88 痛みは愛の本質である。(愛があるから痛いのである)
痛みは愛の本質である。(愛があるから痛いのである)
幽霊ホロウのお城にある大きな入り口の正門の前までたどり着くと、その大きな門は、かげろうがなんの動作をしなくても、いつものように勝手にその巨大な(悪魔の口みたいな)扉をゆっくりと開けてくれた。
そしてかげろうが大きな門を通って幽霊ホロウのお城の中に入ると、その大きな門は自動で勝手にかげろうの背後でがたんと閉じた。
かげろうはそのまま(歩きなれている)幽霊ホロウのお城の中をとことこと歩いて移動して、お城の大広間を通り抜けて、その先にある中央の階段をのぼって、通路を移動して、自分の部屋の前までやってきた。
自分の部屋の前まで来ると、そのかげろうの部屋の扉の反対側の壁のところに誰かが一人で、ぽつんと小さく丸くなって体育座りをしてうずくまっている風景が見えた。(部屋の前には七色のランプの灯りがあったけれど、その誰かの顔や姿はよくは見えなかった。だけど、かげろうにはそこにいるのが誰だかすぐにわかった)
かげろうが近づいてみると、……そこにいたのは、幽霊ホロウの友達である、水玉ひかりちゃんだった。
「……かげろうちゃん」
ひかりちゃんはかげろうの気配に気が付いてずっと伏せていた顔を上げて、戻ってきたかげろうの顔をみて、かすれるような涙声でそう言った。
ひかりちゃんは、……なぜか泣いていた。(幽霊ホロウのお城の外に出かける前にひかりちゃんにいってきますをしたときは、ひかりちゃんはいってらっしゃいを明るい笑顔でかげろうにしてくれた)
小さな体をぶるぶると震えさせながら、そのきらきらと光る星のある大きな幽霊ホロウの瞳から、ぽろぽろとたくさんの大粒の涙を溢れさせている。
そんなひかりちゃんを見て、かげろうは、……おそらくひかりちゃんは、ずっと、ずっと、顔をふせて、もともと小さい体をもっと小さくまるめるように体育座りをして、誰もいないかげろうの部屋の前の廊下の壁のところで、かげろうが自分の部屋に帰ってくることを待ちながら、……ひとりぼっちで泣いていたのだろうと思った。(それは、とても、とても悲しい時間だったはずだ)
かげろうはひかりちゃんの横の壁のところに、ひかりちゃんと同じようにゆっくりと体育座りをして座った。
ひかりちゃんは、泣きながら、ずっとその星のある大きな瞳で、そんなかげろうのことを目で追っていた。(それはひかりちゃんの癖だった)
「僕がいない間に、なにかとても悲しいことでもあったんですか? ひかりちゃん」と、なるべく明るい声で、にっこりと笑いながら、ゆっくりとしたはやさで、かげろうは泣いているひかりちゃんに笑ってほしくて、そう言った。(ひかりちゃんはそんなかげろうの優しい笑顔を、じっと涙で潤んだ瞳で、しばらくの間、無言のままで、見つめていた。二人の幽霊ホロウの子供たちはそうやって、少しの間、じっとお互いの顔をにらめっこでもするように見つめあっていた)




