0006 ダンジョンとスポナー
「よっしゃ、やりますか」
ゲームの世界へと再び戻ってきた紬は、すぐに管理部屋へと向かう。
カップラーメンを食べながら考えた結果、新しくバットのスポナーを置くことにした。これで、ダンジョンらしさは大きく跳ね上がることになる。
少し特殊なダンジョンぐらいの認識まで下げることができる方法だった。
バットはコウモリのモンスターで、暗くてジメジメした場所を好んで生活する。そんなバットから出る超音波は、当たったプレイヤーのINTとDEXを半減させるという効果を持っている。要するにバットは対魔法使いのデバフ要員なのだ。
最強のプレイヤーのいるパーティは、最強プレイヤーの剣士に加えて、高レベルの魔法使い、斧使い、アーチャーとバランスのいい隙のない構成である。対抗するには、バットが最善だったのだ。
「完璧!これで魔法使いが来ても勝てるぞ」
紬はニコニコのご満悦の様子で、魔晶の大部屋へと向かう。
ゴーレムはスライムと戯れている。ゴーレムはなぜか、スライムから好かれていた。
「やっぱり広いから天井びっしりまでは遠いな……」
バットのスポナーはバットの性質上、魔晶のある大部屋に置くしかなかった。
その代わりというように、スポナーはなけなしのDPを使ってアップグレードさせることにした。
スポナーにはランクというものがあり、1から5まで上がっていく。
ランク1なら範囲内にポップするだけだが、ランク2になるとスポナーは物体として存在しなくなり、その部屋に結び付かれる。そのため、広い部屋ならランク1の頃のポップ範囲などに拘らずに、どこでもポップするようになるということである。
紬もサポート機能には書いていなかったため、気づいていなかったことだった。
このことはダンジョンを研究しているプレイヤーが立てた掲示板のスレで知ったことだった。
「ゴゴッ!?」
スライムと戯れていたゴーレムから、驚いたような声があがる。
スポナーの状況を確認していた紬は、声のした方を振り向いた。振り向いた先で目に入ってきたのは、ゴーレムの肩に乗っている赤色のスライムだった。
「どうしたの、その子。どこから連れてきたのさ」
「ゴゴゴ、ゴゴッ、ゴゴゴゴゴ!ゴゴ……」
ゴーレムは必死に何かを伝えようと身振り手振りで懸命に動いた。
しかし、それが紬に伝わることはなく、紬は目をぱちぱちとしている。豆鉄砲をくらったハトのような顔をして。
「ゴーッ……ゴゴゴ。ゴゴッ!」
ゴーレムは伝わらなくて悲しんだような声を出した後、何かを思いついたように元気よく身振り手振りを混ぜながら、スポナーを指差した。
しかし、スポナーを指さすゴーレムを見て、紬は戸惑っていた。
(どういうこと?スポナーと赤いスライムで何を伝えようとしているんだ?)
紬は理解力がなかった。それはもう壊滅的に。
「あっ、そういうことか!このスポナーからそのスライムが出てきたってこと?」
「ゴゴッ!」
やっと気づいた紬と気づいてもらえて嬉しいゴーレムは、嬉しそうに2人でピョンピョン飛んだ。
外から見たら、岩の巨人にジャンプして地震を起こされているのに、人が巻き込まれている状況だ。知らない人がいたら、襲われていると勘違いするのは確実だろう。
「それにしてもどうしようね、この子」
紬はゴーレムの肩に乗っている赤色のスライムを撫でながら、ボソッと呟いた。
ゴーレムは赤いスライムを頭の上に乗せる。赤いスライムは高いところが好きだったのか、嬉しそうにピョンピョンと跳ねている。
「ゴゴ?」
ゴーレムはわからないというように、頭を傾げた。
ゴーレムにとっては紬が何を迷っているのかわからなかった。仲間にする以外の選択肢はゴーレムの中にはなかった。
「とりあえず大事に守ろうか」
「ゴゴゴゴ!」
ゴーレムは嬉しそうにスライムを持って、ピョンピョン跳ねている。
紬からすれば、このスライムはスポナーから強い個体を仲間にできるかもしれないという希望を持たせてくれた希望だった。




