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0049 イベントとゴースト

「……っ……ここどこだろ?」


紬が目を開けると、そこは魔の森ではなく、コンクリートの壁に四方向全て囲まれていた。紬とナギは閉じ込められてしまったのだ。


「入口も出口もない……転移トラップ専用の部屋かなあ。何も起きないし、どうしようか?」


紬がナギに視線を送ると、ナギは部屋の隅一点を見つめていた。そこには何もなく、ただコンクリートの壁があるだけだった。


「ナギ、なんかあったの?」

「あそこ……なんかいる……」


紬はもう一度、部屋の隅を見つめた。

すると、そこには先ほどまではなかった紫色のモヤが大きな存在感を示して浮いていた。


「な、なにあれ?」


紬がナギの顔を見るように振り返ると、そこにナギの姿はなかった。

その代わり、そこには部屋の隅に浮かんでいるような紫色のモヤが浮いていた。


「さ、触ってみる……?」


紬はよし、と自分に喝を入れ、モヤに静かに指で触れた。


『限定ミッションが始まりました。ミッション「ゴーストを救出せよ」』


「えっ?」


アナウンスが頭に響いた直後、紬は意識を失った。


◇ ◇ ◇


紬が次に意識を取り戻すと、ほとんどの建物は朽ちて崩壊し、地面のコンクリートは雑草に覆われ、空はどんよりと曇った不穏な空気の流れる場所にポツンとたった一人立っていた。

周りを見渡しても、ナギの姿はなく、他に人影も見当たらない。どうやら紬だけがこの空間に送り込まれているようだった。


「さてと……どうしたもんかな……」


「た……け……」


紬は遠くからかすかに聞こえた声の方を振り向いた。

その先には、三階建ての豪華な屋敷が綺麗な形で残っており、三階の一番左端の部屋に電気がついていた。しばらく見ていると、時折電気が消え、声が聞こえる。


「た…す…け…て……」


「助けてって言ってるのかぁ……そう言われちゃあねー」


紬はインベントリから短剣を取り出し、腰に携えた。

あからさまに敵がいる屋敷に準備もせずに飛び込んでいくわけもなく、入念に準備を行う。もちろん、プレイヤーが襲われているなら悠長なことをしているわけにはいかないが、今回はイベントのNPCということがわかっているため、ゆっくりと準備を行った。鼻歌も歌いながらるんるんで。


「よし!それじゃ行ってみよーう!」


紬は屋敷の扉を大きく開け放った。

屋敷の中は至る所に蜘蛛の巣が張り巡られ、床の板は腐って不穏な音を立てている。ネズミの姿は見えないものの、いてもおかしくはない。


「ヒュルルルル……」


紬が来るのを待っていたかのように、幽霊のモンスター「レイス」が姿を現した。一体、また一体と数を増やしていき、瞬く間にレイスの数は20を超え、紬の退路と進路を完全に絶っていた。


「よっしゃ、かかってこいや!」


「火炎放射」


紬が新たに取得していたスキル、火炎放射。

火魔法がレベルアップしたことで追加されたこのスキルは、前方の広範囲に炎を放出する。火球と比べると、MP消費も大きい分、瞬間火力が高く、多くのモンスターと戦うにはうってつけのスキルだった。


「ヒュルッ!?」


レイスは反応できずに炎に包まれて、HPを一瞬で失った。

20体いたはずのレイスは一瞬にして数を減らし、たった一体端っこにいたレイスだけが生き残った。


「それじゃ」

「ヒュルヒュルヒュル……」

「待って待って言われても待たないよー」


紬は最後に残ったレイスにも容赦なく火球を放ち、1分もかからずに20体のレイスを一掃することに成功した。


『レベルが上がりました』


「久しぶりのレベルアップだー!さてさてどうなったかなぁ」



ツムグ

Lv.18

HP 130 / 130

MP 3 / 85


STR 25(+11)

VIT  0(+5)

