0063 一縷の望み
それから私たちはただただ北西に進み続けた。
三年、四年、ただただ逃げ続けた。何も生み出さず、何も優劣が変わらない。そんな状況が続いていた。
そして、時は今に戻ってくる。
迷子(?)になっていた女の子を連れて、今、私たちは洞窟の中に一時的に避難している。ここまでゴルバたちに追いつかれているのは初めてだ。かなり追い詰められている状況だからか、私たちの間には張り詰めた空気が流れていた。
「これが今の状況だ。長老、このままでは確実に私たちは追いつかれます。かなり危険な状況です。どうしますか?」
「そうじゃな、どのみちいずれは戦わなくてはいけない運命だったのじゃろう。それをただただ伸ばし続けていただけ。そうなのかもしれぬ」
長老は自分の胸あたりまである髭を触りながら、うつむき気味で言った。
「それならやはり全面戦争だな。カイズ、やはり私たちは戦う運命なのだ」
七老の一人の熟練の戦士はどこまでも戦いたいようだった。
あくまで私の憶測に過ぎないけど、自分が若者たちに負けて逃げるという行為に追い込まれていることが許されないんだろう。そのぐらい熟練の戦士に生まれるプライドなら当たり前のことだと思う。
私は共感しつつも、戦わずに済む方法がないかを探し続けていた。
戦わずに済むなら戦いたくないに決まっている。
「しかし、ほかにも方法はあるじゃろう?それにわしは賭けたいと思っているのじゃ」
長老は先ほどの自分の発言を否定するように、戦わずに済む方法の提案をし始めた。
「わしらは人数的にも戦力的にも残念ながらゴルバたちに劣っているじゃろう。それは認めたくなくとも認めなくともならぬ」
熟練の戦士は自分の唇をかみ、長老の話を苦そうな顔をしながら聞き、頷いた。
「そんなわしらは戦っても負けるじゃろう。よくて引き分け。勝つことはきっとできぬ。ただ、そんなわしらにも戦わずとも勝つ方法があるのじゃ」
「長老、それはなんだというのです?私たちに残された時間でできるものなのですか?」
カイズは思わず口をはさんだ。
もし方法があったとしても、ゴルバたちに追いつかれるまでの時間、たった数日の時間しかない。そのあいだにできるのかは私も気になる。
「もちろんじゃ。人の子と協定を結ぶのじゃ」
「長老!何を出だすかと思えば、その話ですか!!それは前にもだめだといいましたよね!!」
七老の一人が声を荒くしながら言った。
「人の子は寿命が短いのです。結んだものがよくしてくれても、その次に引き継いだ人が裏切らないとは限らないのですよ!?自分で自分の首を絞める行為に違いないと前にも言いましたよね!!」
「落ち着くのじゃ。それを回避するために対価を差し出すのじゃよ」
「対価?」
私は思わず声に出してしまった。
「そうじゃ、対価として世界樹の加護を渡すのじゃ」
長老の発言にその場にいた全員が凍り付くように、目を見開いて固まった。
前にも言った通り、世界樹の加護はそう簡単に渡していいものじゃない。
世界樹から授かる感謝のしるしなのだ。それをおいそれと人に渡すなんて……。長老らしくない考え方に私はただ絶句することしかできなかった。
「長老、それは違いますな。世界樹の加護はそう簡単に渡していいものではありませんぞ。わしらはそれを認めるわけにはいきませぬな」
「ほう、おぬしらも言うようになったではないか」
「申し訳ないですが、私もそれは快諾しかねます。長老、やはり人の子に頼るべきでは……」
カイズはそう言い、机の上に広げられた地図に目を落とした。
もう少し移動すれば、人がたくさんいる街とたくさんのダンジョンがある。そこまでいければ、ゴルバも手を出しにくいかもしれない。
「最近、人の世ではダンジョン攻略が一世を風靡していると聞きます。もしかすると、どこかのダンジョンのマスターが力になってくれるかもしれません。それはかなわずとも、人の多いところではゴルバも攻撃しずらいでしょう」
私の意見を代弁するように、カイズは言った。
「そうだな、それならわしも賛成できる」
七老たちは顔を見合わせ、頷いた。
「それなら人里を目指して移動しましょう。長老の意見は……本当の、本当に最後の手段としましょう」
「いいじゃろう。おぬしらの意見に従おう。それでは人里へ向かおうぞ」
そうして話がまとまり、私たちがこの洞窟から出ようと立ち上がった時だった。
「やっと見つけたぞ!もう逃がしはせん」
「くっ……追いつかれたか……」
「どうする?出口は一つだけ。すでにわしらは囲まれておるじゃろうよ」
七老の一人が出口を見つめながら言った。
すでにこの小さい洞窟の唯一の出入り口は、追手の数人によって通れなくなっている。そう、私たちは行き止まりに閉じ込められたのだ。
出る方法はたった一つ。
この追手のエルフたちを倒す。
確かゴルバたちは20人ぐらいで私たちを探しているはず。
しかも見失った私たちを探しているんだ、いくつかの小隊に分かれているだろう。それなら、ここにいる四人ぐらいを倒して、援軍が来る前にさっと逃げてしまえばどうにかなる!
