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「さいころ、起きて」
とんとんとタブレットを指でたたいて、こまは言った。
するとそのこまの声に反応して、(ゆびでたたく必要はない)こま専用の発掘士用のタブレットに青白い光がともった。
『……うーん。やあ、おはよう、こま。まだちょっと眠いや』
そんな眠そうな子供の(クールな)男の子の声で、こま専用の発掘士用のタブレットがこまに言った。(タブレットには『さいころ』の文字が浮かび上がっている)
「うん。おはよう。さいころ」
にっこりと笑ってこまが言った。
こま専用の発掘士用のタブレットの名前はさいころといった。(タブレットに搭載されている人工知能の名前だった)さいころは、こまの発掘士としてのパートナーとなるためにプログラムされた特殊な個人用の人工知能だ。
そんな人工知能のさいころは、今のところ、こまの世界でただ一人の(いつも、世界のどこにいても、ずっと一緒にいてくれる)最高の友達だった。
『それで、どうかしたのかい?』
とまだ眠たそうな声で、さいころは言った。
「散歩に行きたいんだ。一緒に行こうよ、さいころ」と笑いながら、タブレットを見ているこまは言った。
『……砂漠を散歩か。いいね。うん。いいよ。わかった。一緒に行こう』
と嬉しそうな声でさいころは言った。
『実は昨晩は夜遅くまで起きて砂漠の夜空の星を観察していたから、ずいぶんと寝不足でさ、また少し眠いけど、こま。君がそういうのなら、そうしよう。僕たちはいつも一緒だからね。まるでお互いの影のように』
「うん」
さいころの入っているこまの専用のタブレットには青色のひもがつけられている。その青色のひもを自分の首にかけて、(ひもの長さを調整して)胸の前にタブレットをぶら下げるようにして、(それがいつものこまとさいころのお出かけをするときの格好だった)仮設テントの中を出て行った。
「友達が欲しいだ」
なにもない砂漠を『一人』で散歩しながら、こまが言った。こまの歩いたあとには小さなあしあとが一人のぶんだけ残っている。
『なら、それを願えばいい』
さいころが言った。
「え?」
こまはちょっとだけ驚いた顔をして言う。
『君が願い、夢を叶えればいい。それが君にはできる。いいかい、こま。人の見る夢は現実になるんだよ。嘘じゃない。強く願う思いは本当の形になるんだ。君がそうなるように働きかければ、世界は本当に変化する。現実は変えられるのさ。こまの自由自在にね。まるで魔法のように。夢は現実になる』
楽しそうな声で、さいころは言う。
「……僕の、自由自在に」驚いた顔のままで、こまは言う。
『そうさ。その通りだよ。嘘じゃない。僕の言っていることは本当のことさ』さいころは言う。
「僕の願い……」
こまはなにかを深く考えるようにしてそれからしばらくの間、ずっと黙ってしまう。
その間。
さいころは黙ってしまったこまの代わりに歌を歌った。
それは愛を歌った歌だった。(こまの自分の家でむかし、よくこまのお母さんが歌ってくれた、こまのお母さんが大好きな歌だった。さいころはこまがその歌を大好きなことを知っていた)
太陽の輝く砂漠の上にさいころの歌が聞こえる。
暑い砂の地面の上には、こまの小さなあしあとが残っていて、そして、やがてしばらくして、砂漠の上に世界でもっとも清らかな風がゆっくりと吹き始めた。(その風に揺られるようにして、こまのあしあとは少しして消えてしまった)




