニーテールを揺らしていた。ホームズは嬉しさのあまり、デスクから飛び降りて彼女の足元へ駆け寄った。


(ハート君! 無事だったか! 頭の傷は……脳へのダメージは大丈夫なのか!?)


「ワン、ワンワンッ!」

ホームズは、彼女の無事を確認するため、そしていつもの「超翻訳バトル」を覚悟して、床に『OFFI』のブロックを並べて彼女を見上げた。


しかし、ハート刑事は床のブロックをじっと見つめると、フッと知的な微笑みを浮かべ、実にあっさりとこう言ったのだ。


「あ、これ、**『OFFICEオフィス』**の略ね。私がいない間に、ここを個人向けのレンタルデスクとビュッフェ型カフェに改装してくれたのね。素晴らしい経営戦略だわ、ホームズ」


(……え?)

ホームズは硬直した。

逆から読まない。パエリアも地蔵もイラクサも出てこない。完璧に、100%正確な論理オフィスとして文字列を認識している。


(は、ハート君……? 君、今、普通に『オフィス』と読んだか……? 逆立ちして『イッフオ』とか叫ばないのか……!?)


「あ、今回の改装に関するヤードの許可書と為替レートの計算書(写真記憶)だけど、すべて数式通りに処理しておいたから安心しなさい」


バーバラが横からこっそりホームズに耳打ちする。

「ホームズ様……ハナコ姉様、お医者様が言うには『頭を強く打った衝撃で、脳の妙なバイパス(ボケ回路)が一時的に正常化しちゃった』らしいべ……」


(な、何ということだ……! 事故の衝撃で、ハート君のアイデンティティである『あの壊滅的なボケ』が、綺麗さっぱり消滅してしまったというのか!?)


完璧に知的で、完璧にスマート。ボケが完全に無くなり、ただの「超優秀な美人エリート刑事」になってしまったハート刑事。

この異変が、凸凹バディの絆に前代未聞の危機をもたらす、ロンドンの街に静かな、しかし決定的な違和感が広がり始める――!

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