0050 イベントとマシュ
紬が転移した先は、転移トラップを踏んだ近く、魔の森の中だった。周りを見渡してもナギの姿はなく、一緒に逃げてきたレイスが隣にいるだけだった。
「ナギは大丈夫かなぁ」
大きなため息をつき、近くの大木の根元に腰を下ろす。レイスも寂しいのか、紬の膝の上でふわふわと浮いていた。
『ミッション「ゴーストを救出せよ」の達成を確認しました。報酬として、「ゴーストローブ」とレイスを付与しました』
「キュルッ!」
「仲間になってくれるってことか!!ステータス確認してみようかな」
No name
Lv.1
HP 30 / 30
MP 45 / 45
STR 3
VIT 0
AGI 38
DEX 36
INT 88
スキル
「霊弾」
「透過」
「物理攻撃無効」
「つよっ!?」
ステータス自体は紬と大差はないものの、スキルの一つ一つが強く、レベル1にして紬以上の火力を出せる。さらに、普通のレイスが持っているスキル「物理攻撃耐性・大」を上回る、レイスロードの持つスキル「物理攻撃無効」を持っている。
普通のレイスではないことは明らかだった。
「せっかくだし、名前つけようか。何がいい?」
紬が膝の上にいるレイスに声をかけた。
レイスは紬の膝の上から紬の顔を見上げ、ニコッと笑った。
「欲しいー」
「おおっ、喋った」
言語理解のスキルによって意思疎通が可能なのだが、まだ不慣れな紬は突然の話したことに驚いていた。
ネーミングセンス壊滅の紬は、名前を決めるのが嫌いである。しかし、このゲームを通して少しずつ苦手意識が薄れ、名前をつけて喜んでもらうことに喜びを感じていた。
そして、油断してしまった。
「ふわふわ浮いていて可愛いからなぁ……。普通のレイスじゃないみたいだし、特別な名前にしたいよね。可愛い名前にしたいから……」
「ふわふわとかいいかも!!」
「いや」
「えっ、いや?」
「いや」
「そっかぁ……」
紬は頬を膨らませ、「どうしたものかなぁ」と言いながら頭を抱えた。
シンプルなやつほどネーミングセンスというのは問われるもので、紬にとっては最難関のことだった。
「じゃあ、マシュとかどう?」
マシュ。
この名前は、マシュマロをこの前食べて、それがこのレイスに似ていたこと、たったそれだけで決められた安直も安直な名前だった。しかし、紬にしてはセンスも良く、レイスの見た目や特徴も捉えることができていた。
「いいなまえー」
「じゃあ、今日から君はマシュ!」
「はーい」
『マシュが仲間になりました。種族が「ツムグの従魔」に変更されました。特殊条件を満たしました。スキル「絆強化Ⅰ」を取得しました』
アナウンスが突然頭に流れ、紬は思わず頭を抱えた。
「多い多い……情報量過多……」
紬はアナウンスで何を言われたのか分からなくなり、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしながら、ログを開いた。
どのみち、ナギが転移トラップから帰ってくるか、死んで街に戻ったとわかるまでここから動くわけにはいかない。ゆっくりと何が起きたか確認する時間は十分にあった。
「ゴーストローブなんてものも手に入れてたのか。ちょっと見てみようかな」
「ゴーストローブ」
ゴーストの力が宿った紫色の生地を使用したローブ。特殊条件の開放によって効果が変化する。
効果:VIT+30、INT+20、スキル「魔法耐性Ⅰ」取得(絆強化Ⅰ)
「ええっ……エッグい効果の装備なんだけど……」
紬はゴーストローブの説明を見て絶句せざるを得なかった。
このゲームがサービス開始から1ヶ月が経った今、発見されている装備の中にスキルを付与する装備や条件によって効果が変化するという装備は発見されていない。要するに、この装備は現時点最強装備なのだ。
「でもこれでプレイヤーと装備でバレることはないかな。装備、装備っと」
紬は装備していた初期装備のローブを外し、ゴーストローブを装備した。
装備欄にゴーストローブと記載されると、着ていた麻のローブは消え、一瞬にしてゴーストローブが紬の身を纏った。
「あったか……こんなに違うものなんだ」
ゴーストローブのあったかさに感動しながら、再び紬はログに目を落とした。
「なになにー?絆強化Ⅰ……」
「絆強化Ⅰ」
効果:プレイヤーと従魔の間の絆が強まるにつれて、スキルレベルが上がる。効果はグレードによって異なる。
↓もっと見る
紬は「もっと見る」と青文字で書かれた文章をタップした。
しかし、そこには何も記載されておらず空白のままだった。
「バグ?そんなことあるかな?」
紬がスキルの説明を何度もじっくり読んでいると、説明欄の一部に目を留めた。
「スキルレベルが上がる……でも効果はグレードによって異なる……?」
紬は説明欄の引っ掛けに気づいていた。
絆強化は絆が強まることでスキルレベルが上がっていく。しかし、実際に効果が変わるのはスキルのグレードの変化が条件なのだ。
そしてスキルのグレードを上げる方法は、どこにも記載されていない。
運営がスキル内容を隠す。それは、スキルが強力であることの裏返しだった。
「うーん、今できることはなさそうだし、とりあえずは様子見かなぁ。スキルレベルだけとりあえず上げてみようかな」
紬はよしっ、と言ってウィンドウを閉じて立ち上がった。
「ナギ全然出てこないけど大丈夫かなぁ」
紬が転移トラップから帰ってきてからすでに10分が経とうとしていた。
もしナギが同じようにレイスロードと戦わされていたら、いつ死んでもおかしくはない。そう思い、フレンド欄を常時見続けていたが、死亡した様子もなく、街に戻った様子もない。
ナギにメッセージを送っても帰ってこないのを見ると、まだ転移トラップの中にいるのは間違いなさそうだった。
「なんか光ってるー」
ウィンドウと睨めっこしていると、マシュが紬に声をかけた。
マシュの指さす方を見ると、確かに転移トラップの辺りがほのかに光っていた。
ピカーーン!!
突然眩い光が放たれ、紬は咄嗟に目を瞑った。
「はぁ……死ぬかと思ったー!!」
聞き覚えのある声が聞こえ、紬が目を開けると、そこには疲れてぐったりとしているナギの姿があった。
「ナギ!無事だったんだ!」
「紬ー聞いてよー」
ナギは大きなため息をつき、紬に転移トラップで飛ばされたことを話し始めた。
次回の投稿は3/19の18:15を予定しています。




