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第22話:丘の民と枝の民


「アンタ、何を食べてるんだい?」


 トロル族の女戦士が不思議そうな顔で言った。

 彼女の手には、温かいお茶のカップが二つ。

 海水に浸かって体を冷やしてしまったライトへの気遣いなのだろう。

 濃い目に煮出したミルクティーに、スパイスらしき粉がふりかけられている。

 トロル族の体格に合わせたサイズの大きなカップだ。

 ライトはカップを受け取りながら、女戦士の質問に答えた。


「これは、ローレライ・シェルのビスケット」

「ローレライ・シェル?

 アンタ、どこの丘の出身だい。そんな珍妙なモンを食べてるなんて」


 女戦士が不思議そうな顔をする。

 ローレライ・シェルは、川で獲れる魔法生物だ。

 シェルと名前に付く通り、貝殻に似た外見をしている。身は無く、鮮やかなキツネ色の殻だけで、粉にして食べる。


 ──普通の貝殻は、成分がまるで違うため、間違ってもローレライ・シェルの代用品にしてはいけない。

 材料が無いときは小麦粉を使え、とライトの父がよく言っていた。


「ボクの故郷では、ありふれた食材なんだがな」


 ライトは手元のビスケットを眺めた。

 ところ変われば文化も変わる、ということか。

 ライトの顔を見る女戦士の視線が、興味深そうな色を帯びる。

 目の前の冒険者について、もっと知りたいと思ったようだ。


「そう言えば、名前もまだ聞いちゃいなかったね。

 アタシはボディルビョルグ。アンタの名前は?」

「ライト・ポーラシュタリア=スティアート」

「長いね。なんて呼んだら良い?」

「ライトで頼む。そっちの略称は?」

「アタシはボディル。よろしくね、ライト!」


 女戦士がニカッと笑う。

 ライトは頷きを返し、彼女が持ってきてくれたミルクティーに口をつけた。

 甘いミルクの味わいに、何かのスパイスの香りがついている。クセは無く、喉ごしも軽やかで飲みやすい。

 ライトはほうっと息を吐く。温かさが身に染み入る。


「美味いな、このお茶」

「ゆっくり飲みなよ。スパイスが体を温めてくれるからね」


 ボディルが自分のカップに口をつける。

 ライトは温かいお茶を飲みながら、ビスケットを食べ進めた。

 ライトの隣で、魔力を補給していた微精霊のプラムが、ふよふよとリュックの中へ戻っていく。

 食事はもう十分らしい。プラムはリュックの内ポケットに潜り込んで昼寝を始めた。

 使い魔として育てているが、プラムは本当に自由気ままなのんびり屋さんだ。

 手は掛かるものの、それが微笑ましくもある。

 ライトはビスケットを咥えて、空いた片手でプラムの魔石を片付けた。


 ボディルは、ライトの顔色を確かめるような視線を向けている。

 海水を浴びたことによるライトの震えは、収まっていた。

 ミルクティーを飲み終えたら、すぐにでも出発してくれるだろうか。

