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0051 イベントとうさちゃんレース

「うーん……痛っ」


転移トラップによって、突然どこかに送り込まれたナギは腰を抑えながら、よろよろと立ち上がった。腰を痛めたのは、転移に驚いて勢いよく転んだからである。


「なんだこりゃ」


ナギは周りを見渡した。

紬と一緒にいたコンクリートの部屋から一転。目の前に広がっていたのは絶景とも言える綺麗な湖だった。しかし、目の前に端が見えないほど大きな湖があるほか何もなく、森が広がっているわけでもない。どこまでも平坦な草原が広がっていた。


「どうすれば出れるんだろ?特に何かボスがいるような感じでもないし……」


『運営からメッセージを受け取りました』


ナギはアナウンスを聞き、ウィンドウを開いた。

ウィンドウのメッセージボックスには、未開封の通知を示す「!」が表示されている。ナギは躊躇うことなく、運営からのメッセージを開いた。


『いつもdungeon online をお楽しみいただきありがとうございます。

誠に勝手ながら、ナギ様には我が社の新人であるガトーの作成したミッションのゲームテスターとして、ミッションに参加していただきます。

尚、ミッションをクリアするか、イベント時間が終了するまで、この空間から出ることはできませんのでご了承ください。

ご理解とご協力をよろしくお願いします。 運営』


「はぁ?」


ナギはメッセージを読んで思わず眉間に皺を寄せた。


「そんなことしてる時間ないのに……さっさとクリアしないと」


ナギがぶつぶつと文句をこぼし始めた頃、再び運営からナギ宛にメッセージが届いた。ナギは頬を膨らませながら、メッセージを開いた。



『ミッション「うさちゃんレース」について


クリア条件:うさちゃんを両手で捕まえる


ミッションが開始されると、うさちゃんとデカキツネが出現し、うさちゃんがデカキツネに追いかけ回されます。あなたの役目はうさちゃんに追いつき、うさちゃんを捕獲することです。デカキツネはメガロフォビアです。うまく工夫して、うさちゃんを保護しましょう!

※デカキツネにうさちゃん、またはあなたのどちらかが追いつかれると、ミッションは一からやり直しとなります。』



「うわぁ、なんだかめんどくさそうだぁ……」


ナギは思わずそう呟いた。

どう考えても時間のかかるミッションである。死ぬこともできないため、この空間から出ること自体の難易度が高い。ナギが愚痴を言うのも仕方のないことだった。


「まあ、やってみないとわからないよねっ!ゲームスタート!」


『ミッションスタート!』


ナギがウィンドウのスタートボタンを押すと、元気な声で開始の合図がアナウンスされた。アナウンスと同時に、湖の周りに光の道ができ、その上に500mくらい離れた位置で小さなウサギと大きなキツネが現れた。


ナギが戸惑っていると、小さなウサギとデカキツネは動き出し、光の道に沿って走り出した。小さなウサギはかなりすばしっこく、デカキツネとあまり変わらない速度で走り続けている。しかし、体の大きさも相まって、デカキツネの速度には勝てず、だんだんと二匹の差は縮まっていた。


「あっ、ナギが助けなきゃなのか!」


ナギは急いで走り出した。

しかし、ナギはいつまで経っても二匹に追いつくことはできなかった。それもそのはず。ナギは非常に運動神経が悪く、走ることすらままならないので、このゲームで魔法使いという動かなくても良さそうなジョブをとっていたのである。


『うさちゃんがデカキツネにキルされました』


ナギがノロノロと追いかけているうちに、デカキツネがうさちゃんに追いついた。

ミッションが失敗と表示されたものの、まだミッションは続いている。やはり、ミッションをクリアするまで続くのは間違いなさそうだった。


「うーん、ナギじゃ絶対に追いつけないし……待ち伏せしても早すぎて捕まえられないし……。ど、どうしよ?」


色々と策を考えても、全てナギの運動神経やデカキツネのスピードのせいで実行できる気がまるでしない。魔法でどうにかしようと魔法を見てみたものの、拘束系やデバフの魔法はナギは持っていない。得意の魔法でどうにかするのも厳しそうだった。


「そういえば、ミッションの説明に変なこと書いてたよね。なんだっけ?」


ナギはミッションの説明を再び開いた。


「これだ!メガロフォビア??」


メガロフォビア。

普通の人が知っているわけないその単語は、ガトーからのナギへの最大のヒントであり、最大の嫌がらせだった。


「うーん、わかんないし、globe検索してみよう」


globe検索だ。決してg〇〇gle検索ではない。

これはイベント前のアプデで追加された新機能で、ゲーム内でもネットを開き色々と検索することができる。しかし、不適切なものやゲームの不利益になるもの、その他色々、検索できないようにフィルタリングがされているため、完全に自由な検索ができるわけではなかった。


「メガロフォビア……巨大物恐怖症?」


メガロフォビアというのは、巨大物恐怖症という病気の別名である。

大きいもの、高層ビルや巨大像、ダムなどに強い不安や恐怖を感じ、動悸や吐き気といった身体的症状が現れる。自分より大きいものに威圧感を感じて、破傷するものとされており、写真などの目の前にないものでも発症してしまうこともあるらしい。


