0058 イベントと限定ダンジョン floor.3-2
「蒼の断層」
そう唱えられた瞬間、陽毬は一瞬で縦に斬られ、HPを0にした。
そして次は自分の番だと指をさされていることに、紬は思わず息をのんだ。
「迅、見えた?」
「もちろん見えてねえ。そもそも俺にはあいつが動いたようには見えなかったぜ」
「うん、僕も」
紬と迅はボスから目を離さずに話した。
目を離せばすぐに体を斬られるかもしれない緊張感から、紬たちの間には重く張り詰めた空気が流れている。
「ねえ、あくまでも仮説なんだけどさ」
突然、ナギが話し始めた。
紬たちはボスから目を離さずにナギの話に耳を傾けた。そして、ボスはクールタイムが長いのか、それとも何かを待っているのか、じっとその場で剣を構えて紬を見つめている。
「水晶なら圧電効果でどうにかなるかも」
「「圧電効果?」」
迅と紬は声をそろえて聞き返した。
ナギは静かに頷き、続きを話し始めた。
「圧電効果は圧力をかけると、それに比例した電気が発生する現象のこと。あと、逆圧電効果って言って電圧で振動するっていう現象もあるんだけど……」
「要するに?」
ナギはニカッと笑った。
「私が雷魔法で攻撃したら倒せるかも」
実際は圧電効果と逆圧電効果を用いて、水晶を壊そうものならとんでもない電圧ととんでもない圧力を必要とする。しかし、この世界はゲームの世界。すべての事象が現実と同じに作られているわけではない。
さらに、ボスが放つ攻撃は水晶ではなく、魔晶だ。
魔晶というのは、水晶に魔力が宿り作られたもの。その時点で水晶と同じ性質を持っているとは考えにくい。しかし、このゲームの公式サイトに書かれている情報が、ナギの仮説の可能性を高めていた。
「魔晶は魔法に強く、打撃に弱い……」
「なるほどね。やってみる価値はありそうだわ。ほかに思いついている策があるわけでもないのだし」
ナギは杖を構え、自分が放つことのできる最上級の雷魔法の準備をした。
紬たちの作戦はこうだ。
まずターゲットになっている紬は、囮として「蒼の断層」を受ける。とはいえ、まともに食らったらやられてしまうため、大量のスキルでバフをかけてできるだけ被ダメを減らす。
そして、迅が持っていた大盾を構え、シールドバッシュを狙う。
迅と茜はそれぞれ紬の隣でボスの攻撃を待つ。二人とも「カウンター」スキルを持っているため、「蒼の断層」のカウンターに挑戦する。成功すれば紬の被ダメは減らせ、ボスにダメージを与えることができる。できなくてもそれほど問題はない。
そしてこの作戦の要であるナギは、紬に攻撃が終わった後の隙を狙って雷魔法を放つ。外れることの無いよう、全自動追尾型の魔法で攻撃する。
これでボスにどうにかして打撃を与え、倒そうという作戦だった。
「次はオマエカ」
ボスは紬のほうに体を向け、右手と左手を構えた。
「硬化!堅牢!」
紬はダンジョンにいる仲間モンスターのスキルを使い、最大限VITを高めた。とはいえ、紬のもとのVITが5である。これで高めても20にもならない。
「シールドバッシュ!」
「蒼の断層」
ボスがそう唱えた瞬間、盾を持っていた紬の右手に大きな衝撃が加わった。
「うっ……」
紬が自分の右手に目を落とすと、陽毬と同じように蒼い光の亀裂が入り、肘から先がなくなっている。持っていた盾も真っ二つに割れ、床に転がっている。しかし、ダメージエフェクトが散っているものの、紬のHPはなんとか赤ゲージでとどまっていた。
茜はインベントリからポーションを取り出し、紬の口に近づけた。
迅と茜はカウンターを狙ったものの、攻撃判定が出た後にスキルを発動したため不発に終わった。
「万雷!」
ナギはそう高らかに叫ぶと、杖をボスに向けた。
杖から雷撃の比ではない量の雷が束となって出ていく。さらに、杖の共鳴も相まって、雷はナギを覆い隠すほどの大きさの束となっていた。
「放出!」
ナギの声に合わせて、雷の束は一斉にボスに向けて放たれた。
一撃必殺を放ち、再びじっとしていたボスは迫ってくる雷に対して剣を構え、スキルを発動した。
「双璧」
水晶の壁がボスの身を守るように現れる。
しかし、その程度で万雷は止まることはなかった。水晶の壁は一秒も持たずに壊れ、雷はボスの体に大きな音を立てて直撃した。
ドゴォォォォォォォォォォォオオオン!!!!
