117 世界のはじっこ ねえ、お母さん。うん。なに?
世界のはじっこ
この世界にははじっこがある。大きなそこがみえないくらいに高く、深い切り立った崖のようになっているはじっこがある。丸くなんてない。落っこちる場所がちゃんとあるのだ。そのはじっこから、今暮らしている見知った世界から、落っこちてしまった人は、その崖があまりにも高すぎて、もう二度と、元の世界に戻ってくることはできなくなってしまう。……そんな危ないはじっこが世界にはちゃんとある。(そのことを私は知っていた。……自分の目で見たことがあったからだ)
ねえ、お母さん。うん。なに?
まめまきとひかりちゃんが幽霊列車をおりると、それを待っていたかのようにして、ぶぉー、という大きな音と一緒に、三両編成の幽霊列車の先頭車両の古風な機関車の煙突から煙があがった。(ひかりちゃんはその大きな音に驚いてびくっとした。そのひかりちゃんの驚きがつないでいるひかりちゃんの小さな手からまめまきに伝わってきた)
それからゆっくりと(蒸気を吹き出しながら)幽霊列車は車輪を回して動き出すと、だんだんとその速度を(まめまきとひかりちゃんの見ている前で)あげていった。そして、そのまま幽霊列車は加速して、揺れている薄暗い線路の上を走り出して、その先にある遠くの深い、深い、闇の中に飲み込まれていくようにして、まめまきとひかりちゃんの前から走り去っていってしまった。
ごごご……、という音がして、天井からぱらぱらと小さな石が落っこちてくる。まめまきは(とっても)高い半円形のドームの形をした天井を見上げる。どうやらこの場所も、もう長くはもたないようだった。(ひまわりが言っていた通りに、この地下の世界はもうすぐ終わりを告げようとしているのだ)
「ひかりちゃん。急ごう」まめまきがそう言ってひかりちゃんをみると、ひかりちゃんはじっと幽霊列車の走り去っていった深い、深い暗闇を見ながら、声を出さないようにして、静かに一人で泣いていた。
(……どんなにひどいお母さんだったとしても、ひかりちゃんにとって、あるいはひまわりの実験によって生み出された人工の命である幽霊ホロウの子供たちにとって、ひまわりとお別れをすることは、とてもつらいことなのだと、まめまきにはわかった)
まめまきは泣いているひかりちゃんに気がつくと、そんな泣いているひかりちゃんの小さな体を、しゃがんでぎゅっと抱きしめた。
「ひかりちゃん。泣かないで。大丈夫だよ。ひまわりはいなくなっちゃったけどさ、これからは私がひかりちゃんの新しいお母さんになってあげる。頼りないかもしれないけど、頑張るから、だから、ひかりちゃん。もう泣かないで」と優しい声で(目をつぶりながら、優しいお母さんの顔で)まめまきは言った。
「……はい。ありがとうございます。……まめまきさん」と涙をそのてのひらでごしごしとぬぐいながら、にっこりと笑って、ひかりちゃんは言った。
ごごご……、とまたどこかで建物が崩れる音がした。
揺れは(今まで以上に、さらに)どんどんと大きくなっている。
それからまめまきとひかりちゃんはその大きな揺れの中ではしごをのぼって、まずは地上の古い神殿のような天の川銀河の駅に向かった。