AGI  35

DEX 48

INT  42【10UP!】


装備

 頭『なし』

 体『麻のローブ』

 右手『鉄の短剣』

 左手『なし』

 足『なし』

 靴『なし』

 アクセサリ『なし』

      『なし』

      『なし』


ジョブ

『エンチャンター』


スキル

「土魔法:初級」

-「穴生成」【NEW!】

「隠密」

「魔力回復:微」

「モンスター言語理解」【NEW!】

「火魔法:中級」

-「火球」

-「火炎放射」

『付与魔法:中級』

-「攻撃力強化Ⅱ」

-「速度強化Ⅱ」



紬は手に入れたステータスポイントを全てINTに振った。

スキルを見ると、いつ手に入れたのか「モンスター言語理解」というスキルが追加されている。どうやら先ほどレイスの言っていることが理解できたのは、このスキルの効果によるものだったようである。


紬はカオルから貰ってきたMPポーションを飲みながら、もう一つ新しく手に入れたスキル、「穴生成ホール・クリエイト」の説明を読んでいた。



「穴生成」

効果:地面に深さ30cmほどの小さな穴を瞬時に作り出す。掘った部分の土などの地面はインベントリに回収される。

クールタイム:0秒



「えっ?強くね?」


紬はスキルの説明に書かれている内容を読んで、心を弾ませた。

何度も、何度も読み直し、自分の考えていることが実行できるのか確認する。できることを確認すると、紬は突然笑い出し、ウィンドウを閉じた。


「穴生成」


紬が指定した場所に小さな穴ができ、インベントリには「腐食された板」と「粘土」が10個ずつ入った。インベントリから試しに一個粘土を取り出すと、手で一掴みしたぐらいの量、50gほどが手の上に取り出された。


「やっぱり!!このスキルがあれば、畑とか建材とかが手に入るぞ!これはでかい!」


紬は一人で大声で騒ぎ、小さくガッツポーズをした。


「そうだった、三階目指さないと」


紬は我に帰ったように顔をあげ、インベントリに粘土を再びしまった。

一階は今いるホールから東西に廊下が伸びており、部屋が連なっている。ホールには二階や三階に繋がる階段がある。目的は三階に行くことだから、一階を探索する必要はあまりない。


紬は階段を上り、二階に足を踏み入れた。


二階と三階も似たような構造になっているのだろう。一階で見たように東西に廊下が伸び、部屋がずらりと連なっている。階段はそのまま三階にも繋がっているため、このまま上れば三階に行くことができる。何か仕掛けがありそうなものの、とりあえず三階の電気がついていた部屋に向かうことにした。


三階に着くと、電気のついていた部屋のある東の廊下を進んでいく。

電気の灯りは廊下にも漏れ出ており、そこだけ異様に明るい。


紬は目的の部屋のドアノブに手をかけた。


ズドオオォォォォオオン!!


ドアノブに触れた瞬間、大きな音を立て雷が屋敷に落ちた。

木造の屋敷は雷によって着火し、天井から炎が少しずつ広がっていく。不幸中の幸いか、紬のいる東の廊下とは反対の西の廊下に落ちたため、まだ紬のいるところまで炎が来るまでは少し時間がある。


紬は急いでドアノブを回し、部屋の中に入った。


「た…す…け…て……」


その部屋の中には、電気の鎖によって身を拘束されたレイスの姿があった。

その他には家具なども一つもなく、ただそのレイスがいるだけだった。


「今助けるからね!」

「そうはさせないぞ」


紬がレイスに近寄ろうとすると、紬とレイスの間に突如、一体のゴースト型のモンスターが立ちはだかった。


このモンスターはレイスの上位種、レイスロード。

レイスとは違い高い知能を持ち、周囲の死霊を操る。物理攻撃は一切効かず、魔法攻撃にも高い耐性を持っている。それだけでなく、レイスロードはそれぞれ持っている杖に応じて使ってくる魔法も属性も違う。対策も討伐も難しい、このゲーム駆使の強敵だった。