雷によって、部屋の中は砂埃が舞い、大理石の壁はところどころ崩壊してしまっている。そして時折、ぱちぱちといったスパーク音が鳴り響く。
紬たちは砂埃の中、目を開け、ボスがいた場所に目を向けた。
『プリズムゴーレムの死亡を確認。扉を解錠します』
ボス、プリズムゴーレムは雷を受け、その身の魔晶は砕け散り、ほとんどは黒焦げとなっていた。少しでも攻撃を避けようと地面を掘ったのか、それとも万雷によるものなのか、ボスのいた場所だけは地面がえぐれていた。
「倒した……倒したぞー!」
「はぁ……危なかったわ」
「さすがの俺も死んだかと思ったぜ……」
迅たちは疲れ果てていた。
たった10分ほどの戦闘だったが、イベントの最後のボス戦であり、時間との戦いでもあったため完全集中した結果、立つことすらままならないほどにフラフラしていた。
「先に進もう?あとでゆっくり休めばいいし……」
ナギは杖を使ってゆっくりと歩きながら、紬たちに言った。
迅と茜は足をぶるぶると震わせながら立ち上がり、二人で肩を組んで一歩ずつゆっくりと歩き始めた。
そして、紬はというと……。
「うおー!めっちゃ豪華な宝箱だよ!すごいすごい!なにこれ!?金のシャチホコみたいのついてる!」
一人だけ先に奥に進み、豪華な宝箱を見て興奮していた。
なぜ紬だけ元気なのかというと、さきほどポーションをのんだからである。
このゲームのポーションというのは、万能薬のような最強の回復アイテムである。
ポーションのランクに合わせたHPを必ず回復するし、飲むだけで疲労感や痛みが和らぐ。この効果はゲーム世界だけでなく、現実世界にも引き継がれるため、俗にいう社畜の人々は家に帰ってくるとゲームにログインし、ポーションをのんでログアウトしていくらしい。
それほどに優れた回復アイテムなのだ。
「私たちもポーション飲まない?さすがにこれからボーナス部屋は無理があるわよ?」
「そうだな……陽毬の分もがんばらなきゃだもんな」
迅と茜はインベントリから少し高いポーションを取り出し、一気に飲み干した。
「うーん、やっぱりこいつは最強だな!」
「ええ、そうね。でもそんなにたくさん買えるほど安いものではないけれど」
迅と茜は生まれ変わったかのように、突然元気になり、ストレッチをし始めた。
迅は元気になると待ちきれなくなり、紬のいる宝箱の場所まで走り出した。
「ナギ、あなたもポーションいる?」
「え、いいの?ポーション高いのに」
「いいわよ。仲間でしょ?」
「……!ありがと」
ナギは嬉しそうにポーションを受け取り、ゆっくり飲みだした。
ポーションはほかのゲームとは違い、そう簡単に手に入れられるものではなく、そこそこお金を貯めないと買えないという代物である。
回復はどうするのかというと、基本とてつもなく苦い薬草で回復する。回復量に関して言えば、薬草はポーションに劣らない素晴らしい性能を持っている。ではなぜ、ポーションを使うのか?それはもちろん、薬草がまずく、ポーションがうまいからである。
「ふー……よしっ!」
ナギはポーションをのみ終えると、空瓶をインベントリにしまい、ほかの三人がいる宝箱のところへ向かった。
「なにかいいアイテムあったー?」
「今から開けるとこー」
紬はナギが来たのを確認して、宝箱を開けた。
「おー!結構たくさん入ってる!」
宝箱の中には五つのアイテムが入っていた。
紬は、真ん中に置かれていた占いの水晶のような球を取り出し、説明を覗いた。
水晶の核。
このダンジョンのダンジョンコア。ただ、イベント終了時にこのダンジョンは解体されるため、こうしてアイテムとして変化した。ほかのダンジョンコアとは違う効果を持っている。
「よし!コアゲット!これはやっぱり大きいな」
「この本はなんだ?」
紬が嬉しそうにガッツポーズする横で、迅は宝箱の中から二冊の本を取り出した。
「それはスキルブックね」
茜は宝箱に入っていた金色の種を手に取り、観察しながら言った。