 ライトはビスケットを食べる速度を少し上げた。

 日持ちさせるため二度焼きした堅い生地を、甘いミルクティーで流し込む。


「ごちそうさま」

「はい、お粗末様。体は温まったかい?」

「ああ。もう十分だ」


 ライトは空になったカップをボディルに返した。

 早く妖精を探しに行きたい。

 ライトの頭はそれでいっぱいだ。

 ライトはリュックを背負い直して、立ち上がる。


「行くぞ、ボディル」

「あいよ。いま、ハンマーを呼び戻すから、ちょいとお待ちよ」


 ボディルが窓を開けて、指笛を吹いた。

 ピュイ、と軽やかな音が鳴る。

 すると、村の外れから銀のハンマーが飛んできた。


「どういう魔法だ?」

「ちょっとした防犯魔術だよ。もともとは、宝箱なんかが箱ごと盗まれちまった時に役立つモンでさ。

 持ち主のところへ帰ってくるようにしてるんだ」

「へぇ⋯⋯。『トロル族は財宝の守護に余念が無い』って伝承は本当なんだな」


 ライトは初めて見る魔法に感心した。

 ⋯⋯が、彼の興味はすぐに妖精へと戻る。

 こんなところで、どうでも雑談なんてしてないで、妖精探しに出掛けたい。


「ここでやることはもう無いな? さっさと西の坑道に向かおう」

「はいはい。それじゃあ、向かうとするかね。はぐれないよう着いといで」


 二人はボディルの家を出て、妖精の出る場所へ向かって歩き始めた。

 村の外には、あの燃えているヴォーパルバニーの姿は無い。

 置き去りにした船の周辺を、まだうろついているのだろうか?

 ライトは背後からの襲撃を警戒しながら、偵察術を起動した。


「⋯⋯んん? 島のこっち側、地面の下で何か動いてるな?」


 あまり危険そうな気配ではないが、棒状に伸びた魔力の線があるのをライトは感じ取る。

 地下水脈にも似ている反応。しかし、まるで生き物のように地面の中を移動している。

 うねりを帯びた謎の塊に、ライトは眉を潜めて悩んだ。

 初めて接した感覚だ。正体がイマイチ掴めない。

 そんなライトの様子を見て、ボディルが明るく笑い飛ばした。


「何をそんなに不思議がっているんだい!

 この辺りで地下にいるものって言ったら、オイルワームに決まってるだろ!」

「ああ。確か、燃料の元になるって言ってた魔物か。魔兎のせいで採れなくなってるって話の⋯⋯」

「そうそう! あのムシ連中、すっかり怯えちまってねぇ!

 深いところに潜ったっきり、出てこなくなっちまったのさ!」


 ボディルが肩を竦める。

 ライトは「ふーん、そうなんだ」と雑な相槌を打った。

 オイルワームは、人間界では聞いたことのない生き物だ。

 恐らくはミニクラーケンのような、魔界でなければ育たないタイプの種族なのだろう。

 ライトが上手く看破できないのも仕方ない。

 ライトは地中に横たわる丸太のような存在を偵察術で観察しながら、ボディルに訊いた。


「オイルワームには、妖精さんは寄ってくるのか?」

「来る来る! 山のように来るよ!

