0052 イベントとデビちゃん
「改めて!おらの名前はデビル・クロウド。悪魔界のスーパーアイドルだぞ!」
デビルはその場でくるっと周り、右手を空高く上げて決めポーズをした。
ナギはしばらく決めポーズをしているデビルをまじまじと見つめていたが、デビルがそれ以上話す気配が全くなかったため、痺れを切らして質問した。
「君はどうしてここに来たの?」
「そんなこと言われてもなぁー、おらもよくわからないからさ。あ、そういえば神様に、おらは誰かに従魔として仕えるんだよ、とか言われた気がするぞ」
デビルは顎に小さな手を当て、「そうだったよな?」と確信がなさそうに呟いた。
「あ、もしかしておらの主人って……」
デビルはゆっくりとナギの方に視線を向ける。
ナギはデビルと見つめ合いながら、自分を指さした。
「私……?」
二人、一人と一匹の間に、静まり返った時が流れた。
「なーんだ!こんな可愛い女の子がおらの主人なのかー!おら、もっと怖い鬼みたいなゴツい男の人を想像してたぞー!よかったー」
「従魔ってことは、ステータスとか見れるのかな?」
「見れると思うぞ!まあ、強いかどうかは置いといてだけどな!」
デビルが嬉しそうに鼻歌を歌いながら、ナギの周りを飛び回っている。
その様子を横目に見ながら、ナギはウィンドウからデビルのステータスを開いた。
『デビル(No name)が仲間になりました。種族が「ナギの従魔」に変更されました。特殊条件を満たしました。スキル「命の対価」を取得しました』
「ん?」
ナギがステータスを確認する前に、突然頭にアナウンスが流れた。
何を言われたかわからなかったため気になりはしたものの、ひとまずデビルのステータスを確認することにした。
No name
Lv.1
HP 45 / 45
MP 30 / 30
STR 38
VIT 13
AGI 21
DEX 11
INT 5
スキル
「ダークボール」
「闇吸収」
「夜行性」
「うーん?」
ナギはスキルの欄を見て、首を傾げた。
ダークボールは名前からなんとなく効果がわかるのものの、他の二つのスキルはいまいち想像しにくい。気になったナギはスキルの説明欄を開いた。
「闇吸収」
効果:闇属性の攻撃や、感情を操作する攻撃を全て無効化し、本来受けるダメージや効果の強さに応じて、自身のHPとMPを回復する。
◇ パッシブスキル ◇
「夜行性」
効果:ゲーム内時間が夜の時、自身のHPとMPを除くステータスが全て2倍になる。ただし、常時光属性の攻撃に極端に弱くなる。
◇ パッシブスキル ◇
「へぇー面白いかも!すごいね!」
「だろだろー!おらは普段は弱いけど、夜はデビルらしく強くなるんだぞ!」
デビルは自慢げに腰に手を当て、ふんっと鼻息を鳴らした。
デビルの持つ仕切るに書かれていたパッシブスキルとは、クールタイムがなく、常時自分にかかっているスキルのことである。紬の持つ「隠密」や「魔法耐性Ⅰ」、「モンスター言語理解」などもその一つである。
しかし、パッシブスキルというのは紬が持っているようなシンプルで強力すぎないスキルが多く、デビルの持っているような発動条件が指定されているパッシブスキルは珍しかった。
「そうだ、名前つけなきゃだね」
「うん?おらはデビル・クロウドだぞ?名前はもうあるぞ?」
恒例の名付けタイム……とはいかず、デビルは名前を新しくつけられることを拒否した。本来、従魔や紬のダンジョンのモンスターのような、プレイヤーの味方となるモンスターは名前をつけられることを神聖なものとし、拒否することはない。
デビルのように拒否するのは、例外中の例外だった。
「それじゃあ、これからも君はデビル・クロウドで!」
『名前がデビル・クロウドに設定されました』
「でもデビルだと、そのままだし呼びにくいよね……どうしようか?」
「好きに呼んでくれていいんだぞ?名前さえ変わらなければ、おらはいいからな」
ナギはしばらくなんと呼ぶものか考えた。
しかし、そう簡単に決まるものではなく、紬を待たせていることもわかっていたため、途中で考えることをやめ、出口を探すことにした。
「それにしても、ミッションはクリア判定になったけど、出口はないんだよね……」
ミッションが終わり自分たちの他に誰もいなくなった広大な湖を見つめて、ナギはため息をついた。
「仕方ない!出口が出てくるまで、他に手に入れたアイテムでもみようかな!」
ナギが諦めたように、草原に寝っ転がった。
爽やかな草の匂いと頬を撫でる柔らかい風がナギを襲う。その攻撃に耐えきれなくなり、うとうとし始めた頃、突如大きな音が響き渡った。
ヴォォォォォォォン!!
「うるさっ……」
ナギが耳を抑えながら立ち上がると、目の前に大きな青色のワープゲートが出現していた。それの影響なのか、空は真っ暗になり湖はざわめいているかのように、波を立てている。
「デビちゃん、帰るよー……」
ナギは怖くなり、デビルに小さな声で呼びかけた。
しかし周りにデビルがいないのか、デビルからの返事はなく、先ほどまでは柔らかかった風が冷たく鋭く頬を撫でるだけだった。
ナギは泣き叫びたくなる衝動を堪えながら、青いワープゲート目掛けて走り出した。
もうここには居たくない。こんなとこ嫌だ。怖い。怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い…………。
今すぐ逃げたい。
ズキンッ
ワープゲートを目の前にして、ナギは目の光を失い、生きる力を失ったように全身を脱力させて、気を失った。