「なるほど……さっきの雷はこいつのせいか」

「ふっ、だからどうした?貴様は私に勝つことはできない。私の雷魔法は全てを凌駕し、全てを破壊する。他のレイスロードと比べるでないぞ?私はさらに高貴な存在だ」


紬はレイスロードと目を合わせながら、こっそりと火炎放射を放つ準備を進める。

もちろん話など聞いていない。だが、レイスロードは聞いてくれていると思って気分をよくしていた。


「なかなか貴様は勉強熱心だな。面白い。ここまで私の話を熱心に聞いてくれたのは初めてだ。褒美に一撃で葬ってやろう」


レイスロードは右手に持っている杖を空高く掲げた。

杖は次第に雷を纏っていき、大きな雷の球を形成しようとしていた。


「火炎放射!」

「雷砲」


紬の放つ炎とレイスロードの放った雷の球は二人の間で衝突した。

火炎放射によって雷の球は勢いを落とし、小さくなっていった。だが、それだけだった。雷砲は火炎放射を突破し、紬に当たった。


「っ……!!」


ウィンドウを開き、HPの欄を確認すると満タンだったHPは18まで減少し、HPゲージは危険を示す赤色を示していた。


「言っただろう?貴様では私に勝つことなどできない。一度耐えただけでも賞賛に値するだろう。褒めてやろうじゃないか。だが、貴様はそれだけだ。私に1ダメージも与えることなく、貴様は死ぬ。残念だったな」


レイスロードは「滑稽、滑稽」と言って、大きな声で笑った。


「まだ負けてない」

「ん?まだ何かあるというのか?貴様には無理……」

「穴生成」


レイスロードが話しているのを遮るように、紬はレイスロードの足元に穴を作り出した。ここは三階。さらに床は腐食している。30cmも穴を開けることができれば、二階に落とすことは容易だった。


「貴様ッ!」

「こっからだ……!」


レイスロードはレイスとは違い、宙には浮いていない。しかし、多くの魔力を使うため、長い時間は飛べないが、レイスロードは浮かび上がることができる。そのため、紬が作り出した時間はほんの一瞬だった。


「あまり私を舐めるでないぞ!」


レイスロードが再び三階に上がって魔法を放とうとしたその時、


「穴生成」


紬はレイスの下に穴を作り出した。

レイスは紬の意図を読み取り、実体を作り出し、重力に従って二階に落下していく。紬もその穴に飛び込んだ。


ズドオオオォォォォオオン!!


レイスロードのはなった雷魔法によって、三階は倒壊し、天井が紬たちの元に落ちてくる。そして部屋に覆い被さっていた埃が大きく空気中に舞い上がった。


「今!」


紬は隠密のスキルを発動し、窓から屋敷の外へと飛び出した。


「はっ!しまった!貴様ッ、狙いはそれかッ!!」


レイスロードは声を荒げて、屋敷から遠ざかるように走っていく紬を目掛けて叫んだ。


「レイス!逃げるよ!」

「ヒュルッ!」


レイスがなぜ逃げられたのか。

それは、レイスロードのMPが切れたからである。あの、雷の鎖はレイスロードのMPを継続的に使用することで作り出されており、レイスロードのMPが切れれば鎖はなくなる。


紬はそれを信じ行動した。確証はない。ただ予想。

紬はその細い勝ち筋を通したのだ。


「まだ貴様の勝ちではないぞ!私のMPは回復する!貴様が逃げ切るのが先か、私が魔法を放つのが先か、勝負というわけだ!」

「なんか言ってるけど無視無視」


レイスロードに構わず、ただがむしゃらに走り続ける。

レイスも実体を無くし再び浮いているため、紬の走るスピードについていけている。


「見えた!レイス、あそこがゴールだ!」


ミッションである、「ゴーストを救出せよ」が達成されたことで、この空間から脱出する転移陣が現れていた。


「いくぞっ!」


紬とレイスは勢いよく転移陣に飛び込んだ。


「負けたぁぁぁぁあぁぁ!!」


レイスロードは転移していく紬を見て声を上げて叫んだ。

その声は先ほどまでの貫禄のある声ではなく、幼い高い声だった。

みなさん、こんにちは。ユルヤカです。

更新が2ヶ月ぶりということで、今回は4500文字の長めでお送りしました。


この度、ユルヤカは中学を卒業しました!

今日(3月13日)に卒業して、まだ離れ離れになるのが悲しくて泣きそうになってしまいます。4月からは高校生というわけで、緊張と楽しみが入り混じった心持ちです。更新できていなかったのは高校受験と卒業前だったからです。申し訳ないです。これからは、前通り2日に1回投稿ができたらいいな、と思っています。


よかったらコメントで高校生活のコツや楽しかったことを教えてくれると嬉しいです!もちろん、小説のコメントもしてくれると嬉しいです!


最後まで読んでいただきありがとうございましたー!


(次回、0050は、3/15の18:15に更新予定です。)

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― 新着の感想 ―
中学校卒業おめでとうございます 続きを楽しみにゆっくり待ってまーす^_^
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