 オイルワームは魔力の匂いが濃いからねぇ! よく鼻先に乗っかってるよ!」

「へぇ⋯⋯。それは是非とも見てみたいな⋯⋯!」


 ライトはワクワクしてきた。

 自然と歩くスピードが上がってしまう。

 魔界ならではの、まだ見たことのない妖精がいるかもしれないと思うと、テンションが上がる。


 坑道の入口はもう目の前だ。

 侵入者を拒むための大きな扉が聳え立っている。

 ⋯⋯が、その錠前は鋭い刃物で一刀両断にされていた。

 鋼鉄のパーツは、断面が融解して歪んでいる。

 あの燃える魔兎の仕業なのだろう。

 ボディルは扉を押し開けて、採掘作業の準備エリアへとライトを通した。


「中にはウサギがいっぱいだから、アンタは鈴振りをお願いするね」


 ボディルが壁に掛けてある杖をライトへと渡す。

 先端が丸い輪っかになっていて、いくつもの鈴がぶら下がっている杖だ。

 少し動かしただけでもガラガラとうるさい。

 これだけやかましいのなら、近づいてきたウサギの動きも鈍るだろう。

 ライトが顔をしかめると、ボディルは笑いながらイヤーマフを差し出した。

 鈴と一緒に置いてあったものだ。ヴォーパルバニーの毛皮で作られているらしく、柔らかな耳当てがライトを騒音から守る。

 冒険中に周囲の音が聞こえないのは、思わぬ事故に繋がってしまう危険もあるが⋯⋯。

 危機察知の魔法を小まめに使えば大丈夫だろう。


 ボディルの手が、親指を立てた握り拳を作って、ぐいっと坑道の奥を指した。

「行くぞ」と合図するハンドサイン。

 ライトは頷いて、彼女の後に続いた。

 イヤーマフで軽減された鈴の音が耳に聞こえる。


「ボディルは耳栓をしなくても大丈夫なのか?」


 ライトは気になって尋ねてみた。

 ボディルは、何か言葉を返す。

 防音状態にあるせいで、何を言われたのか、ライトにはよく聞こえなかった。

 ⋯⋯まあ、何か不都合なことがあれば、ボディルが自分で解決するだろう。

 見たところ、ボディルが困っているような素振りも無いし、表情だってにこやかだ。

 過度な心配は不要と判じて、ライトは手元の鈴を振った。


 坑道の中は、トロル族でも悠々と通れるくらいに道が広い。

 壁には一定間隔に、光る石が突き刺してある。

 足下は外の大地と同じく、硬そうな石だ。

 魔力によって砂粒が強固に結びつき、分厚い岩盤を生成している。実に魔界らしい地形。

 地下へと降りていく緩やかな坂道には、滑り止めとなる丸い模様が掘り込まれていた。


 ライトは妖精の姿を探して、きょろきょろと辺りを見回しながら進んでいく。

 どれだけ歩いても、妖精はいない。

 けれどもそれで、ワクワク感が簡単に衰えるようなライトではない。

 ライトは、この島の中にどんな妖精がいるのかと考えるだけでも胸が踊った。

 期待はどんどん膨らんで、悲観が生まれる隙など無い。

 いつか必ず会えるだろう、と確信めいた気持ちばかりがライトの心の中にはあった。


 奥へ、奥へ、と進んだところで、ボディルが立ち止まるようにジェスチャーをする。

 ライトは足を止め、彼女を見上げる。

 ボディルの指先は、坑道に現れた横穴を指して、何かを伝えようとしていた。


「そっちの道がどうかしたのか?」

「*********」

「あー⋯⋯。うん。わからん。何?」

「***、*、***。**、***」


 ボディルが両手の手のひらを頭の上に立てて、指先をまとめてピコピコ動かす。


「⋯⋯ウサギ?」

「**!」


 正解だったらしく、ボディルが笑顔で頷いた。

 ライトはボディルが伝えようとした言葉を推測して、会話のボールを投げ返す。


「ヴォーパルバニーの気配は、その穴の中からはしてないぞ。

 気配があるのは、こっちの壁の奥にある空洞」

「****?」


 ボディルが不可解そうな表情を浮かべた。

 彼女は、ライトが指差した壁をまじまじと見つめる。

 まるで、この先に部屋があるなんて聞いたことがない、とでも言いたげな様子だ。

 ボディルはライトのほうを見ながら、壁をコツコツと叩いて、再びウサギのジェスチャーをした。

 今度は、首を傾げる動きと、指でいくつかの数字を切り替えるような仕草がその後に続く。


「えーと⋯⋯、ウサギの数?」


 ライトの質問に、ボディルが頷いて肯定を示す。


「そんなには多くない⋯⋯、いても五体くらいだと思うけど⋯⋯。正確な数を調べるから、ちょっと待ってくれ」


 ライトは地面に杖を置いて、その場にしゃがんだ。

 手を組んで、神に祈りを捧げる。

 ライトの扱う魔法はどれも、天界の神々から力を借りて奇跡を起こす神聖術だ。

 真面目に祈るほど精度が上がる。

 守っている戒律の数が桁違いである本職の神官に比べれば、その効果範囲は限定的だが⋯⋯。

 それでも、偵察者としての役目を果たせる程度には使える。

 ライトは意識を集中し、聖句を唱えた。

 魔力の風が吹き、普段よりも詳細に、周囲の現状が伝わってくる。


「⋯⋯ヴォーパルバニーは全部で三体。この壁の裏側で、横並びにくっついて座ってる。変異種はいない。

 壁の中に炎の魔力を感じるから、出入りする時は壁を切り刻んで壊し、島の魔力で破片を再接着することで空間を隠してたんだろう」


 情報を聞き、ボディルが改めて壁を見つめた。

 やがて、ボディルは何かを決めたように頷く。

 トロル族の大きな手がライトの耳当てを外した。

 ジェスチャーだけでは伝えきれない言葉が、ライトの鼓膜に届けられる。


「坑道探検は一旦止めて、少し寄り道をしてもいいかい?