「長老!さっさと逃げて……」
私は長老の方へ振り向いた。
視線の先にあったのは、長老たちが逃げる準備を終えた光景ではなく、長老と七老たちが血だらけで地面に倒れている光景だった。
「えっ……?ど、どうして……?」
「油断してたからに決まってんだろ?」
私は声のした方に視線を送った。
そこには、右手から血を滴り落としながら、不気味にほほ笑むゴルバの姿があった。
そうか……。ゴルバが長老たちを……。
私は勘違いしていた。
この洞窟は入り口をふさがれていたわけじゃない、とっくに囲まれて逃げるところなどなかったのだ。もうどうしようもない。私たちはもう、ゴルバたちに完全敗北したんだ……。
「どうやら今の状況をわかったみたいだな」
ゴルバが私の肩を力強くつかんだ。
「お前たちの負けだ」
私はこれからこいつに好き放題される。
私以外は目の前で殺されたうえで……。そんなの、心が耐えられるかわからない。それがこいつの思惑と分かっていたとしても。
「まだ負けではない!!」
カイズは勢いよくゴルバを長剣で刺した。
ゴルバの胸に長剣が貫通し、勢いよく血が噴き出す。ゴルバの息は小さくなっていき、口からは血が漏れ出ている。
「なめんなよ……?」
ゴルバはカイズの右手をがっしりとつかみ、勢いよく握りつぶした。
カイズの手はあらぬ方向に曲がり、血が滲み始めている。一方、ゴルバは自分の胸に植物の根を張り巡らせ、簡易的な血管を作りだし、一命をとりとめようとしていた。
「させない!」
私は勢いよくゴルバの胸に手を伸ばした。
しかし、胸に手が触れるタイミングでゴルバの胸は植物に完全に覆われ、先ほどよりも頑丈な胸が完成してしまっていた。
「はっ、これ以上無駄な抵抗はよせ。俺に勝てねえことはよくわかっただろ?おとなしく俺のものになれ」
ゴルバは私の手を勢いよく引き寄せた。
「風水術 奥義 ヘスぺリデスの園」
カイズはかすれた声で、唱えた。
洞窟のいたるところから植物が生え広がり、床からはリンゴの木が生えていく。リンゴの木には黄金のリンゴが実っており、洞窟の中にもかかわらず、きれいに光り輝いている。あっという間に植物は広がっていき、一瞬にして洞窟は緑に覆われた。
「な、なんだよ、これ!」
ゴルバの方を振り向くと、足元にはツルのような植物が巻き付いており、黄金のリンゴが結界のようなものでゴルバとその仲間たちを閉じ込めている。
今しかない!
私はカイズのところへ駆け寄った。
「立てる?急がなきゃ、動き出しちゃうかもしれない」
「いや、君だけで逃げるんだ。この奥義は発動者がいないと効果が途切れる。ただ私がいれば30分以上この奥義は発動し続けられる。君が逃げるには十分だろう」
カイズは血だらけの顔でにかっと笑った。
「君が逃げきれればまだエルフの里を取り返すことができるかもしれない。人里に行くといい。きっと誰かが君の助けになってくれる」
「で、でも……私なんかより、カイズの方が……」
「ヴェレ、よく聞くんだ。私はもう生き残れない。この右手から少しずつ腐食が始まっている。すでに私の体はあまり動かない。もう生き残れる可能性があるのは君だけなんだ。わかるね?君がエルフの里を救うんだ。長老が持っていたものは君が持って逃げるんだ。それさえあれば、まだ勝機はある」
カイズの口は少しずつあかなくなってきていた。
それにとどまらず、目は既に開かず、息も少ししか吸えていない。鼻もすでに機能できなくなっているのだろう。
「わかった、私がエルフの里を救う」
「そうだ。たのんだz……」
カイズは最後声にならない声を絞り出した。
長老の手元に置かれていた世界樹関連の重要なものをすべて取り、自分のバッグに詰め込む。そして、私はカイズを置き去りにして、全力で街に向かって走り出した。
ごめん……カイズ……!!
それからどれだけ走ったかはわからない。
ただ足が回らなくなってきて、呼吸ができなくなってきていた。
そして私は足がもつれ、地面に倒れた。
どれだけ立ち上がろうとしても、体に力が入らない。
せっかくカイズにもらった命を私は生かせないのか……。
そして心でさえも動かなくなり、意識が遠のこうとしていた時だった。
「大丈夫?」
残る力を振り絞り、目を開け、声の主を見た。
人、人だ、私の目の前に人がいる……!
「お願い……!助けて……!」
私は残る力をすべて振り絞って目の前の人に助けを懇願した。
そして返事を聞くことなく、私は意識を失った。
高校生になってなかなか書けなくなってきてます……!
気長に待ってくれると嬉しいです。




