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第55話 御名

 桜の花びらが舞う、風がなびくと共に舞い上がる。


 その中にあの人は消えていった。


 まるで夢でも見たような感じだ。


 いや、本当にここは夢の中かもしれない……


「夢なら…… 醒めなきゃ…… 」


 その天野の呟きを、久美と美奈が拾うと心配そうな表情を浮かべる。

 その様子を見ていたクニヨシは、フゥとため息を吐くとタカミに声をかけた。


「タカミ、ログアウト出来るか?」


「はい」


 小さくお辞儀をするタカミ。


「頼む」


「了解しました。が、一つお願いがあります」


 その言葉に一同顔をタカミの方に向ける。

 タカミの横には先ほどの新しいAIの姿。


「彼女に名前を授けて下さい」


 タカミはそれだけ言うと、周りの景色は研究室へと戻った。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「名前を決めたいと思います!」


 研究室に戻っての第一声がそれであった。

 声の出所は久美である。

 そして彼女とその隣の美奈は、目をランランと輝かせている。


「そんな事よりも…… 」


 天野が今回の事を(まと)めようと、話を切り出そうとするが「はぁ? そんな事? 」と言う久美の言葉と眼光でかき消されてしまう。

 そんなやりとりの中で、クニヨシが頭を掻きながら提言する。


「名前を決める上でも、これまでの事を(まと)めようぜ」


 それから四人はそれぞれの立ち位置に、どことなくデジャヴを感じながら、議論を進めた。

 そして数刻が過ぎる……


「アマテラスしか無いって!」


「いや、わかるけど」


 久美の主張に、反論する天野。

 先ほどから数回、同じ議論を繰り返している。


「なによ、これほど合う名前なんか無いと思うけど」


「いや、でも日本の最高神の名前だぞ、畏れ多いというか…… 」


「なによ! 彼女(新しいAI)も言ってたじゃない『天』に『照らし合わせた』存在であると! 美奈ちゃんの『太陽神』のイラストを元にしてるし照美さんの姿でもあるでしょう!」


 分は久美の方にあるようだ。

 美奈もその名前で決まり! の表情を(かも)し出している。

 クニヨシはどうでもいい的な態度を見せているが、まんざらでもないようだ。


「他に何か候補あるわけ?」


 久美は天野に向かいフンスッと鼻息荒く問いただす。


「少し文字って「テンショウ」とか「テンテル」とか…… 」

 

 最後の声は段々と小さくなっていく。


「テルテル坊主じゃ無いんだし! 却下よ! 却下!」


 先ほどから久美に怒られまくりの天野である。

 その中で、天野は以前の久美に戻ったみたいだと感じていた。


「なあ、天野」


 クニヨシの声がかかる。


「俺も悪くない、むしろ良い名と思うんだが、何か問題あるのか?」


 それに対して、天野は自分が気になることを、みんなに説明し出した。


「うん、笑われるかも知れないけど、エデン世界で思ったんだ。って言うか感じた事なんだけど、エデンシステムに移行した途端、現実世界なのか仮想世界か分からなくなって。量子コンピューター『天』の特質からその名前を付けちゃうと、こっちかあっちの世界が消えちゃうのかな!って…… 」


「そんな事あるわけ無いじゃない」


 天野の言葉に呆れ顔で言う久美横で、クニヨシは真剣な表情で言う。


「つまり『天』のドッペルゲンガー現象が起きるかもってか…… 」


「荒唐無稽って事は自分でも分かるけど…… 気になって…… 」


 真剣に対応するクニヨシに久美はビックリする様に言う。


「ちょっと、タッキーも本気なの!?」


「実際にそんな事が起こるとは思えねぇ」


「なら…… 」


 久美の言葉にクニヨシが言葉を被せる。


「だが、このシステムを創造した本人が言ってんだ。久美、天野がこんなシステム作った事を、昔の自分だったら信じられるか?」


「それは…… 今でも信じられないくらいだけど…… 」


 クニヨシの言うことが、もっともらしく聞こえはじめて、久美の口調は辿々しくなる。


「でも…… 」


 それでも納得出来ない久美が声を出そうとした時、クニヨシが言う。


「別のアマテラスって事にしないか?」


「別の?」


「ああ、こっちの世界とは別の世界のアマテラス。言うなれば「異なる世界のアマテラス」。それを改めて『別天照(コトアマテラス)』ってのはどうだ?」


「「!!」」


 クニヨシの提案に全員が目を見開く。


「これなら問題無いんじゃないか?」


「「賛っ成!!」」


 女性陣二人は声を同時に上げて賛同する。


「どうだ? 天野」


「うん…… それなら…… 」


 他に問題は無いか、気になる事は無いかを考えつつ、特に何も思いつかず、反対するような意見も出てこないので了承の言葉を口にする。


「じゃあ決定ね。タカミを呼びましょう」


「お呼びでしょうか?」


 久美の弾むような声と同時にタカミが姿を表す。

 既に潜んでいたのではないか? と思えるほどのタイミングだ。


「あの新しいAIを呼んでくれるかしら。名前が決まったの」


 久美は全く気にならない様子でタカミに言う。


「かしこまりました」


 タカミが言うと、隣に光の粒子が舞い上がり、そこから新しいAIが姿を現す。

 照美姉さんの姿で、笑みを浮かべて。


「呼び出した理由はわかるよね」


 久美の質問に「はい」と答えると、久美は顔を天野の方に向ける。

 そして、天野に向かって(こっち来なさいよ! )とばかりに袖を振った。

 

(振り袖だけに、袖を振ってんな…… )

  

