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0056 イベントと限定ダンジョン floor.2

これを入れて残り5話!

階段を下ると、先ほどの部屋よりも確実に広い部屋に出た。紬たちのいる場所から500mほどの距離のところに、出口であろう扉が見えている。


「あれ、出口だよね?走れば行けそうじゃない?」


ナギが出口を指差しながら、そう言った。

そして、一歩前に踏み出した。

ガコン


「うわっ!」


前に踏み出したことで、部屋は本来の姿を現した。床から3mほどの壁が部屋の至る所に出現し、紬たちの視界を妨げた。壁はそれぞれが連結しており、壁と壁の間を通り抜けることはできない。壁によって道が作り出され、複雑に入り組んでいる。


そう、部屋は迷路を作り出したのだ。


「どうやらこの部屋は迷路みたいね。これは相当時間がかかりそうね」

「うーん、今は20時か。あと4時間、できるだけ早く攻略したいところだね」


茜がずっと気にしている通り、イベント終了まで残りは四時間。

茜たちはイベント上位を狙っているため、イベント終了までこのダンジョンのどこかにあるというボーナス部屋でポイントを稼ぎたい。紬としても早く攻略して自分のダンジョンに戻りたかった。


「迷路ってどうやるのが一番効率いいんだろうな?俺は苦手だから戦力外だぞ?」


迅は早くもあきらめたらしく、壁によしかかりあくびをしている。


「ひとまずやってみるしかないよね?マップ機能でどうにかならないかな?」

「あっ!!それだ!!」

紬は突然大声でそう叫んだ。

そしてにこにこでなにやらメッセージを送り始めた。


「リンタへ

リンタのスキルで迷路のマッピングとかできたりするかな?できたら共有してほしいかも!」


リンタとは、風のダンジョンのマスターだった人物で、今は紬のダンジョンを守ってくれている。そんな彼のスキルは、自分が見た場所、所有権のある場所をわかりやすくマッピングし、アイテムとしてマップを入手できるという強力なものである。

ちなみに、この三日間でスキルが強化され、自分以外にもスキルを共有することで共有された人でもマッピングが行えるというとんでも強化がなされていた。


「おー紬か。マッピングなら共有しておいたからすでに使えると思うぞ。まあ俺はお菓子でも食ってるからゆっくり頑張ってくれよー」


「え?もう使えるの?」


紬はメニューを開き、ステータスやアイテムなど様々な項目が書かれたウィンドウを下にスライドしていく。下までスクロールすると、確かにマップと書かれた項目が増えている。


マップをタップすると、リンタによるマッピングであろう風のダンジョンのマップと紬のダンジョンのマップ、そしてその周辺のマップが登録されている。宝箱の場所からモンスターの配置まで乗っているかなりの精度のものだった。


「ほんとだ……マッピングの項目もある」


マップの表示されているウィンドウの右上には「マッピングを開始する」と書かれている。紬は興味津々でタップした。


「おー!マッピング始まってる!今いるこの辺は細かく表示されてるけど、それ以外はなんも書かれてないのか。へー、部屋の大きさとか出口とかは表示されるんだ」


マッピングは認識した場所、今回であれば出口や部屋の大きさはマップに反映される。そしてもちろん、自分の見た場所、視界に移った場所はマップに書き込まれていく。どこに行っていなくて、どこに行ったのか。簡単にわかるようになっている安心設計だった。


「うん、これさえあれば簡単に行けるかも!」


紬はマッピング機能について四人に説明し、紬が一番後ろを歩き、マッピングしながら少しずつ正解の道を探すことにした。紬が後ろを歩くのは、トラップなどの万が一のことを考えてだった。


「やっぱり手分けしたほうが早そうだけどな」

「でもそうしたらどれが正解か覚えなきゃいけないよ?迅くん、そういうのできる?」

「無理だな」


陽毬に諭された迅だったが、それでも尚、迅は手分けしないことを不満そうにしていた。どうやら、迷路は手分けをしてさっと終わらせたほうがいいと思っているようだった。


「迅、あなたわかってないでしょう?このダンジョンになにしにきたのか。覚えてる?」

「そりゃあ、ダンジョンの攻略と水晶の大量入手だろ」

「ええ、そうよ。でもひとつ誤解しているんじゃないかしら?ボーナス部屋は三階にあるとは限らないわ」


迅は茜の言っていることをいまいち理解できていないらしく、首を傾げた。


「ん?そりゃそうかもだけど、迷路をマッピングせずに攻略することと何の関係があるんだ?」

「迷路のどこかにボーナス部屋がある可能性があるってことよ」


迅は引きつった顔で迷路を見た。


「そりゃだるいな……」

「迅、さっさと終わらせちゃおうよ」

「そうだな」


紬たちは縦一列に、ドラクエのように縦一列に並んで少しずつ迷路を進んでいった。

ダンジョンを攻略しているのも、迷路を攻略していることもさらにドラクエ感を増していた。


「あれ?全部行き止まり?」


分かれ道のどこをたどっても行き止まりで先に進める道はない。

ここまでの道は全て確認しており、行き止まりであることが分かっている。だが行き止まりしかないということは、どこかは行き止まりに見せかけて道がつながっているということだった。


