第2回 『限界突破』
「っていうか、ここどこ!? まさか、本当に……!?」
女の子は混乱した様子で、辺りをキョロキョロしていたが、
「うっ」
ゴブリンの死体を見て、
「マジで、モンスター? 死体???」
「えーと、うん。危なかったね、何とか倒したけど……。大丈夫?」
「あはははは……」
女の子は、僕の話を聞かずに変な笑いを出している。
と思ったら……。
「お゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛!!」
盛大に、吐いた。
かわいそうに、だいぶショックだったんだな。
とりあえず、吐けるだけ吐かせた後。
「これ。吐いたらできるだけゆすいだほうがいい」
水筒を差し出す。
「うう、ごめんなさい……」
女の子は口をゆすぎながら、何度も謝ってくる。
「しょうがないよ、場合が場合だし。こういう時手助けするのも冒険者の役目だから」
「すいません、すいません」
礼儀正しいというか、妙に腰が低いなあ?
改めて女の子を見る。
赤茶けた髪の毛とちょっと目立つ八重歯。
黒目は、ちょっと小さいかも。
うーん……。
格好は変だけど、体の肉づきは良いし健康そうだ。
運動というか力仕事をしてる感じじゃない。
手も指もきれいだし。
どこかのお嬢様なんだろうか。
「あのー、他に誰か一緒じゃなかったの? まさか一人で……」
「多分一人です。いきなり放り出されました」
「え。それはどういう」
「気づいたら変なところにいて、オロオロしてたらモンスターに出くわして、追っかけられたんです……」
「ええーと」
困った……。
何か事情がさっぱり飲み込めない。
「ここ、イジクロの世界ですか?」
「えっ? いじ??? なにそれ……」
何か変なこと言いだした。
まだ混乱してるんだろうか?
「イージス・クロニクル。ああ、いや、ええと。近くにヴルペキュラって街があったり?」
「うん。わりと近くだけど。あそこに住んでるの? 僕もそっから来たんだけど」
「いや、違うんすよ」
「??」
「その、つまり、多分……私って、転生者なんですよね。いや、この場合転移……?」
「話がぜんぜん見えないんだけど……」
「ですよねー。はは、まいったな、これ……。何かファンタジー体験しちゃってるし、つうか何でジャージ? もっとあるでしょ……」
女の子は、自分の服を見ながらブツブツ言っている。
さらに――
「靴は……。そっか、外出る直前で……。財布とケータイ……。役に立つかな、これ……」
財布らしいものから、変な紙を出してまたブツブツ。
あと、黒くて薄い板を見ながら、
「やっぱつながらんわ……。当然か……」
正直……。
話通じるのかな、と不安だったが。
「……私は、イロリ。君はセッタくんだよね?」
とりあえず自己紹介はしてくれた。
「そうだけど。何で僕のことを?」
「ははは。やっぱ、そうなのかー……。いや、説明が難しいんだけど、おねーさん、君のことは知ってるのよ。名前とかジョブとかランクとかね」
「冒険者ギルドのひと? それなら別におかしくないけど、でも冒険者には……」
見えないんだけど。
そう言おうとした時だった。
ズン!!
って感じだろうか?
腹に響くような音が後ろから聞こえてきた。
「!?」
振り返ると、
「ふぎゃああああああ!?」
イロリは踏んづけられた猫みたいな悲鳴を上げる。
遺跡の影から、一つ目のバケモノがのしのしと……。
「サイクロプス!?」
まずい……!
オーガやホブゴブリンよりも、ずっと危険なモンスターだ!
そもそも、僕じゃオーガ一匹にも勝てない。
ホブゴブリンだって怪しいもんだ……。
「逃げるぞ!?」
僕はイロリの腕をつかんで走り出した。
でも、イロリの足は遅い。
仕方ないので、途中からおんぶしながら走ることに……。
とにかく、全力で後先考えずに走った。
だけど、サイクロプスはしつこい。
気づけば、岩場の影に追い詰められていた。
あわてて岩の下に隠れたけど、
「まずい……」
まだ向こうはこっちを見つけてない。
でも、時間の問題だろう。
相手はでかいヒト型モンスターだ。
半端な岩なんか、すぐにどかされる。
そうなったら、終わり……。
「ダメかな、これ」
「し、死ぬの……!?」
「多分……」
言いながら、僕は笑うしかなかった。
結局、こんな最後か……。
女の子と、せめてキスくらいしたかったな。
「これ、持ってきなよ」
僕は荷物――小型の革製リュックをイロリに渡した。
「へ?」
「ちょっとだけど、食料とか小銭とかあるから。急いで逃げること」
「逃げるって……」
「少しだけだけど、時間は稼ぐ」
剣を手に外に出ようとすると、
「待って! それって、セッタは……」
「まあ、うまく逃げるよ」
「そんな……」
「強い騎士や勇者じゃなくって悪かったけど、できるだけのことはする」
「な、なんで、そんな……?」
「どうせ名誉も成功もないモブで雑魚だけど、できることはしたいかなって。女の子を守って……戦うのって、かっこ良くない?」
死ぬ。
それを言いかけて、何とかおどけて言った。
怖い。
でも、今はそれをするしかないとも思った。
「死んじゃうよ……!?」
「いやあ、死んだって特に誰も困らないし?」
僕は苦笑して、でも最後には誰かに聞いてほしくって――
これまでのこと。
感じたこと、思ったことを簡単に話した。
みじめだけど、ちょっとスッキリもしちゃったんだなコレが。
「……うぐ」
イロリはものすごい顔で黙り込んでしまう。
いや、ホントに……。
すごい顔としか言いようがない。
と、
「へ? ノーマルガチャ?」
いきなり、イロリはわけのわからないことを言いだした。
「1ガチャ10円? 1万で1000連ガチャ? ノーマルオンリーで?」
「ちょ、しっかりしなよ! 気を確かに……」
って、やばい!?
イロリの声でサイクロプスが気づいたみたいだ……!
――。
そして、イロリの出してきた光るカードが体に入ってきて……。
全身が爆発するみたいになった。
剣を抜いて、岩陰から這い出す。
こちらに迫って来るサイクロプスと向き合った。
怖い。
でも、怖くない。
相手の動きが妙にのろく見える。
「ごああっ!!」
サイクロプスが手にした棍棒を振り下ろしてきた。
かわせる――!
回避した後。
僕は大きくジャンプして、相手の真上に、
「でぃやあああああああああああ!!」
空中で大きく振りかぶり、剣を振り下ろした。




