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『みずあめ。こまは君の体がさっきからずっとその顔や体に当たっていて、すごく困っているみたいだよ』
こまが首から下げている発掘士用のタブレットの中から、人工知能のさいころが(こまがいえないことを)言った。
「え!?」
とさいころの言葉で、みずあめが自分の体をこまの顔や体に押し付けるようにして、ぎゅっと力強く抱きしめていることに気がついて、「あ!! ごめんなさい、こまちゃん!! 気が付かなくって、大丈夫!? 迷惑だった!? 息とかすごく苦しかった!?」と、すごく真面目なみずあめは本当に心から心配しているといった顔をして(早口で)こまに言った。
「いえ、別に大丈夫です」
と、(なるべくいつも通りの声で)こまは大丈夫だとみずあめに言ったけど、次の瞬間、こまの鼻の穴から赤い血がたらりと流れ落ち始めた。その赤い血はぽたぽたとこまの服の上に落ちた。こまは鼻血を出してしまったのだ。
「え!? あ、こまちゃん!! 大丈夫!? 鼻血!! えっと、ちょっとまってね!!」
そう言ってみずあめは慌てて発掘士の作業用のズボンのポケットの中からティッシュを取り出すと、すぐにこまの小さな鼻にその真っ白なティッシュを数枚出して押し当てるようにした。(鼻のあたりのティッシュはすぐに真っ赤になった)
「ふふ。なにやってるのよ、みずあめ!! 人の運転のことを随分と危ない危ないって言っておいて、あんたのほうが全然、こまちゃんに迷惑かけてるじゃん!!」
嬉しそうな顔でにやにやしながらしてながら、バックミラー越しに二人のやりとりをみていたわたあめが言う。
「わたあめお姉ちゃん!! 私はこまちゃんに迷惑なんてかけてません!! 私はこまちゃんを守ろうとしたんです!! こまちゃんの鼻血は私だけのせいじゃなくて、半分くらいはわたあめお姉ちゃんの運転がむちゃくちゃなせいです!! そのせいでこまちゃんの体調が悪くなっちゃったんですよ、きっと!! ね、こまちゃん!」
と、みずあめは怒った顔のままで、こまの鼻を抑えながら言った。
こまはみずあめに鼻血の出ている自分の鼻をぎゅっと抑えられながら、自分の鼻血のせいでわたあめお姉ちゃんとみずあめお姉ちゃんにご迷惑をかけて申し訳ないと思った。(こまはもういい加減、自分が子供から卒業したいと思っていた。確かに僕はまだ小さな九歳の子供だとは思うけど、木登砂漠発掘隊キャンプのひとりとして、正式なライセンスをもった発掘士として働いているのだから、発掘隊のみんなに迷惑ばかりをかけていてはいけないと思っていたのだ)
それから数分後に永遠に広がっている巨大な砂漠の海の上を暴走するわたあめの運転する多目的カートはちゃんと目的の場所までたどり着いた。
(その到着時間は、場所、時間ともに、とても正確なものだった。あんなに話をしながら運転していたのに、さすがわたあめお姉ちゃんだと自分の専用のタブレットで、その場所と時間を確認して、本当に感心してこまは思った)
約束の場所。
そこは『巨大な黒い鋼鉄製の世界を遮る壁のある場所』だった。
広大な果てのない海のような砂漠の中に突如として出現した地平線の先にまで伸びている鋼鉄製の黒い大きな世界を遮る壁。
その有名な壁をこまはこのとき初めて自分の目で直接、見た。(衝撃的だった)
……これは、本当にすごい。
こんな建造物を本当に人間が、自分たちの力と知恵で、必要だと思って、作り出したんだ。
そんなことを、壁を大きな瞳をしながら体を乗り出すようにして、見ながらこまは思った。
『なんだかすごく、いやな風景だね。この建造物は人間の愚かさの象徴みたいなものだよ。僕たちのような人工知能であれば、絶対にこんな醜い建造物は作ったりはしない。神様はきっと怒ってる。きっといつか人類には『神様のばち』が当たるよ。とっても大きなばちがね』
と、さいころが言った。(こまはそのさいころの言葉を黙ったままで、聞いていた)
多目的カートの運転を終えて、発掘士用の作業着の上着を脱いで、わたあめは上半身だけ、小さめのオレンジ色のビキニのような水着をつけているだけの姿になると、発掘士用の作業着の上着を腰に巻いて、銀色の水筒の水をごくごくと飲んでから、気持ち良さそうな顔をして、額の汗をぬぐってから、「ふうー。おいしい。生き返る」と砂漠の空に輝いている太陽のような眩しい笑顔で言った。