そんな恐ろしい恐怖症をデカキツネも持っているというわけである。


「えっ、でっかいもので怖がらせてその隙に捕まえるってこと?デカキツネさん可哀想じゃない?酷くない?」


ナギは優しかった。

恐怖症という弱みに漬け込んで、デカキツネからうさちゃんを守ることでクリアすることを想定していたこのミッションは、可哀想と思ったらクリアできない。


しかし、ナギはまだその真実を知らないため、さすがに他にもクリア方法があると信じてミッション内容を再び読み始めた。



◇ ◇ ◇



「ちょっ……嘘だろ?メガロフォビアを利用しないってマジか?」


「dungeon online」を作っているゲーム会社、「Nova Strideノヴァ・ストライド」の管理室で男は一人唸っていた。


「唯一のクリア条件だってのに……これじゃいつまでもクリアできないだろ……」


男は大きなため息をついて、勢いよく机に頭を突っ伏した。

机の上にはナギの行っているミッション、「うさちゃんレース」の企画書が積み上がっている。そのうちの多くは赤ペンで大きくバツがつけられ、やり直しの印が押されていた。


「やっぱりあなたはまだまだですね。だからいったではありませんか。このミッションのクリア条件はそれでいいのですか、と」


管理室に入ってくるなり説教をしてくる人物にイラついた男は、勢いよく机を叩き立ち上がった。


「ほっといてくれ、どうせお前と違って俺は出来損ないだ。俺が関わったことはことごとく失敗していく。バグが起きたり、今回みたいにクリアできなくなったりな。まあ、このミッションに関しては俺が悪いとは思ってねえが」


男は机の上に置いてあった飲みかけのエナギードリンクを一気に飲み干した。

そして空になった缶を握りつぶし、思い切り蹴り飛ばした。


「はぁ……まだあの失敗を引きずっているのですか?もういいとい荒れたではありませんか。これからいいアクセントとしてゲームを支えてくれるかもしれませんし」

「だったらいいけどな」


男は息を荒くしながら、再び机に突っ伏した。


「でてけよ。俺は寝る」

「そうですか、と言いたいところですけど、そのプレイヤーをどうにかしてからにしてくださいね。後々クレームが来ても私は対処しませんよ」

「チッ、わかった。やるよ」


男は不貞腐れながら、ミッションのデバッグ作業を始めた。



◇ ◇ ◇



『緊急連絡を受け取りました。断ちに開いてください』


「うわっ!びっくりした……」


メガロフォビア以外のクリア方法を小1時間考え続けていたナギは、突然のアナウンスに驚いた。

目をぱちぱちさせながら、ウィンドウから緊急連絡と書かれたメッセージを開いた。



『ナギ様

現在参加していただいているミッション「うさちゃんレース」について、想定していたメガロフォビアを利用したクリア方法を使わないという選択をとった場合のクリア方法を設定しておらず、クリアできない可能性が生じましたので、ミッションは終了とさせていただきます。

また、ゲームテスターの報酬とお詫びとして、ミッションはクリアとさせていただき、クリア報酬と追加でお詫びの品をお渡しさせていただきます。


こちらのミスによって、貴重なお時間を余分にいただいてしまい申し訳ございませんでした。今後ともdungeon online をよろしくお願いいたします。 運営』



「そっかぁ……あれが想定解だったんだ……。まあクリアできたしよかった……かな?」


ナギは少し消化不良のような気持ちを残しながら、ウィンドウを閉じた。


『報酬を受け取りました。「デビル」「雷の耳飾り」「ブラックボックス」を入手しました』


「デビル?」

「どもども!みんなの可愛いアイドル、デビルちゃんだぞっ!」


ナギがアイテム欄のデビルと書かれたアイテムを選択すると、突然目の前にデビルが現れた。体は黒く、触覚と尻尾は先っぽが三角形でぴょこぴょこと動いている。身長は40cmほどで、可愛い悪魔という見た目をしていた。


このゲームシリーズにおけるデビルというのは、この目の前でふわふわと浮いているデビルのような可愛い見た目ではなく、神話や映画のラスボスなどで描かれる恐ろしい見た目の方の悪魔だった。身長も2mを超える個体が多く、ここまで小さい個体はありえなかった。


「なぁ、そのシーンとするのやめないか?おらの渾身のギャグが滑ったみたいになるだろ?」

「ご、ごめんね?それで君は?」

「だーかーら!みんなのアイドル、デビルちゃんだぞ!」

「君のことをもっと教えてほしいなぁ……って」


デビルは体をくねくねさせ、頬を赤らめた。


「しょうがないなぁー!おらのこと教えてあげるよーっ!」


デビルはニッコニコで自分のことを話し始めた。

次の更新は3/19の18:15付近の予定です。

(最近、全く予定通りの時間に投稿できてなくて滅)


3/17 22:50追記

誤字があったため、修正しました。

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