19 ロストチャイルド 幽霊は、そこにいる。……ほら、君のすぐ後ろに。
ロストチャイルド
幽霊は、そこにいる。……ほら、君のすぐ後ろに。
その正体不明の物体が(いや、あれは物体ではないのかもしれない)胡桃まめまきの目の前にあらわれたのは本当に突然のことだった。
まめまきは最初、それをなにかの目の錯覚だと思った。(あるいは目の中に焼きついた、青白い放電の光の残像のようなものだと思った)
……でも、それは目の錯覚ではなかった。
それは確かに『そこにいた』。
まずは一体目。(……いや、一人目だろうか?)
その『ぼんやりとした輪郭だけの黄色の発光体』は、まめまきの目の前にあわられると、そのままベーっと思いっきり舌を出して、まめまきに向かって、あっかんべーをした。
そして、そんな不思議な光景を見て、(黒目を細めて)びっくりしているまめまきを見て、その黄色の発光体はげらげらと笑って、それから空を飛んで、そのまま真っ暗な闇の中に消えて行った。
「……い、今のなに!! みちびき、分析は!!」足を止めずにまめまきは言う。
しかし、(なぜだか)みちびきから反応がない。
「みちびき!! どうしたの!? 返事は!!」まめまきは言う。しかし、やはり、みちびきからの返事はなかった。(まめまきはみちびきが怒っているのかと思った)
『……ざ、ざざ……、ま、……まめまき』とみちびきの声がノイズに混ざって、かすかに聞こえた。
……これは、通信電波が妨害されている? もしかして、これがさっきから私の邪魔をしている正体不明の力場の正体なの?
思考するまめまきの周囲にまた、不思議な黄色の発光体が今度は二人(そう。人と呼ぼう。命と呼ぼう)まめまきをはさみ込むようにして、いきなり、本当に突然、なにもない真っ暗な空中にあらわれた。
「お前たちはいったい誰だ!!」
全速力で、目の前を走る白く光る女の子を追いかけながら、まめまきは(怒りの感情をこめて)二人の黄色の発光体に向かって、そう大きな声で叫んだ。
でも、その二人の黄色の発光体は『へへへ』と『ふふふ』とだけしか言わずに、にっこりと楽しそうに笑って、まめまきのすぐ近くにまで、ふわふわと空中を飛んでやってきた。
二人に挟まれると、その不思議な力場は今まで以上に、とても強くなった。
まめまきは自分の体の中の研ぎ澄まされた自分の感覚が少しだけ、ずれてしまうような感じを受け、そして、急に頭がすごく痛くなった。(ずきずきととても強く傷んだ)
『……ねえ、遊んで』
『お願い。私たちと遊んでよ。……お願い』
と、その二人の黄色の発光体はまめまきに言った。(まめまきはぶるっと体をふるわせた)
子供の輪郭をした、空を飛び回る、まるで本物の幽霊のような黄色の発光体。まめまきがその二人の黄色に光る子供たちをじっと頭を抑えながら観察していると(少しでも多くのデータを取るためだ。みちびきはおそらく、通信はできなくても、データの観測はずっとおこなっているはずだった)まめまきを導いてくれている不思議な声が『あのいたずらっ子の悪い幽霊の子供たちは、『ロストチャイルド』たちです。ロストチャイルドに関わっていはいけません。あの子たちに関わると、……まめまきさん。あなたまでもあの子たちと同じように、この真っ暗な闇の中で、ロストチャイルドになってしまいますよ』とそんなことをまめまきに言った。
……ロストチャイルド?
……迷子。
これが、あなたの研究の副産物なの? ひまわり。それとも、これはただの失敗作の集まりなのかな? 私と同じような、いらないもの(いらない子)として、ゴミ捨て場にすれられてしまった、あなたの実験が生み出した失敗作の一つ。それがきっと、あなたたちの正体なんだね。とまめまきは思う。
ぴかっ! という激しい光と、凄まじい轟音とともに、また真っ暗な闇の中に、青白い龍のようなかみなりが走った。
まめまきはかみなりの照らし出す、青白い世界の中で、ロストチャイルドたちを振り切るようにして速度をあげる。
しかし、ロストチャイルドたちは、その数を三つ、四つ、とだんだんと増やしながら、まめまきのあとを追いかけ続けた。
……くそ。これは、逃げ切れいない。
長年の自分のスパイとしてのかんから、まめまきはそんなことを冷静に判断する。そしてまめまきは逃げることをやめて、(思考を切り替えて)ロストチャイルドたちと戦う決意をした。そのころには、まめまきの周囲にいるロストチャイルドの数は二十をすでに越えていた。




