76 君は人間? ……それとも、ただの(四つ足で歩く裸の)獣なの?
君は人間? ……それとも、ただの(四つ足で歩く裸の)獣なの?
がおー、と言って、君は笑った。
「星屑に友達がいるんです」と(体育座りをしている)ひかりちゃんは言った。
「友達って、幽霊ホロウの友達? 幽霊ホロウはこの幽霊ホロウの街にひかりちゃんとつばさちゃんの二人だけなんじゃないの?」と(ストレッチのためにやっていた壁際での逆立ちをやめて、きちんと大地の上に立ってから)首をかしげてまめまきは言う。(まめまきの逆立ちの動きはとてもなめらかだった)
「いいえ。違います。『もう一人』います。男の子の幽霊ホロウの友達です。名前は『浮雲かげろう』ちゃんって言います。黒い髪の毛をしている、よく頑張りすぎて怪我をする、……とても優しくて強い男の子です」となんだかとってもうれしそうな顔で笑って、ひかりちゃんは言った。
……男の子の幽霊ホロウ。
浮雲かげろう。
……浮雲?
なんでかげろうにだけ、浮雲というひまわりと同じ浮雲の苗字が名前につけられているのだろう? とそんなことをまめまきは疑問に思った。そのことをひかりちゃんに聞いてみると、幽霊ホロウの名前をつけるのはひまわりお母さんで、かげろうちゃんの苗字がなんでひまわりお母さんと同じ浮雲なのかは、わからないということだった。(かげろう本人にも聞いたこともあるらしい。でも、かげろうもその理由を知らないようだった。ひかりちゃんの苗字がなぜ水玉なのか、ひかりちゃんが知らないように……。それからつばさちゃんに同じことを聞いてみたのだけど、答えはひかりちゃんと同じだった)
まめまきはひまわりとの会話を思い出す。(いざとなれば、みちびきが正常に動いていある間の会話はすべて録音しているので音声を再生することもできた)
ひまわりの話しぶりだと幽霊ホロウはひかりちゃん一人だけで、つばさちゃんが隠れて生きていたことに驚いていたって感じだったけどな……。幽霊ホロウはもうほかには誰もいないっていう感じだった、とひまわりのとの会話を思い出しながらまめまきは考える。
「ひまわりはかげろうのことを知っているの?」
「はい。もちろん知っていますよ。でもひまわりお母さんはかげろうちゃんはもういりません、って言って、ぽいって星屑に捨ててしまったんです」と(悲しそうな顔をしながら)ひかりちゃんは言った。
……なるほど。ひまわりにとって、かげろうはもうすてちゃったから幽霊ホロウじゃないってことなのか。つまりつばさちゃんと同じようにもう生きてはいないと思っているんだ。きっと。(そしてそのまま時間がたって、いずれは幽霊ホロウとしての機能を停止させて、……新しいロストチャイルドの仲間になるということなのだろう)
「……かげろうちゃんはいつも失敗ばかりしているのろまな私をかばってくれて、自分が無理をして怪我をしたり、一緒に頑張ってたくさんいろんなお勉強をしたんですけど、私と一緒にテストで悪い点数をとってしまったときは、自分が私を遊びにさそったからとか、いろんな言い訳をして、ひまわりお母さんに『私のために嘘をついて』、私をいつもかばってくれて、自分だけがお仕置き部屋につれていかれてしまって、よくひまわりお母さんから体中がぼろぼろになるような、とてもひどいお仕置きをうけていました。……でも、いつも笑っていて、これくらいの傷なんて全然たいしたことないよって、傷だらけの顔で言って、ずっと泣いてばかりいる私のことをいつも大丈夫だよって言って、すごく励ましてくれたんです。そんなすごく優しい男の子なんです」とかげろうのことを話しながら、ひかりちゃんはなんだかとっても珍しいまるで小さな男の子に恋をしている小さな普通の女の子みたいな幸せそうな顔をしていた。
そんなひかりちゃんの恋をしている女の子の顔を見て、まめまきはおもしろそうにその大きな瞳を一瞬だけ猫目にしてにやっと笑うと、(みちびきもわざとらしく『どきどき』と言っていた)「あれあれ。もしかして、ひかりちゃん。そのかげろうくんのことが、……好きなの?」と(いやらしい顔をして)まめまきは言った。
「え? ……あ、違います!! まめまきさん! かげろうちゃんは大切な頼りになるたった一人の友達です。ずっと一緒にいてくれた、私の、とっても、とっても大切な幽霊ホロウの友達なんです! だから、……えっと、そういう意味で好きではありません!!」と恥ずかしそうにもじもじしながらも、きっぱりと、その綺麗な顔を真っ赤にしながらまめまきに向かって強く否定しながら、ひかりちゃんは言った。
『まめまき。ひかりちゃんを恋のお話でからかっているような余裕は今の私たちにはありませんよ』と(冷静な声で、わざとらしく)みちびきが言う。
「もう、まめまきさん! 怒りますよ!」と(顔を真っ赤にしたまま)もう怒っているひかりちゃんが言う。
「ごめん、ごめん、つい、ね。あんまり明るい話題がなかったからさ。ちょっと楽しくなっちゃった」とまめまきはひかりちゃんに(あまり反省していない顔をして、小さく舌を出して)あやまった。
二人と一緒にいるつばさちゃんはそんな二人の会話を物音をたてないように気を付けながら、(そうするようにまめまきに言われていた)大人しく(でも、すごく興味のありそうな顔をして)くすくすと小さく笑いながら聞いていた。
「じゃあ、話をもどして、ひかりちゃん。星屑ってなに?」とまめまきは言う。
「街の隅っこのほうにある大きなゴミ捨て場のことです。星屑に捨てられてしまったかげろうちゃんはそのままひっそりとひまわりお母さんから見つからないようにしてそのまま星屑で隠れて暮らしているんです」とひかりちゃんは言った。
「なるほどね。だいたい状況はわかった。まだ無事な幽霊ホロウがいるのなら、みんなでかげろうを助けにいこう。でもね、その前にひかりちゃん。大切なことだから一度、確認させてほしいんだけど、隠れている幽霊ホロウの友達はかげろうが最後でいいんだね? もう、ほかにどこかに隠れている幽霊ホロウの友達はいないんだね?」とまめまきは言った。
……まあ、いくらなんてもぞろぞろと幽霊ホロウの子供たちを何人もつれて、幽霊ホロウの街から脱出することは難しいだろう。もっとも、もし幽霊ホロウの子供たちが本当にたくさんいるのだとしたら、みんながこの幽霊ホロウの街のどこかに隠れて生きているのなら、どんなことをしても全員無事にこの地獄から助け出して見せるけど……。
「はい。そうです。幽霊ホロウとしてこの幽霊ホロウの街で暮らしているのは、私がずっと会いたかった地下に隠れていたつばさちゃんをのぞけば、……私とかげろうちゃんの二人だけです。私たちはずっと二人で手をとりあって生きてきました」と言って、ひかりちゃんはその星のある大きな瞳に(きっとかげろうのことを思い出して)大粒の(きらきらとした)涙を浮かべた。




