83 いいよ。じゃあ、合言葉を言って。
いいよ。じゃあ、合言葉を言って。
とんとん、とかげろうの部屋の扉を叩く音が聞こえた。
その扉をたたく音を聞いて、かげろうは久しぶりにそのずっと真っ暗な空に向けていた視線を窓の外から部屋の中に戻した。かげろうはそっと(なるべく音をたてないようにして)窓を閉めた。
「……かげろうちゃん。もう起きてる?」
そんな小さくて綺麗な声が聞こえた。
「はい。もう起きてます」
かげろうは窓から離れると部屋の中をとことこと歩いて、扉のところまで移動すると、扉越しに声に(ないしょ話のような小さな声で)言った。
それはかげろうの幽霊ホロウの友達である幽霊ホロウの女の子、水玉ひかりの声だった。
それから、かげろうは鍵のかかっていない扉をゆっくりと(音をたてないように)開けた。……すると、そこには水玉ひかりがいた。
「おはよう。かげろうちゃん」
かげろうの顔をみて、うれしそうな顔でにっこりと笑ってひかりちゃんは言った。
「はい。おはようございます。ひかりちゃん」
と、ひかりちゃんと同じようににっこりと笑って、かげろうは言った。
水玉ひかりはいつものように白のフード付きの袖がぶかぶかの大きめのコートを着ている。(かげろうがきているものと同じ幽霊ホロウのコートだった)
肩までの金色の髪には、(うさぎの耳みたいな)白い大きめのりぼんをつけていた。
その背中には小さな真っ白なリュックサックを背負っている。(かげろうも同じものをもっている)
ひかりちゃんはひまわりお母さんのところに教育を受けに行く準備をもうしっかりと整えていた。
ひかりちゃんはいつも真面目で、教育にいく準備も早くて、きちんと起きて、遅刻なんかは絶対にしないのだけど、でも、まだずいぶんとひまわりお母さんのところにいくには早すぎると思った。(ひまわりお母さんからかげろうとひかりちゃんに声がかかるのは、まだ早いと思った)
「こんなに早くに、ひまわりお母さんのところにいく準備をして、ひかりちゃん。どうかしたんですか?」
と顔をななめにしながらかげろうは言った。
「うん。ちょっとかげろうちゃんに大切なお話があって、あの、部屋の中でお話をしてもいいかな?」
と(きょろきょろと薄暗い廊下を見渡してから)恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、その小さな体をもじもじさせて、ひかりちゃんは言った。
「はい。ひかりちゃん。もちろんいいですよ」
とかげろうは優しい声でそう言うと、「どうぞ、ひかりちゃん」と(自分の体を扉のところから動かして、ひかりちゃんに道をつくるようにして)言って、ひかりちゃんを自分の部屋の中に(正式に)案内した。
「……、あの、お邪魔します」
と消え去りそうな小さな声で(なんだか嬉しそうにして)そう言ってから、ひかりちゃんはかげろうの部屋の中にとことこと歩いてお邪魔をした。