「マップにも特に書いてないか……」


紬はマップを見ながら、目の前の行き止まりの壁に触れた。

壁は冷たくしっとりとしているだけで、ごく普通の壁である。


「とりあえず全部今までの行き止まりを調べてみる?何かわかるかもしれないし」


ナギの提案によって、紬たちは今までマップに書かれてきた十個以上の行き止まりをすべてもう一度調べることにした。

壁を触ったり、床を調べたり、スイッチがないか探したり。そんなただただ地道な作業を一個一個行っていく。


そして、八個目の行き止まりを調べていた時だった。


「熱っ!」


声のするほうを向くと、ナギが手のひらをおさえながら壁をにらんでいた。

紬もナギと同じように壁に触れた。


「なんだこれ、熱すぎる!」


百度越えの鉄鍋に触れたかのような熱いを超える痛みが、手のひらに走った。あまりにも熱いのか感覚がない。ほかの行き止まりにはなかった明らかな異変だった。


「いてて……この先に何かあるのは確定だね」

「それにしてもこの先に行く方法がまるでないわよね」


茜の言う通り、この先に何かあると分かったところで行き方はわかっていない。

そう簡単にはこの迷路をクリアさせてくれないようだった。


「そういえば、熱された状態の鉄って少し体積が大きくなるんだよね?」

「あぁ、小学校でそんなことやったな」

「それを使えば行けるんじゃない?」


ナギの天才的なアイデアに紬たちは顔を見合わせた。

鉄というのは同素変態金属であり、温度によって結晶構造が変化するという面白い性質をもった元素である。その性質によって、鉄というのは熱くなると体積が大きくなり、冷えると体積が小さくなるのだ。


「でもどうやって冷やす?私たち水魔法とか氷魔法は使えないよ?」

「うーん……水爆弾とか持っている人がいればそれでよかったんだけど……」


ナギの言葉に迅がぴくっと反応した。

そして恐る恐るというように手を挙げた。


「それ……俺持ってる……」

「えっ、ナイス!迅すごいよ!」


紬が迅の手を取って跳ねていると、迅は茜から目をそらすように壁を見た。


「迅、まさかとは思うけど、この前渡したお金をそのネタアイテムにすべて使ったわけじゃないでしょうね?」

「……」


迅は無言で頷き、すばやく床に頭をつけた。


「すいませんでした……」

「はぁ……装備が変わった時点で察してはいたけれど、まさか水爆弾とはね」


水爆弾。

このゲームの道具屋で売られている小型の爆弾である。

風船の中に電気の魔力が少しだけ流し込まれた水が入っている、少しだけ威力のある水風船である。爆弾という名前のせいで、リリース当初多くのプレイヤーが騙されたことで、有名なネタアイテムと化しているのだった。


「で、でも、これのおかげで助かるだろ?だから、この通り」

「まあいいわ。助かるかもしれないのは事実だし。あとこの程度のことで土下座しなくていいわ」


迅はゆっくりと立ち上がり、インベントリから水爆弾を大量に取り出した。


「よっしゃ、一気に冷やすぞ!」


迅は「せーの」といい、水爆弾を壁に向かって投げ始めた。

紬も迅の足元に置かれている水爆弾を壁に投げていく。ボール投げがマイナスになったことのあるナギを除いて、四人で絶え間なく水爆弾を壁に投げ続けた。


プシュゥゥゥ…………


壁の熱が水爆弾によって完全になくなった。

そのことで壁の右端に人が通れるほどの隙間が生まれ、道が生まれた。


「よし、これでいけるんじゃない?」

「いってみよー!」


陽毬が元気に先に進んでいく。

マップを見ると、部屋の下半分はすべて埋まり、残り上半分のところまで来ている。とはいえ、今のようにいろいろな障害が待ち受けていると考えると、まだまだ時間がかかりそうだった。