 ここの壁をぶち壊して、中身を確かめておきたいんだ」

「自分から喧嘩を売りに行くのか?」

「だって、なんかきな臭いからね。ヴォーパルバニーは本来、知性なんて無い魔獣さ。

 あの変異種も、闇雲に襲いかかってくるばっかりで、巣穴を隠すなんて芸当が出来るなんて思えない。

 もしかしたら、アタシらの金山を奪おうとしている悪人がバックにいるのかもしれないだろ?」


 ボディルがニイッと歯を剥き出しにして笑う。

 絵本に出てくる魔族みたいな、なんとも悪どい笑い方だ。

 ライトは彼女の言葉を聞いて、渋い顔になる。

 ライトからすれば、変異種の知能が優れているのは別におかしなことではない。

 ライトが日頃から接している海霊族の変異種も、精霊学者を自称しているほど、勉学には熱心だ。

 しかし、トロル族のボディルにとっては、とにかく盗人への警戒が先に立ってしまうものらしい。

 ライトは溜め息を吐いた。


「陰謀の対処は後にしろよ。ボクは妖精を探しに来たんだ。

 護衛の仕事を放り出されるのは困る」

「放り出すなんて人聞きが悪いね。ちょっと調べたら、すぐに戻るさ。

 冒険の途中で、花を摘みに行くようなものだよ。

 そのくらいの自由時間はあって良いだろ?」


 ボディルはライトを言いくるめようとしてくる。

 進路変更の提案を取り下げるつもりは無いようだ。

 頑なな態度に、ライトはムッとした顔で応じた。


「この壁の向こうに、ヴォーパルバニー以外の反応は無かった。盗賊なんてものは居ない」

「だとしてもだよ。ダブルチェックは防犯の基本さ。

 アンタの透視が間違ってないか、肉眼で目視しないとね」

「ボクの魔法は透視じゃなくて、現状を把握する基礎占術だ」

「はいはい、キソセンジュツね。ごめんよ。

 でもね、こんなつまらない会話に時間を費やしてたら、予定はどんどん後ろ倒しになっちまう。

 悪いが、勝手にやらせてもらうよ」


 ボディルがハンマーを構える。

 なんともデジャヴだ。この坑道へ来る前にも、彼女の強引な態度でライトの意向が潰されていた。

 ライトは頬を膨らませる。実に不服だ。何度も蔑ろにされている。

 ⋯⋯だからと言って、殴り合いの喧嘩をするわけにも行かないのが、また腹立たしい。

 ライトの不機嫌そうな表情には、ボディルはまるで気づいていない。

 彼女は怪しい壁を睨み付け、己の武器を振り上げる。

 銀色の巨大なハンマーが、岩壁に向かって叩きつけられた。


「そぉら!」


 ドォン!と爆音が響く。

 硬い壁が粉々に砕けて、トロルでも通れる大穴が空いた。

 壁の向こう側にいたヴォーパルバニーは衝撃波が直撃し、目を回して倒れている。

 ライトの体に、本能的な寒気が走った。

 ⋯⋯トロル族の怪力、怖い。

 もしも本気で殴り合ったら、小柄なライトなど一撃でペチャンコだ。


「ふんっ! こんなところに隠し部屋なんか作ったって無駄なんだよ!

 さあ、出てきな!」


 ボディルは勇ましく言いながら、ズカズカと隠し部屋に入っていく。

 ライトは腰の短剣に手を添えて、周囲の様子を探り直した。

 怪しい魔力の反応は無い。

 盗賊なんて、当然いない。


「留守か。面白くないねぇ」


 ボディルが部屋の中を見回しながら言う。

 しかし、ライトは見逃さなかった。

 隠し部屋の天井付近。キラリと輝いた黄金の塊。

 一目見ただけでテンションが上がる、何より素敵なお宝の姿。


「──妖精さんだ!」


 ライトはダッシュで駆け寄って、目を輝かせながら妖精を見上げた。

 他の場所で見掛けた妖精とは違い、ここの個体は金タワシのようなボソボソとした質感をしている。

 毛玉の範疇ではあるが、触ったら硬そうで、興味深い。

 こんな外見になる妖精さんは初めてだ。

 ライトは精一杯背伸びして顔を近づけ、食い入るように妖精を見つめる。


「じっとしてて動かないな⋯⋯。壁から魔力を集めてるのかな⋯⋯?

