第4回 トラブルは勝手に来る
「あ゛~~~~~~~!!! 失敗したぁぁあ……!!」
部屋の中で、イロリは頭を押さえて嘆く。
僕が当座の宿にしているところだ。
ギルド公認の宿屋で、冒険者はいくらか割引がある。
ただし、部屋の質は良くない。
どっちかというと、悪い。
夏は涼しいけど、冬は寒い。
幸い、今の季節はちょうどよい気候なので楽。
「すまん、すまん……! ノーマルじゃなかったから、セッタのカードが出なかった。限界突破できない……!」
イロリは土下座しながらすごい顔で泣き出した。
「ちょ、よしなよ」
「でも……!」
「その限界突破って、つまり成長の壁を破るってことだよな」
「うん……」
「じゃ、別にいきなり強くなるわけじゃないと」
「そだね。レベル上げにはコツコツ経験値稼ぐしかないかな。ゲーム準拠なら、EXPの多いクエスト周回できればいいんだけど……」
「そっか……。で、僕のレベル? それはもう限界までいってるわけ?」
僕がそう尋ねると、
「ん~と。今は100~~……。いや、ぜんぜん。300以上はいける」
イロリは首を振った。
「だったら、気にする必要ないよ。これから経験つまなきゃいけないんだから。上限ばかり上げても仕方ないだろ?」
「けど、せっかくのお金ほぼ使っちゃったし……」
「一応やったのは僕だけど、サイクロプスを倒せたのは君のおかげだよ」
「そっか……」
「うん。それはそれとして。イロリは行くあて、ないんだっけ?」
「はあ。まったくないです。あははは……」
イロリは引きつった笑顔。
「だったらしばらくは僕が何とかするよ。幸い、サイクロプス討伐でけっこう稼げたからね」
「ううう……。ありがてえ、ありがてえ……」
イロリは拝むような格好で何度も頭を下げた。
何か……逆に居心地悪いな、こういう態度取られると。
で――
「ZZZZZZ……」
イロリはベッドに寝転ぶと、すぐに眠ってしまった。
うーん。
結構図太い?
いや、疲れてるんだろうなあ……。
話を聞く限り、突然遠いところから放り出されたわけだし。
言ってることがおかしいのも、だいぶ混乱してるんだろう。
もしかすると……。
これは夢だって、思ってるのかな?
布団をかけてやりながら、そんなことを思った。
はあ。
でも、よく考えたら会ったばかりの女の子と同室かぁ。
だけどドキドキするような余裕もないな。
色々ありすぎて、僕も疲れた……。
――。
「……ん」
朝の光。
それと近くの気配で、僕は目を覚ました。
横を向くと、
「あ。おはよ」
女の子の顔。
「うわっ」
反射的にベッドから飛び降りてしまう。
そうか、イロリ……。
昨日この子と出会って、サイクロプスを倒して――
夢みたいな話だけど夢じゃない。
「あ、いや。へ、へ、へ……」
イロリは何か態度を変えて、変な顔で笑った。
「……? ええと、おはよう。よく寝れた?」
「へ。ま、まあまあ? とりあえず疲れてはいない、かな?」
イロリは変な顔のまま、頭を掻いてる。
「んー。そっか。じゃあ、朝飯食べた後、着替えでも買いに行こうか?」
「お、お願いできるかなー。お金ないし」
「それは知ってる」
引きつった笑顔のイロリに、僕は苦笑を返した。
――。
「ゆうべは気づかなかったけど……。こっちの料理、けっこう美味しいねえ?」
シチューと肉入りパンを食べながら、イロリは感心してる。
「飛び上がるような感じではないけど……。飽きがこないというか、安心できるというか」
「まあ、ここで出るのは家庭料理の延長みたいなもんだから」
ギルドの食事をしながら、僕らは雑談を交わす。
どうもイロリの故郷は料理が美味しいらしい。
ちょっと、その国の料理食べてみたいかも。
そんな時だった。
「おい」
ドスの効いた声が飛んできた。
おまけに、殺気も。
振り返ってみれば、
「てめえ、何か小細工したろう」
数人の冒険者。
たぶん同じNランクは一つ上のHNぐらいと思う。
険悪な顔つきで、僕を睨んでくる。
「小細工? ……何のこと?」
「とぼけるな! 昨日までゴブリンやスライムばっかり追いかけてた雑魚が、サイクロプスを殺れるわけねえだろ!?」
……。
あー……。
まあ、確かに怪しすぎるよな我が事ながら……。
「インチキも小細工もしてない」
「うるせぇ!!」
男の一人が、いきなり胸ぐらをつかんでくる。
いや、つかもうとしてきた。
動きがひどくのろくって、わかりやすかった。
だから簡単にかわせた。
「このガキッ……!」
かわすと相手は余計に怒って、今度は殴りかかってきた。
これものろいし、動きから何から見え見えだった。
片手でキャッチしたけど、ほとんど赤ちゃんパンチ。
そう感じてしまった。
こっちも腹が立ったので。
つかんだ拳を強く握ると、
「……い、ぎゃあああああ!?」
相手は大げさに痛がる。
いや? 僕としても……。
その気になれば、握る潰せるんじゃないかと思った。
「ひ……」
後ろで、イロリが立ち上がった。
いきなりの暴力沙汰におびえている。
こいつら……。
僕は、ケンカを売ってきた連中に怒りがわいてきた。
ギルド職員に詰められるならまだしも?
何でこいつらに文句言われて、ケンカ売られなきゃいけないんだよ。
「てめえ!!」
横から別のヤツが殴りかかってきたけど。
これも動きというか、気配がすぐにわかった。
思わず振り払うみたいに、片腕を振るう。
すると、
「げはっ……」
相手はだらしなく吹っ飛んでいく。
そのまま、別のテーブルに激突した。
あ、やばい。
他の人も余計な迷惑が……。
そう思ってると、
「こ、このクソガキが……!!」
相手側を完全に怒らせたらしい。
刃物でも抜きそうな目つきで、僕を睨んできた。




