97 愛とはきちんと愛している人に、愛していると伝えることである。
愛とはきちんと愛している人に、愛していると伝えることである。
とっても怖いお仕置きを想像してください、とひまわりお母さんは言った。
その話を聞いて、かげろうは自分の頭にごつごつした洗脳器具をつけられて、お仕置き用の電気椅子に拘束された自分の姿を想像して、ぶるぶると震えた。
……それは本当に、とても怖い想像だった。(びりびりとする電気椅子の痛みを思い出して、泣きだしそうになってしまった)
想像。イメージが人を壊す。あるいは人を拘束する。
そんな言葉を(……きっと、教育で受けたのだろう)実際に受けることになった電気椅子の上に拘束されて受けるとても強い青白い電気を放つ激しい電気ショックの中で、かげろうは思い出した。
ひまわりお母さんのお仕置きは随分と長い間、続いた。
……何時間も、何時間も続いた。
その間、かげろうは考えていた。
自分のこと。今までにひまわりお母さんに捨てられてしまったたくさんの幽霊ホロウのみんなのこと。(会ったこともない仲間たちのこと)ひまわりお母さんのこと。教育で教えてもらっただけの、まだ一度も見たこともない地上に広がっている大きな美しい世界のこと。(ビューティフルワールド)窓の外で見つけた奇跡の一つの星の光のこと。そして……これから(僕が捨てられてしまって)ひとりぼっちになってしまう、ひかりちゃんのことを……。(かげろうの空想の中でひかりちゃんは泣いていた。泣かないで、ひかりちゃん)
いろんなこと、ずっと(苦しい痛みの中で)考えていた。
……やがて、かげろうの体から焦げ臭い匂いと一緒に白い湯気が上がり始めるころ、(……、それは本当に、かげろうの心と体が壊れてしまう、本当の本当に、ぎりぎりの一歩手前のところだった)ようやくひまわりお母さんのお仕置きは終わった。
「終わりました。もう部屋に帰ってもいいですよ。かげろう」
と、透き通る薄い布で顔を隠しているひまわりお母さんはかげろうに言う。
「……はい。お仕置き。ありがとうございました。……、ひまわりお母さん」
ぼろぼろのかげろうは電気椅子の上からひまわりお母さんに(かすれる声で)そう言った。
かげろうは電気椅子から立ち上がろうとした。
でも、手足が痺れてしまって、すごく痛くて痛くて、あんまりうまく動かせなくて、……、かげろうはそのまま冷たい床の上に崩れ落ちるようにして落っこちてしまった。
どさっという、鈍い音が部屋中に聞こえた。
かげろうは全身に痛みを感じた。
……、もう、あんまり、自由に動くこともできなかった。(かげろうはひまわりお母さんの顔を見る)でも、ひまわりお母さんはそんなかげろうをお仕置き部屋の中に一人、置き去りにして、お仕置き部屋から、かげろうのことを一度も見ないままで、幽霊ホロウのお城の中に張り巡らされているひまわりお母さん専用の秘密の抜け穴を通って、(お仕置き部屋の場合は、ひまわりお母さんが獅子の模様のある黄金の指輪をかざすと、壁に四角い穴が開いた)一人で出て行ってしまった。
かげろうは床に寝っ転がりながら、そんなひまわりお母さんの美しい後ろ姿(本当に美しかった)をじっと見えなくなるで見たあとで、……、ゆっくりと、もぞもぞと体を冷たい床の上でなんとか動かしながら、お仕置き部屋のドアのところまでたどり着いた。
それから長い時間をかけて、(ふらふらしながら)なんとかその入り口の扉を開けると、扉を開けるために、扉に体重を預けていたかげろうは、ごろんと転がり出るようにして、お仕置き部屋の外の床の上に飛び出した。
すると、「きゃ!?」と言う声が聞こえた。
見るとそこには友達の幽霊ホロウの女の子、水玉ひかりちゃんがいた。
「あ、だ、大丈夫!? かげろうちゃん!? ……、ひどい怪我。まってて! 今すぐに傷の手当てをするからね!」と、(かげろうの怪我の様子をみながら)早口でそう言って涙目のひかりちゃんは(あらかじめ用意していたのだろう)その手にもっていた四角い大きな救急箱をかげろうに見せた。
「……ありがとうございます。ひかりちゃん。……僕は、『もう』大丈夫です」とにっこりと笑って、(ひかりちゃんを安心させるように)かげろうは言った。それはかげろうの強がりの言葉ではなかった。本当のかげろうの真実の言葉だった。(かげろうは、自分のことを本当に心から大切にしてくれる幽霊ホロウの友達の水玉ひかりちゃんの顔を見ただけで、とても、とても、たくさんの勇気を、愛を、もらうことができたからだ)