 うーん⋯⋯暗くてよく見えない⋯⋯。距離もあるし⋯⋯もっと近くで見たいなぁ⋯⋯」


 隠し部屋の天井がやたらと高くなっているせいで、細かい部分がよく見えない。

 ライトは壁のくぼみに手を掛けて、登れないか試してみた。

 つるり、と指先が滑る。壁を登ることは出来なさそうだ。

 ライトはトロル族の大柄な体を見た。


「ボディル、ちょっとここに来て、踏み台になってくれないか?」

「あの妖精を捕まえたいのかい?

 そんなのアタシが⋯⋯、いや。人間はこういうことを自分で出来ないと嫌がるんだっけか」


 ボディルが膝を直角に立ててしゃがむ。

 丸太のように太い脚だ。片足だけでも十分に幅が広くて、安定感がある。


「ほら、乗りな」

「ああ」


 ライトは土足のまま、彼女の太ももの上に登ろうとした。

 ⋯⋯登れなかった。足をめいっぱい伸ばしてみたが、ギリギリ段上に届かない。

 ボディルが気を利かせて、手のひらで段差を増やしてくれる。


「⋯⋯お前、人間の扱いに慣れてるな」

「昔に聞いた遣り方をそのまま真似してみただけさ。

 どれ、高さは足りてるかい?」

「うん。丁度いい。そのまま暫く動かないでくれ」


 ライトはボディルの膝の上に登る。

 影になっている天井の隅に、魔法で灯した光の玉を近づけてやれば、妖精の姿がハッキリ見えた。

 ライトは金色の妖精をじっくりと眺めて、目に焼き付ける。

 妖精とは、いつでも会えるわけではないので、満足できるまでいつまでもライトは凝視し続ける。

 今を逃せば、次に会えるのはいつになるか、わからないから。

 一期一会のこの瞬間をライトはとても大事にしていた。


「随分と熱心に見つめるんだね」

「⋯⋯やっぱり、魔力解析だと見えないな。

 環境魔力から生まれるんだから、背景と同じ色になっちゃって、埋没するのはここでも同じか⋯⋯」

「アタシの声も聞こえないほどかい。よっぽど妖精が好きなんだねぇ」


 ボディルも金色の妖精を見る。

 ライトは研究者のように、偵察術での分析と肉眼での観察を切り替えながら、妖精の姿を凝視していた。

 同じ属性の魔力が固まって生まれる妖精たちは、ライトの使える魔法では存在自体を感知しにくい。

 ライトの目の前にいるこの妖精も、ボディルが隠し部屋に入ろうと言い出さなければ、見つけることは出来なかっただろう。

 踏み台にもなってもらって、お礼のひとつでも言うべき場面のはずなのだが⋯⋯、ライトは妖精観察に夢中だ。


「それにしても、綺麗な色だな。こういう見た目の妖精さんは、ボクも初めてだ⋯⋯。

 家に帰ったら、ホタルさんにもいっぱい話してあげないと⋯⋯」


 ライトは妖精を見つめながら呟いた。

 博識なホタルのことだから、金たわしのような形のこの妖精も、見たことがあるかもしれないが⋯⋯。

 それでもライトは、自分の小さな冒険を彼女に共有したいと思った。


 ⋯⋯けれど、彼の意識の揺らぎは、それだけだ。

 ボディルへの感謝の気持ちどころか、周囲の警戒心すらも、ライト頭の中には無い。

 あるのは、自分の好きなものへの関心ばかり。

 ここは決して、安全な家の中では無いと言うのに。

 ライトは呑気に、妖精さんを観察している。

 坑道の隠し部屋へと近づいてくる怪物の気配など、誰も気づいてはいなかった。




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