第3回 彼女の言うことはよくわからない
ズン……と、地響きを上げてサイクロプスは倒れる。
着地して振り返ると、
「やった……? ホントに……?」
手ごたえどおり。
僕の剣はサイクロプスの頭を叩き割り、即死させた……らしい。
サイクロプスを斬った剣。
自分の手。
それを見ながら、僕は今さらになって震えた。
「勝った……? サイクロプスに? 一人で?」
信じられない。
サイクロプスは強敵だ。
レアランクどころか、HRだって危ないって聞く。
そんなのをたった一撃で……。
おまけにさっきのは、
「強化斬り……」
剣に闘気をこめて相手を叩き切るアビリティ。
一人前の剣士の証。
今まで一度も使えなかったのに、こんなあっさりと。
「うおおおい」
イロリがこっちに駆け寄ってくる。
あ、転んだ。
「だ、大丈夫?」
急いで手を貸すと、
「あ、へーきへーき……。限界突破は、成功みたいだね」
僕を見上げながら、イロリは笑った。
「何が起こったんだ? その急にすごい力がわいて、体が軽くなって、思い通りに動けて……」
「セッタは限界を破ってレベルアップしたんだよ! 今まで貯めてた経験値があったから、一気に……。おお、レベル100超えてるじゃないの! やっぱすごいがんばってきたんだねえ!? 感動した!!」
言ってることはわからないけど……。
イロリのおかげだっていうのは、わかった。
「その、ありがとう」
「ははは。いやいやいやいや。そんな」
イロリは照れ臭そうに笑っている。
その笑顔だけで、僕は色んなものが報われた気がした。
と思っていたら、
「う゛っ」
サイクロプスの死体を見て、イロリは顔色を変えた。
そして、
「お゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛………!!!」
また盛大に吐いた。
さっきもだいぶ吐いてたから、今度はほとんど水。
胃液というやつだろうか?
その後。
僕は街までグロッキーになったイロリを背負っていくことに。
でも、ぜんぜん負担はない。
鎧も剣も軽く感じる。
全身の筋力が大幅に上がってるのだ。
イロリか。
不思議というか、ものすごく怪しいけど。
だけど、嫌なモノはぜんぜん感じない。
変だけど、一緒にいてどこか安心する女の子だ……。
――。
すったもんだはあったけど。
とにかく、無事に街へ帰れた。
帰れたんだけど、
「えええっ!? さ、サイクロプス!?」
すごい声が上がった……。
ギルドカードを確認したギルドの受付嬢だ。
「はあ、ギルドカードって現物があるわけじゃないんだ?」
宙に浮かぶギルドカードを見て、イロリはつぶやく。
受付に設置された読み取り機。
特殊なマジックアイテムなのだけど……。
これで色んな情報がすぐわかる。
「ん? ああ、カードって言ってるけど、実際は小型の魔法陣だね」
僕は右の手を見せた。
手のひらに、小さな魔法陣が浮かんでいる。
「これで倒したモンスターとかが正確に記録されるんだ。僕もよくは知らないけど」
「はえー。何か地味にすげえ魔法じゃない?」
「言われてみると、そうだよな。あんまり深く考えたことなかったけど」
そんな話の途中、
「あ」
イロリは少しだけ顔色を悪くした。
「え。どうしたの?」
「いや。あの、ちょっとおなかが……」
「え!? 痛いのか?」
「えと、その、いや。すいちゃった感じ?」
そう言って、イロリは顔を赤くした。
――。
「つまり……。君は、その二ホンってところから来ちゃったと……」
「まあ、そんな感じ。その時に、何か特典? スキルをもらったみたいで」
料理を食べながらイロリは言った。
ギルドの建物は、一階が受付とロビー。
それから、食堂を兼ねている。
だからいつも人にあふれているわけで。
「それじゃ家族とか……」
「ん……。ちょっと気まずい感じだったけど、妹が先に結婚しちゃって、先月子ども生まれてさ……」
「へえ……。え、妹? 子ども? ああ……。結婚早いんだね、二ホンって」
「んん?」
「え、だって。君、俺と同じくらいに見えるけど。あれ、もしかして寿命の長い種族だったり? 人間かと思ってた」
「え? うん。うん……? え?」
イロリは急に混乱し始めた。
自分の手を見たり、顔を触ったり。
「ちょ、ま……。か、鏡とかない。持ってない!?」
「い、いや、あいにく……。トイレにならあると思うけど」
「と、トイレどこ!?」
「いや、右手の奥に……」
僕が言い切る前に、イロリはトイレに向かって猛ダッシュしていった。
……どういうことなの?
かと思えば。
何かすごいニコニコ顔で戻ってきた。
「いやー、どうなることかと思ってたけど……。もっかいジグザグ青春ロードできるなんて、おねーさん大感激だよ……」
イロリはまた、わけのわからないことを言ってる。
その後、
「と、とにかく? 私のスキルで君の限界値をどんどん突破できるから、クエストがんばって大丈夫だよ!」
「う、うん。まだあまり実感ないけど、強くなったのはわかる」
僕は握った拳を見つめ、うなずいた。
「とことで、イロリはこれからどうするの? 僕はとりあえずお礼がしたいんだけど」
「へ? あー……。じゃ、とりあえず服とか? つーか何だよジャージって……」
イロリは自分の服を引っ張りながら言った。
「じゃあ、まず服とか色々買って……。それと、お金を半分渡さないと」
「お金?」
「うん。サイクロプスを倒したヤツが……」
「ど、どれくらい?」
「ええと、今出すね。だいたい……」
サイクロプス討伐の報酬を半分に分けると、
「……え。こんなに!? めっちゃガチャ引けるじゃん!?」
イロリはまたわけのわからないことを言っている。
硬貨の前に両手をかざし、すごい顔だ……。
「よっしゃ! これでめっちゃガチャ引ける! もう全部いっちゃお!」
「え? え?」
僕が驚いていると、
イロリの手から金色の粒子が流れ出す。
その粒子が触れると、
「あ」
報酬の金貨や銀貨は砂みたいになって……。
消え去ってしまった。
「えええ……?」
「……あーっ! SSRまで出た……! 何だよコレ、指定しなきゃダメなの?! ノーマルガチャオンリーじゃないのかよお!」
意味不明の叫ぶを上げていたが、
「あ」
テーブルの上。
わずかな銅貨。
それを見て、
「……お金、ほとんど使っちゃった」




