99 小さな舞台の上で。スポットライトを浴びながら。 ……かげろう。……あなたにあえて、本当によかった。
小さな舞台の上で。スポットライトを浴びながら。
……かげろう。……あなたにあえて、本当によかった。
まめまきはゆっくりと、とても優しい声で、(まるで、お母さんみたいに)かげろうに語り掛ける。
「きっとさ、……愛って、居場所のことなんだと思うんだ」
「居場所? ……ですか?」
首をかしげて、かげろうは言う。
「そう。居場所。『自分がここにいてもいいんだって、本当に心から思える場所のこと』。私はそう思うんだ。ね、……かげろうはそう思わない?」
まめまきはそう言って、にっこりと嬉しそうに笑って、かげろうの顔を見た。
かげろうはじっと真剣な瞳をして、(なんだかちょっとだけ、笑ってしまいそうになるくらい真剣だった)まめまきの顔を見ている。
「愛にはたくさんの、それこそこの世界に生きている人の数だけ、そのさまざまな答えがあると思うの。(色のグラデーションの輪みたいに)その同じ人の中でさえも、生きていく中で、その答えは変化するんだと思う。でもね、かげろう。今、私はさ、愛は居場所なんだって思うんだ。自分の居場所がある人は、……幸せだよね? かげろう」とまめまきは言った。
「……はい。僕もそう思います」
とにっこりと笑ってかげろうは言った。
「うん。よかった」とまめまきは言った。
そのときにうれしそうな顔で笑った(かげろうと同い年くらいの、小さな女の子の)子供みたいなまめまきの顔は、……なんだか、とっても、……本当にきらきらと輝いてかげろうにはみえた。
その胡桃まめまきの美しい顔が、『浮雲かげろうが最後に見た、この世界の風景』だった。
かげろうに異変がおこったのは、それからすぐのことだった。
ひかりちゃんとつばさちゃんのいる天の川銀河の駅の地下にある秘密のホームに向かおうとしたとき、きゅうにかげろうはその動きをぴたりと止めた。
その止まりかたは明らかに異常だった。まるでかげろうの体を動かしていた電池が(このタイミングで、からっぽになったように)なくなってしまったかのように、あるいはかげろうの時間だけがそのときに(砂時計の砂が落ち切ってしまったみたいに)止まってしまったかのように、ぴたりとかげろうはその動きをとめた。
そのかげろうの異変にまめまきはすぐに気が付いた。
「……かげろう?」
そのまめまきの言葉はもうかげろうには届いてはいなかった。
「かげろう!!!」
まめまきはかげろうの小さな体をつかみながら、体を大きく揺らして、大きな声で耳元で叫んだ。……、でも、かげろうはなんの反応もしなかった。(綺麗な瞳も開いたままで止まっていた。その瞳の中には、いつものように星は輝いていなかった)
……、かげろうは、かげろうは、……あの真面目で優しい男の子は、……もう『ここにはいない』のだ。その残酷な現実が、ひまわりの幽霊ホロウの研究をずっと追っていたまめまきにはすぐに(理解したくなかったのに……、)理解できた。(できてしまった)
「……、かげろう」
まめまきは(いつの間にか)その目から涙を流している。その大きな猫に似た目から、白い眼帯をしている目からも、たくさんの涙を流している。
「……、……かげろう、……、かげろう!!」
嗚咽しながら、いくら名前を呼んでもかげろうは返事をしない。かげろうはその小さな体が石になってしまったかのように、あるいは壊れてしまったおもちゃのように、……(指先すら)ぴくりとも動かない。(まばたきも、ずっと、していない)
まめまきはかげろうの体を(小さく、ふるえる体で)抱きしめようとした。……でも、そんな力はでなかった。まめまきはずるずると、かげろうの体からずり落ちるようにして、へたんと地面の上に(女の子座りで)座り込んでしまった。
『まめまき。残念ですが、幽霊ホロウの男の子、浮雲かげろうは機能を停止しています。もう二度と、動き出すことはないでしょう』と(冷静な声で)みちびきが言った。
そんなこと言われなくてもわかってる!! ちょっと黙っていて!!
とみちびきに(大声で、怒った声で)言いたかったのだけど、言葉にはならかなった。
まめまきの頭の中は、ぐちゃぐちゃになっていた。
……もうなにも、考えられないくらいに、……ぐちゃぐちゃのめちゃくちゃだった。(まめまきはそれから、なにもかもを忘れて、子供みたいに泣き叫んだ。みちびきは沈黙していた。泣き止むようにともいわなかった)
わたしは、そのとき、あなたの前で、捨てられた猫みたいななさけない顔をしていた。(ひげもしおれていたし、毛並みも全部、ぼろぼろだった)
小休止
物語とは、死者と語ることである。
正しさと真実は違うもの。正しさは嘘。真実は本当。正しさは神様のことであり、人類の知恵のことである。真実とは獣のことであり、人間の本当の姿のことである。正しさとは嘘の天国であり、真実とは本当の地獄のことである。だから、私たちは正しさを選ぶ。人は獣に戻ってはいけないのだ。神様を忘れてはいけないのだ。
旅立ち
あなたは星に向かって、夜の空を白い二つの小さな翼で羽ばたいて(少し危なっかしそうに)飛んでいる。雲を越えて。遠い天国まで。星の中を飛んでいく。たった一人で。頑張って、飛んで。この地上から、旅立っていく。
(そして物語はクライマックスへ)




