0057 イベントと限定ダンジョン floor.3-1
階段を再び下っていくと、今までで最も広い、角が見えないほどの部屋に出た。
部屋は今までのような質素な灰色のコンクリートで作られているのではなく、西洋の宮殿を彷彿とさせるような大理石で作られていた。中央にはマーライオンにも似た噴水が置かれており、口から水が流れ出ている。壁にツタが張り巡らされ、部屋全体が自然に満ちているのもあってか、五人はリラックスし、警戒を解き始めていた。
『floor.3に侵入者を確認。ダンジョンコアを守るため、防衛システム稼働。直ちに侵入者を排除せよ。繰り返す。直ちに侵入者を排除せよ』
部屋の中に紬たち向けではなく、ダンジョンのモンスターに呼びかけるかのようなアナウンスが流れた。アナウンスが終わると、部屋の奥、ダンジョンコアがあるのであろう場所から、魔晶ゴーレムが二体、そして水晶の鎧をまとった二メートルを超える長身の人型モンスターが現れた。
「攻撃力強化Ⅱ、速度強化Ⅱ」
紬は付与魔法を自分ではなく迅にかけた。
近接戦闘ができ、剣でリーチも長い迅がこの戦いのキーパーソンになることをすでに見越していた。
「みんな、わかっていると思うけど、魔晶ゴーレムは反射持ちだ!魔法はできるだけ避けて!」
紬の呼びかけに陽毬と茜は頷き、それぞれ自分にバフをかけ始めた。
迅も銅剣ではなく、メインウェポンを出し叩ける準備を整えている。ただ、着々と準備が整っていく中、ひとりだけ戸惑っている者がいた。
「ねえ、紬。ナギって何すればいいの?」
「うーん、魔法は放てないし……強化魔法もだめだっけ?」
「うん」
ナギは魔晶ゴーレムや人型のボスに対しての有効打はなく、強化魔法などで味方のサポートもできないため、完全にやることを失っていた。
「ゴゴゴゴゴゴ!!」
話がまとまるまで、魔晶ゴーレムたちが待ってくれるわけもなく、魔晶ゴーレムと人型のモンスターはそれぞれ攻撃を放った。
「お前ら!そんなにちんたらしてると死ぬぞ!とにかくやれることをやるしかねえ!」
迅はボスであろう人型のモンスターと剣を交えながら言った。
なんとか攻撃を剣ではじき、耐えているものの、迅は防御に回っているだけで攻撃できず明らかに劣勢だった。
「二人は迅のサポートをよろしく!私たちは多分勝てるから!」
陽毬が魔晶ゴーレムに大きな打撃を加えながら、そう言った。
魔晶ゴーレムは陽毬と茜がそれぞれ抑え、少しずつだけだがダメージを与えることができていた。時間はかかるものの、二人に倒すビジョンは見えていた。
「迅!」
紬が名前を呼ぶと、迅は横に飛びのけた。
「火炎放射!」
紬の手から勢いよく炎が放たれる。
炎はモンスターめがけてではなく、部屋全体にいきわたるように広がっていく。人型モンスターはよけるように一瞬でその場から移動し、炎から逃れた。
「やっぱり……こいつは反射持ちじゃない……!」
紬の仮説はその瞬間確信へと変わった。
魔晶ゴーレムは反射を持っているため、よほど多くの魔法を同時に放たない限り、貫通してダメージを与えることはできない。そのため、魔法をよけるのではなく、真正面から攻撃を受ける。
一方でこの人型のボスは、魔法を避けた。一つの攻撃なら反射することもできるはずなのに。それは、反射を持っていないことを裏付ける行動だった。
「ナギ!反射がなければ魔法をどれだけはなっても大丈夫!追尾型の魔法を放ちまくって!」
「わかった!」
ナギは先ほど手に入れた「共鳴の水晶杖」を構えた。
「雷撃」
