94 うねうねと動くなにかが(心の中に)いる。……、これは、わたしの中にいる怪物なのか?
うねうねと動くなにかが(心の中に)いる。……、これは、わたしの中にいる怪物なのか?
「私の名前はまめまき。胡桃まめまきっていうの。よろしくね」かげろうにその凍傷で真っ赤になった手を差し出してまめまきは言った。
『まめまき。あなたの手は凍傷を起こしています。もう、これ以上の幽霊ホロウの男の子、浮雲かげろうとの接触はいったん避けるべきです』とみちびきが言った。
「……みちびき。心配してくれて、どうもありがとう。でも、今は私に任せて」と小声でまめまきは言った。
『……、(沈黙)。OK。はい。わかりました、まめまき。それでは私は捕獲した幽霊ホロウの男の子、浮雲かげろうの名前と声、映像(姿、形)を『ゆりかご』のデータの中に記録しておきます。音声、映像ともに記録はすべて現在も収集中です』とみちびきは言った。(ゆりかごとはみちびきのデータベースのことだ)
そんなまめまきのまるで一人芝居のようなみちびきとの会話を、すぐ近くにいるかげろうは顔をななめにしながら、不思議そうな瞳を(ぱちぱちとまばたきをしながら)して見つめていた。
そんなかげろうを見て、まめまきはにっこりと笑うと、「次は君の名前を私に教えて」と言った。(ふふ。実はもう知っているけど)
「あ、は、はい。僕は浮雲かげろうって言います。幽霊ホロウです。男の子です。ロストチャイルドではありません。えっと、これから、よろしくお願いします。まめまきさん」
と、はっとしてから、まめまきの差し出した真っ赤な手を遠慮がちに触りながら、(まめまきの手が赤くなっているのが自分の冷たい体のせいだとかげろうはわかっていないようだった)ぺこりと大きく頭を下げてかげろうは言った。(背中になにか荷物を背負っていたら、たぶん落っこちていたと思う)
「浮雲かげろう。かげろう。それが君の名前なんだね。間違いないね」まめまきは言う。
「はい。僕は浮雲かげろうです。それが僕の名前です」と自信をもって、かげろうは言う。
「あなたは浮雲かげろうくんで、幽霊ホロウの男の子で、そして、ロストチャイルドではない」
「はい。そうです。僕は幽霊ホロウです。ロストチャイルドではありません」とかげろうは言う。
「よかった。ほっとした。かげろう。じつはね、私はこの幽霊ホロウの街で出会ったある可愛らしい幽霊ホロウの女の子に頼まれて、君のことを探していたんだよ」と(にやにやといやらしく笑いながら)いたずらっ子の顔をしてまめまきは言った。
すると、少しだけぽかんとした顔をしてから、かげろうは「……それは、もしかして、水玉ひかりちゃんのことですか?」と(驚いた顔をして)まめまきに言った。
「うん。そうだよ。かげろうの友達の幽霊ホロウの女の子。水玉ひかりちゃん。ひかりちゃんに頼まれて、私はかげろうを探していたんだ。星屑に隠れている、かげろうちゃんを助けてあげてくださいってね」とまめまきは言った。
それからまめまきはひかりちゃんやつばさちゃんと出会ったときのことや、ひまわりと会って、それから幽霊ホロウの街の中で、まめまきたちが今、どんな(危機的な)状況にいるのか、そして現在、幽霊ホロウの街で起こっていることを、(ロストチャイルドたちのお祭りのお話とか)なるべく簡潔な言葉でかげろうに伝えた。かげろうは(驚きながら)ずっと、すごく真剣な顔をして、まめまきの話を聞いていたのだけど、つばさちゃんのことをまめまきが話したときには、かげろうとひかりちゃんの二人以外いるはずがないと思っていたもう一人の幽霊ホロウの女の子がこの世界にいることを知って、今までで一番驚いた顔をした。
「かげろう。私と一緒にきて。時間はないの。突然で悪いと思うけど、今すぐにでもここから出発できる?」とまめまきがいうと、「はい。わかりました。すぐに出発できます」と(状況を理解して)かげろうはすぐにそう言った。(頭のいい子なのだ。それに勇気もある。えらいよ。かげろう)
まめまきはそれからすぐにかげろうと一緒にひかりちゃんとつばさちゃんのいる天の川銀河の駅の地下の秘密のホームまで戻ることにした。……、でも、まめまきと手をつないで歩いていたかげろうは、半分しかドアのない青色の電車の入り口から少し出たところで、ふと足を止めて、後ろを振り返った。
かげろうの秘密の隠れ家である捨てられている青色の電車の車両の中には、星屑に捨てられてから、かげろうの暮らしていた痕跡がたくさん残っている。ベットの上の白い毛布も起きたときのままになっているし、かげろうががらくたの山の中から見つけてきた変な形をしている、動くのかも、使いかたもよくわからないお宝もいっぱい置いたままになっている。……、そのぼろぼろの天井にも、傷だらけの壁にも、穴の開いた床にも、補修されたあとがある。(掃除だってきちんとされている)星屑から拾ってきたもので作った手作りのベットや(見つけたときにすごく嬉しかった)四角いテーブルや丸い椅子がある。この廃棄された青色の電車の車両の中にはたくさんのかげろうの思い出が詰まっている。……、なんだかとっても、(今まで見てきたとき以上に)きらきらと輝いて見える風景を、かげろうはじっと(綺麗な瞳で)見つめている。
「まめまきさん。最後に、この家に『さよなら』を言ってもいいですか?」とまめまきを見上げてかげろうは言った。
「もちろん。いいよ」と優しいお姉さんの顔で、まめまきは言った。
「さようなら。今まで本当にどうもありがとう」
とかげろうは自分の隠れ家に、ぺこりと(大きく、背中の荷物が落ちるくらいに)頭をさげながらお別れを言った。……、きっともう、僕はこの場所に二度と永遠に戻ってくることはないのだ。このずっとひとりぼっちで暮らしてきた、見慣れた風景を見ることも、今が最後なんだ、とかげろうは思った。
そんなかげろうを見ながら、優しい顔で微笑むと、「もう忘れ物はない?」とまめまきは言った。
「はい。大丈夫です。まめまきさん。忘れ物はありません。『大切なもの』はちゃんと全部もっています」と『ぼんやりと青白く光る小さなねじ』をしまってある、ぶかぶかな袖の大きめのフード付きの幽霊ホロウの白いコートのポケットをさわりながら、かげろうははっきりと言った。




