82 浮雲かげろう 愛は記憶である。
浮雲かげろう
愛は記憶である。
朝、寝ぼけた頭で起きると、かげろうの頭のねじが外れていた。(本当にびっくりした)
その運命の日、幽霊ホロウの男の子、浮雲かげろうがいつもよりも少し早くに自分の真っ白なふかふかのベットの中で目を覚ますと、白い大きな枕の上に『ぼんやりと青白く光る小さなねじ』が一つだけ落ちていた。(そんなことは、もちろん生まれてから今まで一度もなかったことだった)
そのぼんやりと青白く光る小さなねじを見て、かげろうはその小さなねじが自分の頭の中から『こぼれおちたねじ』だと思った。それはとても懐かしくて、ほんのりとあったかくて、すごく(持つてのひらの中に)しっくりときて、少し前までその『小さなねじが自分のどこかにあった自分の心の一部である』ことが、かげろうにはわかった。(本当にわかった)
かげろうはそのぼんやりと青白く光る小さなねじを小さな自分の手のひらの上に置いて、しばらくの間、じっと一人でみつめていた。
やがて、かげろうははっとして今のすごく大変な状況に気が付いた。(まだ少し寝起きで寝ぼけていたのかもしれない。あるいは、もしかしら今の風景は自分が見ている夢の中の風景だと思っていたのかもしれない)
「……ど、どうしましょう?」
かげろうはとても焦った。
もし、自分の頭の中から、心の一部分だった小さなねじがこぼれて落ちてしまったということがひまわりお母さんにばれてしまったら、……かげろうはきっと、(ほとんど間違いなく)この幽霊ホロウのお城から追放されてしまって、街のすみっこにあるゴミ捨て場の星屑にいらない子としてぽいっと(簡単に)捨てられてしまうだろう。
だからかげろうは、どうしてもこの『ぼんやりと青白く光る小さなねじ』をひまわりお母さんに見つからないように(どこかにうまく)隠さなくてはならなくなった。
「……とりあえず、コートのポケットの中に、隠しておきましょう」
かげろうは薄暗い闇の中で、(きょろきょろとねじを隠せそうなところを探したのだけど、全然見つからなくて)ぼんやりと青白く光る小さなねじをもったままベットから抜け出すと、自分の部屋の壁にかけてある真っ白な大きめのそでのフード付き幽霊ホロウのコートを着て、そのままコートのポケットの中にそっと小さなねじをしまい込んで隠した。
「……ふう。まあ、とりあえず今はこれでいいでしょうか? あとでどこか安全な隠し場所を見つけて、そこにねじを隠しておきましょう」
かげろうはそう言って、額の汗をそっとぶかぶかのコートの袖でぬぐった。
それからかげろうは自分の部屋にある丸い大きな鏡に自分の頭から足元まで、(幽霊ホロウの子供たちの部屋には必ず全身を映すことのできる丸い大きな鏡があった)全身の姿を映して、自分の形に変なところがないかどうかを一生懸命、確認した。黒色の髪の毛をあげて小さな額を見てみたり、お腹や背中やてのひらや足の裏とか、いろんなところを(へんてこな姿勢になりながら、頑張って鏡に映して)確認したけど、見たところ、どこにもおかしいところはなかった。(……ふー。よかった)
それを確認してから、安心したかげろうはなんとなく、ふと部屋の窓を開けて、いつも真っ暗な星と月のない空を見上げた。(真っ暗な空が見たくなったのだ)
その真っ暗な空を見ながら、……『もしこの真っ暗な空に奇跡が起こって星が輝いていたらどんなに素敵なことなんでしょう』、とかげろうは思った。
言葉や知識としてしかしらない、真っ暗な空の中にきらきらと輝く綺麗な本物の星を見ることは、かげろうのひまわりお母さんにも幽霊ホロウのたった一人の大切な友達にも秘密にしている夢だった。
それから少しして、かげろうの意識は現実に戻った。たとえどんなところにこの小さなねじを隠したとしても、いつまでもこの小さなねじをひまわりお母さんに隠し通すことはできないだろう。きっとすぐにばれてしまう。(ひまわりお母さんに隠しごとはできないから)そうしたら、僕はそのときに星屑に捨てられてしまうことになるだろう。
僕がどんなに嫌だといっても許してもらえない。
……それは近い未来に必ずかげろうの身に起こる起こる絶対のできごとだった。(とっても怖いひまわりお母さんは、そんなに甘くはないのだ)