 クニヨシがそんな時を思っている中、天野は間抜けな声を出す。


「え?」


「え? じゃないわよ! あなたじゃなきゃ意味無いでしょう!」


「あ、ああ…… 」


(なんで、自分かなぁ?)と言うのを体で表しながら、向かう天野。


「ごめんねぇ〜、ちょっと早くしてよ」


 久美は彼女(新しいAI)に謝りながら、天野をせっつく。

 彼女(新しいAI)はニコニコと笑顔を浮かべながら「いいえ」と答えると、身体を天野に向かって真っ直ぐに向ける。


 その彼女(新しいAI)の姿に、天野は少しばかりの戸惑いを見せる。

 照美姉さんの思い出が浮かぶ。


(ああ、この笑顔は…… )


 思い浮かべる照美姉さんの笑顔と、彼女(新しいAI)の笑顔が重なろうとした時、かしこまった声が響く。


「創造主様。名付けを…… 」


 それには思わず天野は顔を背けた。


「…… その前に」


「?」


 可愛らしく首を傾げる彼女(新しいAI)


「その…… 創造主ってのを止めてくれないか」


「では、お父さまとお呼びしてもよろしいでしょうか?」


「なっ!!」


 顔を赤くし、驚きの表情を表す。


プッ! 


クッククッ!


 背中越しに笑い声が聞こえる。

 明らかにクニヨシと久美のものだ。


「よっ、良かったなぁ〜天野…… ククッ…… ムッ、娘が出来て…… プックク」


 からかうクニヨシ。


「むっ、娘なんかいてたまるか!」


 顔が赤いまま、クニヨシに向かって抗議をした天野だったが、それを聞いた彼女(新しいAI)がシュンと寂しげな表情をする。


「ちょっと! ひどいじゃないトナチム!」


 久美が声を上げる。

 声と言葉にビックリした表情をする天野。


「あなたの言っている事は間違っていないからね。ただの照れ隠しで言っているだけだから」


 久美は彼女(新しいAI)に近付き、あやすように語りかける。


「この人はね、昔からデリカシーとか持って無くて…… ごめんね」


 久美はある意味天野を無視して、必死になって彼女(新しいAI)を慰めている。

 その慰めに応えるように、彼女(新しいAI)は久美に言った。


「解析の結果、そのような人物とは分かっていましたので…… 」


 この発言には、全員が目を点にさせるものがあったが、天野は我にかえるとクニヨシに顔を向ける。


「何気に彼女(新しいAI)。酷いこと言うよな」


「間違ってねえじゃん」


 素で答えるクニヨシに文句を言おうとした時に、久美の声がそれを引き止める。


「そんな事より、トナチム!」


 顔を向けると、腕を腰に当て(何やってるの? )とばかりの睨みつける久美の姿と、先ほどまでの笑顔の彼女(新しいAI)がいる。


「あ…… うん…… 」


 頭を少し下げつつ、彼女(新しいAI)に向かう天野。


「それじゃあ…… 名付けを…… 」


「はい」


 素直に答える彼女(新しいAI)を前に、逃げ出したくなるくらいの恥ずかしさを持つが、もはや逃げ出す度胸も無い。


 意を決して、言葉を乗せる。


「貴女の名前は『別天照(コトアマテラス)』」


「『別天照(コトアマテラス)』……」


「〈コト〉は〈異なる世界〉の略称で〈アマテラス〉は〈(アマ)〉と〈照らし合わせる〉から来ている…… 」


 天野は名の由来を説明する。


「そして、このアマテラスは…… 」


「現存の神様の御名を私にお与え下さいましたのですね」


 彼女(コトアマテラス)はゆっくりと、しかしハッキリと声を出した。


「あ…… ああ」


 天野の情けない返事に呼応するかのように、隣のタカミが天野に語りかけてきた。


「素晴らしい名をお与え下さいまして、ありがとうございます。マスター私からも少しばかり報告がございます」


「何だ?」


「はい、私を含めカムス様、アシカビ様は今後、直接エデンシステム上で行われるシミュレーションの処理には関与しません」


 その言葉に目を開く、だが天野は瞬時に理解した。


「それは…… 彼女(コトアマテラス)か?」


「はい、今後は彼女(コトアマテラス)が今までの私達以上の働きを見せるでしょう。そして、私達は彼女(コトアマテラス)を補佐すべく、この世界の情報を適切に解析処理していく事になります」


「いなくなる訳じゃ無いんだよな…… 」


「はい、どちらかと言えば私は以前のようにマスターの生活をサポートする事となります。その上でこの世界を今以上に知りたいと思っています」


 感じからすれば、エデンシステムの第一線からは退くが、後方支援を行う様なものになるらしい。

 必要のないシステムは切り離す『天』の特性から、初めは〈タカミがいなくなるのでは? 〉と焦ったが、話を聞く限りそうでは無いらしい。

 その事にホッとした表情を浮かべる。

 その様子を見ていたコトアマテラスが、天野に語りかける。


「素晴らしき御名を授けて下さいまして、誠にありがとうございます。今後、この名に恥じぬ働きをして見せます。()()()()


「ちょっ!!…… 」


 天野の言葉は、久美の睨みによって表に出る事は無かった。


新しいAIの名前、アマテラスかコトアマテラスかで、すんごく悩んだ章です。

仮想世界と共に並行世界があるとして、そのどちらをも司るならアマテラスの方がしっくりくる感じがしてました。

ただ、やっぱりそのままだと畏れ多い感じがしたので、コトアマテラスの名でいきました。

別天照コトアマテラスの「別」の字は間違いではありません。別天津神コトアマツカミから頂いております。

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