スキルブック。
その本を開くだけで本に書かれていたスキルを手に入れることができるというアイテムで、あまりにも強いこの強化アイテムは激レアに設定され、普通の宝箱から出る確率は0.1%のものだった。
「えーと、スキルは『屈折の矢』と『振動感知』だな。俺はどっちも使えねえからいらねえや」
「ナギが『屈折の矢』もらっていい?多分光魔法だと思うんだよね」
「それなら私が『振動感知』をもらっていいかしら?シーフだし、使う機会が多いと思うのよね」
迅は二人にそれぞれスキルブックを渡した。
「そういえば、茜が持ってるその種はなんだ?」
「ああ、そうだったわ。この種、HPとMPを除くランダムなステータスが上がるらしいのだけれど、誰が使うべきかしら?」
「うーん、陽毬に渡す?」
紬がそう提案すると、ほかの三人も賛成し、ステータスアップの種は今はここにいない陽毬に渡すことになった。
そして宝箱の中に入っている最後のアイテムを、紬が取り出した。
「うーんと、共鳴水晶?説明は書いてないや」
紬が説明を開いてみると、アイテム名が書かれているだけで、そのアイテムについての説明は一切かかれていなかった。
「そういえば前にもそんなアイテムあったよな。なんだっけ?」
「ああ、陽毬が見つけたアイテムね。たしか水晶の輝き、じゃなかったかしら?」
迅は「それだそれだ」と言いながら大きく頷いた。
水晶の輝きというのは、前にこの限定ダンジョンに入るための水晶のカギを見つけた時に、一緒に手に入れたものだった。
「あ、そのアイテムダンジョンに入る前にもらったやつかも。石だよね?」
「確かそうだった気がする」
紬はインベントリを開き、ダンジョンに入る前に陽毬からもらったアイテムを取り出した。そのアイテムの説明欄には何も書かれておらず、アイテム名は水晶の輝きと書かれている。
『「水晶の輝き」は共鳴水晶が共鳴可能なアイテムです。共鳴しますか?』
「共鳴?」
紬は何が何だかわからなかったものの、「はい」をタップした。
『共鳴が完了しました。「水晶の輝き」は『水晶の願い』に変化しました」
紬がウィンドウから、新しくなったアイテムの説明を開く。
すると、そこにはアイテムの説明とは思えないことが書かれていた。
アイテム名:水晶の願い
説明:このアイテムはあなたのために作られたもの。私はあなたにこの世界を救ってほしい。縺薙?莉ョ諠ウ遨コ髢薙°繧蛾?ク閼ア縺励h縺?。使用すると、一定時間壁をすり抜けることができるようになる。
クールタイム:1時間
「なんだこれ?」
最初はまるで紬に呼びかけるかのように書かれたメッセージがあり、途中で文字化けがあってからは普通のアイテム説明が始まっている。普通のアイテムではないことは明らかだった。
「なんか不気味だな」
紬のウィンドウを覗き込んでいた迅は、そうぽつりとつぶやいた。
「まあ、紬はバグに出会いやすい体質なんでしょう。そうじゃなかったら説明できないことばかり起きているもの」
「そうだね、そんなに考えても仕方ないか」
紬は「水晶の願い」をインベントリにしまい、ウィンドウを閉じた。
「それじゃあ、ここからイベント終了までの2時間は別行動だ」
「うん、またイベント終了後に連絡するぜ」
「それじゃ」
宝箱の奥にはボーナス部屋行きの魔法陣とダンジョン前行きの魔法陣があった。
迅と茜はこのボーナス部屋が目的のため、これからイベント終了まではそこでみっちりポイントを稼ぐのだ。
「ナギはどうする?僕は自分のダンジョンに帰るけど」
「うーん、せっかくだし、ポイント稼いでいこうかな。上位帯狙えるかもだし」
「わかった。それじゃ三人とも頑張って!」
「紬もなー」
紬を除く三人は、ボーナス部屋行きの魔法陣に乗り、転移していった。
「よしっ……それじゃ帰るか!」
紬は三人を見送ったのち、元気よく魔法陣の上に足を踏み入れた。
「さらば、限定ダンジョン!」
文字化けは直したらとんでもないことに気づくかも……!