「陽毬ー、なんかあったー?」


紬が通路の先に進んでいくと、二手に分かれた片方の道から陽毬の声が聞こえた。

声のするほうに進むと、突き当たりで陽毬がしゃがんでいた。


「見て!これ新アイテムじゃない!?」

「どれどれー?」


紬は陽毬の近くに置いてある宝箱の中を覗き込んだ。

中には黒色の塊が一つポツンと入っており、そのほかに何も入っていない。黒色の塊も不規則な形をしていて、見ただけではどんなアイテムなのか想像ができなかった。


「私、これの説明欄見てもいい?」

「いいよー」


陽毬は黒色の塊をインベントリの中にしまい、説明欄を開いた。


アイテム名:覚醒炭

説明:銅剣カッパーを覚醒させることができる消費アイテム。ただし、このアイテムを使用すると、錆状態にはできなくなり、効果も固定になる。また、スキル「酸化」を所持している場合のみ、このアイテムは消費アイテムではなくなり、覚醒した銅剣を自由に酸化、還元できるようになる。


「うーん……なんかよくわかんないけど、今は使えなさそうかも?」

「そうだね、とりあえず迅に渡しておく?」

「呼んだか?」


紬と陽毬が新アイテムについて話していると、迅たち三人も追いついてきた。

迅は陽毬から覚醒炭の説明を受け、目をキラキラと輝かせながら、覚醒炭を受け取った。


「わくわくするな、こういうの!俺の当面の目標は酸化の入手かな!」

「まさか、あの銅剣が強化される時が来るとはね……ほかの人には絶対行っちゃだめよ」

「もちろん、俺らの秘密だぜ」


迅は嬉しそうに鼻歌を歌いながら、反対側の分岐へと歩き出した。


「またアイテムあるぜー!」


迅が紬たちに聞こえることでそう叫んだ。

紬たちが急いで迅のもとへ向かうと、迅の目の前にはまた宝箱が置かれていた。


「あれ?宝箱はうれしいけど、また道ないね」

「もしかして、まだ行っていない行き止まりが先に進む道なんじゃない?ここは隠し宝箱部屋みたいな」

「ありえるわね」


女子三人は宝箱より、道がないことに不安を感じていた。

一方、ロマン大好き男子は宝箱を開けようと宝箱に手をかけていた。


「「オープン!!」」


紬と迅は勢いよく宝箱を開けた。

宝箱の中には、さっきとは違い三つのアイテムが入っている。水晶で作られた弓と杖、そして豪華な装飾が施された万華鏡が部屋の天井に浮かぶ光に照らされ、きらきらと輝いている。


「杖はナギが使ったらいいかも!なんかめっちゃ強そうだし」

「ありがと。どんな効果だろ?」


ナギが紬から杖を受け取り、ウィンドウから説明を開く。


「えーと、共鳴の水晶杖レゾナンス・スタッフ……魔法を放つたびに杖先端の水晶が共鳴し、MP消費なしで同じ魔法が放たれる!?なにその、ぶっ壊れ性能!?」


「じゃあ、この弓も強いんじゃねえのかな?双晶の狙撃弓ツヴァイクリスタル・シューター……矢を必要とせず、MPを使用して弦を引くと自動的に双晶の矢が形成される。ただし、熱を発するため、冷却媒体が必要。ファンとか必要なのか?PCみてえだな」


「どっちもかなりぶっ壊れの装備ね……杖はまだ弓のほうがマシにみえるくらいのぶっ壊れだけれど」


茜はすべて水晶で作られている杖と弓を交互に見て、目を見開いた。

これだけのぶっ壊れ性能と一緒に入っているのだから、きっとこの万華鏡もぶっ壊れ性能に違いない。そう信じて、紬は万華鏡の説明を開いた。


「万華鏡の魔砲カレイド・バスター……万華鏡の見る部分から魔力によって形成された水晶片を飛ばし、さらに魔力を乱反射させて広範囲に効果力魔力攻撃を放つ重火器。えっ!このゲーム銃とかあったんだ!」


紬が銃を持って撃つマネをするといういかにも子供じみた行動をしているが、実際持っている銃はおもちゃではなく、ぶっ壊れアイテムである。


ガガガガガガ…………


五人で手に入れた武器で盛り上がっていると、先ほどまで分岐路の二つの宝箱の真ん中に位置していた壁がなくなり、奥に進める新たな道が開けた。


「あっ!あれ出口だ!」


紬の指さす方向には、最初に見えていた出口があった。

マップで確認しても、これ以上迷路の中で行っていないところはなく、出口も場所があっている。どうやら、ご褒美宝箱を入手して終わるフロアだったようだ。


「先にすすもうよ!次で最後だよ!」

「よっしゃがんばりますか」

「やるしかないわね」

「がんばろー!」


四人はそれぞれ気合を入れなおし、紬のほうを向いた。


「それじゃあ、準備はいい?」


「「「「「ボス戦へ、レッツゴー!!」」」」」

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