杖から大量の雷が人型モンスターめがけて放たれる。さらに、水晶が共鳴し眩い光を放ち、もう一度杖から大量の雷が放たれた。
ボスは逃げるようにして、部屋の中を駆けた。
しかし、どこまで逃げても雷はボスを上回るほどの速さで追い続ける。逃げ切れるはずもなく、ボスはすべての雷を背中に受けた。
「クッ……フォルムの維持不可……鎧を解除……」
ボスは機械的な声でそう呟いた。
ボスが纏っていた水晶の鎧にひびが入り、すこしずつボスの体から外れていく。紬たちはこの好きに攻撃しようと近づいたが、謎のオーラによってボスの体は守られており、ただボスが変化していくのを見守ることしかできなかった。
鎧がすべてボスの体から外れ、ボスは本来の姿となった。
身長は二メートル越えで、人間に近いフォルムをしており、全身が割れた水晶のように鋭い魔晶で作られている。魔晶は時折虹色に光り、形を小さくしていく。両腕は肘から先が魔晶で作られた紫色の長剣になっていた。
「紬、こりゃやばそうだぞ……!」
迅は剣を握りしめ、スキルを放つ準備をした。
右手に握られた剣は魔力を纏い、紫色のオーラを纏っていく。
「魔斬!」
「位相跳躍」
迅はボスめがけて剣を振りおろした。
しかし、すでにボスの姿はそこにはなかった。ボスの放ったスキル「位相跳躍」によって、瞬間移動していたのだ。
「火炎放射!」
「雷撃!」
紬とナギが魔法を放つ。
ボスめがけて魔法が飛んでいく。いくら速かったり、瞬間移動ができても、広範囲攻撃と追尾型攻撃は避けられない。そう思っていた。
「屈折する残像」
ボスは自分の残像、分身を無数に創り出していく。
どうやらその残像には当たり判定が存在しているらしく、広範囲魔法や追尾型魔法を残像が受けることで魔法を打ち消していた。さらに、本体が高速で動き続けていることで残像は増え続け、残像と本体の区別はすでに分からなくなっていた。
「炎斬!」
迅は剣に炎を纏わせて、剣を横に薙ぎ払った。
紬の火炎放射によって炎が増幅され、威力はかなりのものだった。
「グハッ……ナゼバレタ?」
炎斬はボスの体に直撃し、大きな焼け跡と切り傷を負わせた。
攻撃を食らったためか、体の魔晶の多くが砕け、身長が一メートル五十センチほどまで縮んでいた。
「なんでかって?そりゃあ、勘だろ」
「仕方がない……奥の手ダ」
ボスは一瞬で魔晶ゴーレムの前に移動した。
「ちょっと!あともう少しなのに!」
陽毬と茜が戦っていた魔晶ゴーレムにボスは触れた。
「ドレイン」
ボスがそう唱えた瞬間、二体の魔晶ゴーレムは跡形もなくボスの体に取り込まれていった。ボスの体の魔晶は取り込んだことで大きくなり、再び最初のようなにメートル越えの長身を取り戻していた。
「もう一発当てればいいだけだろ?余裕だぜ」
「私、あと一発でゴーレム倒せるところだったんだけど!」
「陽毬、それはあいつにぶつけましょ」
迅だけでなく、魔晶ゴーレムがいなくなったことで陽毬と茜が戦いに加わった。
五対一。
どれだけ速くても人数がいれば攻撃は加えやすくなる。ボスの勝利はすでに0に近い。そう思い込んでいた。
「蒼の断層」
「えっ…………」
回避行動をとる間すらなかった。というより、攻撃する予備動作が見えすらしなかった。陽毬は自分の胸元に目を落とした。
そこには、自分の体を真っ二つにする、綺麗な蒼い光の亀裂が入っていた。
HP 180 → 0
陽毬は一瞬にしてHPを刈り取られ、光となって消えていった。
「次はお前ダ」
ボスは紬を指さした。




