0061 キミの声
「……っ、……ぐすっ……」
小さな女の子の泣いている声が聞こえ、私は目を覚ました。
まだ外は暗く、フクロウの鳴き声が遠くで聞こえる。街灯がなく、外からの光が入ってこないため、部屋の中は暗闇に包まれていた。手の届く範囲には非常用にとろうそくが置かれている。
とはいえ、こんな時間に明かりをつけようものなら、連行されて売り飛ばされてもおかしくない。
私は覚悟を決めて、声の聞こえる方へ歩いて行った。
暗いというのも相まってか、近いと思っていた声は遠く、どこまで進んでも近くならない。引き返そうにも、自分の家にたどり着ける自信がない。今道しるべになるのは、女の子の泣き声だった。
女の子を助けに行くはずが、今は私が助けられている。
情けない。
そう思っていると、ようやく声が近くなってきた。
私は歩くスピードを上げ、女の子に近づいて行った。
「大丈夫?」
「……っ、だ……だれ……?」
女の子は声をかけた私のことを涙を拭きながら見つめた。多分。
真っ暗で女の子の姿がはっきりとは見えないものの、手の届くところまで来れた。なんとかしてこの子を連れて帰らなくては。時間がない。急がなきゃ。
そう思い、私は女の子の手をつかんだ。
「ごめんね、ついてきて」
「いやっ!!」
女の子は大声をあげながら、私の手を振り払った。
まずい。まずいまずいまずい。
このままじゃ見つかってしまう。今すぐ逃げなくては。
私は女の子を背に自分の家をめがけて走り出した。
でも、本当にあの子を置いて行っていいのだろうか。驚いて手を振り払ったのかもしれない。泣いている子を置いてまで私は生きていたいのか?
「いこう」
私は女の子を胸に抱え、再び走り出した。
きっとすぐそこまで刺客は迫っている。いそいで長老に言わなくては。きっとあの人は許してくれる。でも若人がゆるしてくれるかどうか……。
そんなことを頭の中で考えていると、女の子がバタバタと手足を動かし、何とか私の手から脱出しようと試みている。胸で顔を覆われ息がしづらいのかもしれない。でも、女の子の体勢を変えてあげるような時間は私にはない。今は走る。
「ヴェレ、自分のしたことがわかってるのか?里のみんなを危険にさらしてるんだぞ?」
「わかってる。でもこの子を放っておけなかった」
「はぁ……まぁいい。急いで逃げる準備をしろ。風竜をいつでも呼べるように、笛の用意も必ずしておけ」
「わかった」
長老に一番頼りにされている男、カイズに言われて、私は自分の家に向けて走り出した。女の子は変わらず私の胸の中で暴れている。
家に着くと、大事なものをしまっているポーチを取り、カイズに言われた笛を首にかけた。この笛がなかったらこんなに荷物をまとめてる暇もない。私の行動の心の支えになっていたものだった。
家から出ると、みんな荷物を手に笛を吹いていた。
笛の音色を聞いて、どこからともなくそれぞれが従える風竜が飛んでくる。この風竜こそ、私たちの相棒であり逃げるための移動手段だった。
私も笛を吹き、風竜を呼ぶ。
すぐ来てくれた風竜に乗り、行き先を伝える。風竜は小さくうなずき、時速300㎞という驚異のスピードで飛び始めた。女の子は抵抗をやめ、静かにしている。
私は女の子を風竜に取り付けられた安全フックと結び、落ちないように固定した。
「あなた、なにがしたいの?」
女の子は私をにらみながら言った。
まだ警戒はしていたみたいだ。でも、さっきよりは警戒していない気がする。少しずつ解いていけばいいか。
「聞いてる?」
女の子の圧を感じ取り、私は手をひらひらと横に振った。
「何も企んでるわけじゃないよ。ただ……」
「いたぞ!!」
私の話を遮るように、地上から風の刃が飛んできた。
地上から200メートル以上離れているため、ギリギリ当たらなかったものの、いつ当てられてもおかしくない。
「風竜、もう少し頑張れる?」
「ガル」
さらにスピードを上げるように頼むと、風竜は今までのスピードをはるかに上回る時速500㎞程の速さで空を飛び始めた。空気を作り出し、風圧から守る魔法を使っていても、風圧を感じ空気が薄い。とても会話ができるような状況ではなかった。
それにしても、どうもあいつらは私たちのことを執拗に狙ってくる。
そんなに戦いたいなら自分たちだけで行けばいいというのに。カイズがいなければ誰にも勝てないことをわかっていながら、どうして挑んでくるのか。到底私にはわかりえないことだった。
「風竜、あそこにおねがい」
30㎞先に見える洞窟を指さした。と思えば、そこについている。
やはり、風竜がいてこの戦いは成立している。
「ヴェレも来たな。よし、これより第五十三回、内戦和解会議を始める」
こうして、また終わりの見えることはない内戦を止めるための会議が始まった。
3章、開幕です!




