0062 エルフの内戦
※グロ描写注意(軽度なもの)
「やはり、和解などもう不可能だ。さっさとケリをつけようではないか。カイズもいるんだ、そうそう負けることはないだろう」
会議が始まって早々に、八老の一人、熟練の戦士が声を上げた。
戦士の意見に賛成する者は誰もおらず、否定をするような冷たい静かな空気が私たちの間に流れた。
戦士は耐えきれなくなったのか、椅子から勢いよく立ち上がった。
そして、机に勢いよく拳をたたきつけた。
「いいかげんにしないか!この状況にはこりごりだ!このままじゃ時間がどんどん過ぎていくだけ、われらの有利にはならないんだぞ!?」
「時間など今はいい。私たちに残された時間は長いのだから」
そう、私たちは《《エルフ》》だ。
人間に比べると寿命が十倍は違うし、ほかの種族に比べても最も長い寿命を持っている。長寿のエルフにとっては時間など気にするほどのものでもなかった。
とはいっても、戦士の言う通り、このままじゃいつまでも内戦は終わらない。
「まずは状況整理をしよう」
私たちエルフがこうして内戦することになったのは、まだ数日前、いや数年前の出来事だった。
◇ ◇ ◇
「長老、あんたに決闘を申し込む」
突然、長老会の途中に里の若者の一人、ゴルバが長老を指さし、そう言った。
今日は長老会の日で、長老とその側近の八老、そしてカイズ、ゴルバ、そして私が里のあれこれについて話し合う大切な場だった。
私とゴルバは若者代表としての参加で、大した発言権はない。ただ、この場に入れるだけでもとても光栄なことだ。そんな中のゴルバの無礼に、私は目を見開いた。
「ゴルバ、ふざけるでない。長老はもう決闘などできる年ではない。そもそも長老を決闘だとしても殺したら死刑だ。それをわかっての発言か?」
「ああ、そもそも俺を殺すやつを殺せばいいだけだからな」
そう言ってゴルバは、注意をした八老の一人を風魔法で撃ち殺した。
たった五畳ほどの小さな部屋の床は血で埋まり、遺体特有のにおいが部屋を包んだ。
なにが、なにが起きたの……?
私は目の前で起きた惨劇を認めることができず、呆然と立ち尽くした。
「ヴェレ!逃げるぞ!このままでは君も危ない!」
カイズの声ではっとし、私はゴルバから離れるように部屋を飛び出した。
「ヴェレ、安心していいぜ?俺はお前を殺さない。ただかわいがらせてはもらうがな。イヒヒヒヒ……」
気持ち悪い。
こんな男と先ほどまで隣に座っていたことが信じられない。
「ゴルバ、そなたを里から追放とする。二度と帰ってくることはできぬぞ」
「何悠長なこと言ってるんだ?俺は今からお前らを殺すんだ。そっちも殺す気で来いよ」
「ううむ」
長老はゴルバの挑発的態度を見て、どうしたものかと顎に手を当てた。
「それなら仕方があるまい。私が直々に戦ってあげよう」
「はっ、長老、決闘に臨んでくれるということか?そうでなくっちゃ、面白くねえよな」
「ふっ、そなたもまだまだ子供だな。これが大人の戦い方じゃよ」
長老は右手に携えていた世界樹製の杖をゴルバに向けた。
「蔦拘束」
そう唱えた瞬間、杖から部屋を埋め尽くすほどのツタが放たれた。
ツタはゴルバの体にまとわりつくように近づいていく。
「おい!卑怯だろ!」
「ほほっ、これは決闘じゃないぞ?そなたもまだまだ純粋じゃな」
「おいっ!出せ!」
ゴルバは長老によって完全に拘束され、身動きが取れない状況になっていた。
突如として起きた反乱は何とか終わりを迎えようとして……いなかった。
「カイズさん!里中で反乱がおきてます!もう抑えることは困難かと!」
ひと段落したと思えば、里の警備を任されている警備団が息を切らしながらそう告げた。
私たちはゴルバによる単独の反乱と思い込んでいたが、どうやらこの反乱は里の若者たちが団結して起こしたもののようだった。それだけなら長老直属の騎士隊でどうにかなりそうなものだが、騎士隊ですらゴルバ側につき、すでにカイズの指揮下ではないようだった。
そう、もう反乱を抑えることができない戦力など、長老サイドには残っていないのだ。
「長老、ここは一度退くべきかと」
「カイズ、そうはいっても長老様と私たちが隠れる場所なぞ、われらは知らんぞ?何かあてでもあるというのか?」
「あてなどありません。ただ……」
カイズは遠くから雄たけび位の聞こえる方を向いた。
確かに、もうこの里にはいられない。生き延びるためにはそうするしか……。
「そうじゃな。ともかく一度逃げるとしよう。風竜さえおればどうにかなるはずじゃろうて。ほれ、逃げる準備じゃ」
「は、はい!」
八老……今となっては七老たちは急いで重要なものを手に取り、風竜に飛び乗った。
私も風竜を呼び、背中にまたがった。これからどうなるのかはわからない。でも、今は逃げるしかできることはない。私はそう自分に言い聞かせ、生まれてから四十五年という月日を過ごした里を後にした。
それから私たちは転々と場所を移動しながら、里から離れ続けた。
最初の一、二年は特に何もなく、平穏に時を過ごしながら移動し続けた。そして、ある場所に根を下ろそうとしていたそんな時だった。
「しゅ、襲撃です!!」
見張りをしていたエルフが大きく声を張り上げた。
もちろん、襲撃をしてきたのはゴルバたちだった。でも、いったい何しに……?
「とうとう来たか。そろそろあれが必要なことに気づく頃合いだと思ったわい」
「なかなかに早かったですな。あと十年はいけるかと思っていましたがね」
「それは無理じゃろ。あれがなきゃ世界樹の恩恵は使えぬからな」
世界樹の恩恵。
エルフの里に生えている世界樹に自分を守ってくれているお礼として授かる恩恵のことだ。成人、五十歳になると必ず一つは授かるもので、これがあるのとないのでは大きく戦闘能力、レベルの上がり方が異なる。エルフが世界樹を守り続けることができた大きな要因なのだ。
とはいえ、私はどういう仕組みで世界樹から恩恵を得られているのかは知らなかった。そもそも、私はまだ恩恵を授かっていない。どんな風に授かるのかなど、まったくわからないことだらけだった。
「そうか!ゴルバが五十歳になったから!」
「ヴェレ、その通りじゃ。わしらは世界樹関連の重要なものは持ってきておるからの。奪いに来たというわけじゃ」
長老はそういうと、笛を吹いた。
それを見て、ほかのエルフたちも続々と笛を吹いていく。
「仕方があるまい。また転々とすればいいだけじゃ」
「次は北西に行きましょう。あっちにはかなり遠いですが、人里と魔の森があります。生活するには楽な場所でしょう」
「最悪、人の子に力を借りることになるかもしれませんな。長老、いかがですか?」
「いいじゃろう、北西に向かうとしよう」
バサッ!!
私たちを乗せた風竜が一斉に地面から飛び立った。
「いざ、北西へ」
こうして私たちは北西へと向かう逃亡が再び幕を開けた。




